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第1章

第四話 「私、産みたくない」

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「真莉亜ちゅわ~ん♡おかゆ、持って来たよ~ん♡」
 
ウルフ一郎さん!わざわざありがとうございます。
 
「いいえ~♡ささ、あーん、しよっ。」
 
「あ―ん。」
 
ぱくっ。
 
「ん~♡ほっぺがとろけるぅ~♡」

「やっぱ君は、かっわい~♡」

えへへへへ。

「おい。」

ウルフ一郎さんが後ろを振り返ると……。

「ロ、ロンゲヤロー!」

「まあた人の嫁さんを独り占めしやがって!ゆるさん!」

「い、いいじゃねぇかよ、別に。」

「よくない!」

「ジュンブライト、ウルフ一郎さんは私のために来てくれたんだよ!」

「あ、そ。じゃあ、ゆっくりして行ってくださーい。」

「なんだよ、その言い方は!」

もう、やめてください!

「はーい♡」

「ところで、彼女とはどーしてるんだ。」

「だから2年前から会ってねぇって言っただろう!」

あ、そーいえば……。

「どうしたんだ?」

「昨日、街に行ったら、野菜屋さんで、ネルさんらしい人がいたんです。」

「えっ!?」

「顔はわからなかったけど、ポニーテールで、背が172cmあって、刀を持っていて、髪の色は黒でした。」

「ネルはきっと、ここに来ているかもしれねぇ!」

「……、」

ウルフ一郎さん、どうしたんですか?急にだまりこんで。

「あ、いや、なんでもないっ。」

ふーん。

「……。」

ジュンブライトが、ウルフ一郎さんをじーっと見つめた。
ゔ!

「どうしたんだ!?真莉亜!」

は……吐きそう。

「バカオオカミ!洗面器を持って来い!」

「わかった!」

ウルフ一郎さんは、急いで洗面器を持ってきた。

「持って来たぜ!」

「おぉ!サンキュー!」

「オェー!」

私は洗面器に向かって吐いた。
ジュンブライトは、吐き続ける私の背中をこすった。

「オェー!」

「真莉亜ちゃん、ひょっとして、つわりがひどい方?」

「あぁ。」

「オェー!」

「真莉亜!しっかり!」

「オェー!」

もう、きつい……。

「オェー!」

自分がどんどん、苦しむ……。

「オェー!」

ガチャッ!

「お妃様の容体は!」

「また吐いてしまったんだ!」

「オェー!」

「吐き気止めの薬は!?」

「ありますよ。」

先生が、にっこり笑いながら、薬を見せた。

「ふぅ、よかったぁ~。」

「……はぁ、はぁ。」

「真莉亜、一回、うがいして。で、薬を飲もう。」

うん……。
私はこくりとうなずいた。


                                      ☆


薬は飲んだけど、また吐いちゃった。
もうこれで、何回目だろ。

「真ー莉亜っ。」

わ!もう、びっくりさせないでよぉ。

「アハハハハ。ごめんごめん。」

「ところで、もう大丈夫なの?具合は。」

う~ん、わかんないです。

「妊婦さんは大変ですね。」

「あたり前だ。お前もいつか、経験すっぞー。」

「えー?いやですぅ。つわりは痛いし、きつそーだしぃ。」

「マドレーヌ、それを乗り越えなければ、赤ちゃんなんて、産めないぞ。」

「兄さん。マドレーヌは誰にもやりませんから。」

「すっごい親バカだなぁ、こいつ。」

「……。」

「どうしたんだ?真莉亜。」

……私、不安なの。
この子を無事産めるのかって。

「真莉亜……。」

今、もう限界が近づいてきてる。
吐くし、頭痛がくるし、目まいがして、たおれるし。
本当にバカだよ。

「ネガティブな真莉亜ちゅわん、初めて見た。」

「私、産みたくない。」

「えっ……。」

「もう、いやなの。自分を苦しめるの。だって、16だもん。こんな経験をするのが、まだ早かった。もうちょっと大人になってから、妊娠したかった。もう、これ以上、がまんできない。先生、おろしてください。そしたら、自分は自由になれるはず……。」

「バカなこと、言ってんじゃねぇ!」

ジュンブライトが怒鳴ると、部屋が静まり返った。
ジュンブライト……。

「なにが自由になれるだ!ふざけるんじゃねぇ!この子の命をうばう気か!とぼけるんじゃねぇ!たった2ヶ月の命を放置しようとするなんて!お前がつくりたいって言ったから、つくってできた子供だろーが!お前はそんなにあきらめるとこ、俺は初めて見たぜ!だから!俺がお前の苦しみを、しっかり受け止める!死んでも、しっかり受け止めてやる!だから、二度と、産みたくないとか、ネガティブなこと、言うなよな!」

ジュンブライト……。
私の目に、涙があふれてきた。

「……そうだよね。ちゃんと、前を向いてなきゃ、だめだよね。」

「あぁ。」

「……ごめんね。マイナスなことを言って。」

「いいんだ。真莉亜さん、気にしないで。レオンもそうだった。体が元々弱かったため、つわりがひどく、あきらめかけていた。だが、私の言葉にはげまされ、レオンは産むことを決意した。」

そうなんですかぁ。

「赤ちゃん、ごめんね。マイナスなことを言って。」

私はお腹をさわった。
ビクッ。
あ、動いた!

「えっ!?うそ!どらどら。」

ジュンブライトが、お腹の音を聞いてきた。
ビクッ。

「あ、動いた!」

「うふふふふ。赤ちゃ―ん、早く生まれて来てくだちゃいねぇ~。まってまちゅよぉ~。」

私はそう言いながら、お腹をさわった。
あなたが生まれて来るまで、お母さんらしくするからね。

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