上 下
50 / 170
第1章

第二十話 「もう一度……。」

しおりを挟む
トントントン。

「ネル、私よ。入っていい?」

「……あぁ。」

「じゃ、失礼するわね。」

ガチャッ……。

「久しぶり。」

……あぁ。

「あんた、いつまでそう、くじけるわけ?いいかげんにしなさい。お父さんとお母さんが、心配してるわよ。さぁ、早くこっから出なさい。出ないと一歩も踏み出せないわよ。」

……うっせぇ。
お前に言われたくねぇ。
あたしはこっから出たくないんだ。
ほっといてくれ。

「ほっとくわけいかないでしょ!ほら、起きて!早く!」

もう、人のうでをぐいぐいひっぱるなよぉ。
もう、もう……。

「ほっといてくれよ!」

あたしが泣き叫ぶと、部屋はしーんと静まり返った。

「……はぁ、はぁ。お前も、いいかげんにしろよ。なにこの状況でオシャレして、うちに来んだよぉ!全然かわいくねぇし、KYか!」

「ネル……。」

「それと、それと……。」

あたしは顔を下に向いて、それから、顔を上げた。

「なんであの男と別れなきゃいけなかったんだよぉ!ああん?なにか理由でもあんのかよぉ!」

リリアはそれから、下を向いた。

「ごめんなさい。私が近づくなって、彼に言ったの。」

!?

「な……なんで?」

「……あなたを守るためだから。警察を呼ぶって、言っておいたわ。」

「お前はあたしの母親かっ!」

あたしはあいつの胸ぐらをひっぱった。

「いーかげんにしろよ!あたしがどれだけ、あの男を愛したのか、わかるだろ!?それに、あいつとの子供もいるし!」

あたしは右手でお腹をさわった。

「えぇ、わかるわよ!あなた達の今までの様子を、ちゃんと見ていたわ!けど、あなたはまちがってた!あの人を愛する方法を!」

「まちがっていねぇ!あたし……あたしには、あの男が必要なんだ!あの男がいねぇと、いねぇと、生きていけねぇんだよぉ!」

「……ネル。」

リリアは、あたしをぎゅっと抱きしめた。

「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。私が悪かった。」

あ、謝るのがおせぇんだよぉ!

「もう、あなたは相変わらず、泣き虫ね。」

リリアったらぁ!もう!ほほえむなよぉ!

「さて、これからどうする?」

「……あの男に、会わせてくれ。」

「ネル……。わかったわ。すぐ連絡するから、まっといてね。」

あぁ。
もうすぐ、会えるよ、お父さんに。
あたしはお腹をさわった。


                                    ☆


はぁ、はぁ、はぁ。
ネル、まっててくれよ!
俺様、お前のために、お城まで走ってみせるから!
はぁ、はぁ、はぁ。
ちっ、信号、赤になっちまったよ!
早くしねぇと、時間が……。
するとその時、信号が青になった。
よし、行くぞ!
はぁ、はぁ、はぁ。
つ~!息苦し~い!
ネル、まっててくれよ!
お前に言いたいことがあるから!
家に帰らないでくれよな!
はぁ、はぁ、はぁ。
そして、俺様はやっと、お城の前へ。
ふぅ~。つかれたぁ~。

「ウルフ一郎さん?」

あ、真莉亜ちゃんっ。

「どうしたんですか?」

「ごめん、真莉亜ちゃん!今はそういう場合じゃないんだ!」

俺様は、ぱっと走り出した。

「?」

ネル、ネル、ネル!

「お、おい!どーしたんだよ、お前!」

ネル、ネル、ネル!

「ウルフ一郎様?」

ネル、ネル、ネル!

「ウルフ一郎お兄様っ、一緒に遊んでくださいっ。」

だから今はそういうしている場合じゃねぇんだって!

「?」

ネル、ネル、ネル!

「おや、ウルフ一郎くん。お城の中をそんなに走ったら、だめですよ。」

そんなのわかってるって!
ネル、ネル、ネル!
俺様が通ったあと、ルアンおじさんが、くるくる回った。

「あわわわわ!」

よし、もうすぐだ!

