上 下
84 / 170
第1章

第三十三話 「時間」

しおりを挟む
トントントン。

「大王様、コーヒーをお持ちしました。」

「おぉ、入れ。」

「失礼します。」

ガチャッ……。

「おや、なに読んでるんですか?」

「ん?海賊を題材にした漫画さ。息子に薦められて、読んだらすっごくおもしろくって、もう、五十三巻までいったよ。」

「あだーっ!漫画ですかっ!あの大王様が、珍しく本を読んでいるかと思ったら!はぁ。大王様も、たまには漫画じゃなくて、小説を読んでみたら、いかがです?」

「えー?あれはやだ~。だってぇ、字だらけだもーん。」

「ったくぅ、大王様はそういうところが、王子にそっくりですねぇ。それじゃあ、わたくしは、ここらへんにしときますよ。」

「おう。」

ガチャン。

「さーてと、ルクトがつくってくれたコーヒーを飲むか。」

ズキン!

「ゔ!」

ガッシャーン!

「ゔ……ゔわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。……私は……まだ死にたくない……道華が大きくなるまでは……ゔ……。」

ガチャッ!

「ヒアン様ぁ~、ちょっとぉ、お話があってぇ……!?ヒアン様!?大丈夫ですか!しっかりしてくださいっ!」

ど、どうしよう……意識がない。
よし、ギロさんを呼ぼう!
私はぱっと走り出して、部屋を出た。


                                ☆


「う、う~ん。」

「大王様!よかったぁ、気が付いて。」

「そうか……私はあの時、たおれたのかぁ。」

「……大王様、ちょっとよろしいですか?」

「ん?なんだね。早くして欲しいから、言ってくれ。」

「……真剣に聞いてくださいね。」

「あぁ。」

「……大王様、あなたが生きられるのは、もう、あと2ヵ月です。」

「……ふっ、そうか。」

「なにがおかしいんです!?あと2ヵ月で、あなたはこの世にいられなくなってしまうんですよ!?それでもいいんですか!?」

「……とうとう来たのかぁ。私の物語のクライマックスが。」

「大王様……。」

「息子達に言わないでくれ。言ったら、大変なことになるから。」

「大王様……わかりました。先輩達には、ナイショにしておきます。ところで大王様、真莉亜ちゃんからうれしいお知らせですっ。」

「真莉亜さんから?」

「はいっ!真莉亜ちゃん、決心しましたよ!」

「ま、まさか……。」

「そうですっ!真莉亜ちゃん、ヴァンパイア界の女王になるんですっ!」

「……ふっ、それだと思ったよ、最初っから。」



                               ☆
しおりを挟む

処理中です...