「よっ、ウルフ一郎!」

あ、こいつもいるんだった!
俺様は、キューッとブレーキをかけた。

「どうしたの?そんなにあわてて。」

「あ!あそこに巨大なオムライスが!」

「えー!?どこどこぉ~!?」

よし、今だ!
あ、リリアが見えた!

「リリア!」

「ん?」

俺様はまた、キューッとブレーキをかけた。

「あら。時間通りに来たわね。」

「ネルは!?」

「ちゃんと、まってるわよ。」

ありがとう!
俺様が、ドアを開けようとした、その時。

「まって。」

なんだよぉ。
早く開けたいんだよぉ。

「この間は、ごめんなさい。」

リリアは俺様に向かって、お辞儀をした。
リリア……。

「いいんだよ、リリア。」

「ウルフ一郎……。」

「謝ってくれて、ありがとう。」

俺様はほほえんだ。
そして、ドアを開けると……。
黒い髪に、ポニーテール。美人でお腹がふっくらしている女が、窓から外を眺めていた。

「ネル!」

「ウルフ一郎!」

感動の再会に、俺様達はだきあい、そして、熱いキスを交わした。

「……会いたかったよ。」

「あたしも。会いたかったよ、ウルフ一郎。」

ずっと?

「あたり前だろ。ずっと、お前のことしか考えてなかった。」

俺様もだ。
ずっと、お前のことしか考えてなかった。
それに、この子のことも。
俺様は、ネルのお腹をさわった。

「うふふ。こいつも会いたがってたよ、お前に。」

そっかぁ。

「……ネル、一つ、話があるんだ。」
 
「話?」

あぁ。
とても大切な話。

「なんだなんだ?早く話してくれ。」

わかったよぉ。そんなに人をせかすな。
俺様は、深呼吸をして、それから、懐から、なにかを取り出した。

「なんだよ、それ。」

「いーから広げてみろ。」

「お、おう。」

ネルがそのなにかを広げると……。

「!?こ、これって……。」

「そう。婚姻届だ。」

「は……はぁ、こ、こんなもん、渡すのって、まさか……。」

「そう。俺様と、結婚して欲しいんだ。」

「!?」

ネルは口をふさいだ。
なんて言えばいいか、わからないようだ。

「驚かせてごめん。これは、本気なんだ。お前と一緒に、しあわせに暮らしたい。お前だけじゃない。お腹の子も一緒に。三人で仲良く暮らしたいんだ!ずっと、これからも、歳を取ってもずっと!だからネル、結婚してくれ!」

俺様は、ネルの方に手をさしのべた。

「ウルフ一郎……。」

すると、ネルは俺様の手をにぎった。

「顔を上げろ。」

え……?
俺様は顔を上げた。
ネルのやつ、泣いてる……。

「いいよ。あたしと結婚して、いいよ。」

「ネル……。」

「これからもよろしくな、ウルフ一郎。」

「お、おう!」

俺様は、二ッと笑った。
また、新たな道が開ける……。
だが、俺様は、また同じ悲しみを繰り返すことになることを、まだ知らなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ヴァンパイア♡ラブどっきゅ〜ん!

田口夏乃子
恋愛
ヴァンパイア♡ラブセカンドシーズンスタート♪ 真莉亜とジュンブライトは、ついにカップルになり、何事もなく、平和に過ごせる……かと思ったが、今度は2人の前に、なんと!未来からやってきた真莉亜とジュンブライトの子供、道華が現れた! 道華が未来からやってきた理由は、衝撃な理由で!? さらにさらに!クリスの双子の妹や、リリアを知る、謎の女剣士、リリアの幼なじみの天然イケメン医者や、あのキャラも人間界にやってきて、満月荘は大騒ぎに! ジュンブライトと静かな交際をしたいです……。 ※小学校6年生の頃から書いていた小説の第2弾!amebaでも公開していて、ブログの方が結構進んでます(笑)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...