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第三十二話 「ルクトさんの元カノ、登場!」
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「なぁ真莉亜、お前の好きな人はやっぱ、バカ院ハヤテか?」
ジュンブライトが質問してきた。
な・・・・・・なんで質問するの!?てか、ハヤテくんの苗字は、伊集院ですっ!あ、ジュンブライト、やきもち焼いてるんだぁ。
「ち・・・・・・ちげーよ!やきもちなんか、この俺が焼くかっつーの!」
ウフフ。顔、真っ赤になってる。
「なってねぇよ!」
はいはい。でも、私の本命は、ジュンブライトだよ。
「んじゃあ、ジュンブライトは、好きな人、いるの?」
「い・・・・・・いねぇよ!」
まあた、顔、赤くなってるし。おや?あそこでじろじろしているおばあさん、何してるんだろ。
「どれどれ?」
ジュンブライトと私は、おばあさんの方をじーと見た。
しらがで、服は真っ黒のエプロンみたいなものを着ていて、髪型は京花と一緒。あと、とんがった耳をしているし、ヴァンパイアかな?
「ちょっと、行ってみよう。」
私とジュンブライトは、おばあさんのところまで歩いた。
「すみませーん。」
私が声をかけると、おばあさんは私達の方を見た。
「なにか、探してるんですか?」
「家。」
は?家?
「古びたのお屋敷のこと。ねぇあなた達、案内してくれない?」
あ、はい。てか、お屋敷って、ジュンブライト達の家じゃん。
「いいぜ、おばあちゃん!俺の家だから、案内するぜ!」
ジュンブライトが二カッと笑うと、おばあさんも二カッと笑い返した。
「ありがとう。そんな人間がいるとあたし、うれしいよ。」
おばあさん、ジュンブライトは人間ではないんですけど・・・・・・。
ま、いっか。
-1分後ー
「着きましたよ、おばあさん。」
「うわぁー。なんてでっかいお屋敷でしょー。あたし、感激したよ。」
おばあさんが、お屋敷を、目をキラキラしながら、みつめている。
ガチャ。
「じいやー、客が来たぞー。」
「はいはーい、ただいまー。」
ルクトさんの声が、遠くから聞こえてきて、ルクトさんがやって来た。
「ようこそ。わたくしは、ルクトともうします・・・・・・え?」
ガチャーン。
ルクトさんはおばあさんを見て、目が点になった。それとともに、紅茶が入っていたティーカップを、落とした。
一体、どうなってるの~!?
「え?」
おばあさんも、ルクトさんを見て、目を点になってるし。
すると、ルクトさんの目から、涙があふれてきた。
「ルー。」
おばあさんの目からも、涙があふれてきた。
「ルクト。」
そして二人は、だきついちゃった。
「久しぶりです、ルー。」
「本当。五十二年ぶりね、ルクト。」
え?え?
「一体、何があったんですか?」
あ、マドレーヌちゃん。それがね、私にも全然、わからないんだよ。
「誰?あのおばあさん。また、ルクトが知っている人?」
リリアさん。あの人、ルーさんって、いうらしいよ。
すると、ルクトさんとルーさんは、だきあうのをやめて、私達の方を向いた。
「これは失礼しました。この人は、ルーといって、元ヴァンパイア歌劇団の男役の、トップスターです。」
ヴァンパイア歌劇団って、宝塚のパクリでは?
「ちなみに、わたくしの元カノです。」
ルクトさんの元カノか~。へぇ・・・・・・って。
「え~!?」
私達は、声をそろえた。
「本当か!?んじゃあ、二人であーしたり、こーしたりしたのか!?」
ジュンブライト!妄想しすぎだよっ。
「キスはしましたか!?」
マドレーヌちゃんも!
「デートしてたの!?」
そんなリリアさんが、そんなこ興味あったなんて、知りませんでした。
「し・・・・・・失礼な!そんなこと、誰がしますかっ!」
ルクトさんの顔、まっかっかになってる。
「したよ。」
え~!?本当ですか、ルーさん!
「もちろん。キスしたり、あーしたり、こーしたり、デートまでしたよ。」
ジュンブライト達が言ったこと、妄想ではなかった!
「さぁ、お茶でもして、お話しましょう。」
「うん。」
二人とも、本当の本当に、カップルだよ。
☆
テーブルの上には、紅茶、焼きたてのクッキー、チョコレートケーキがおいてある。
「こちら、人間の春間真莉亜様です。」
あ、よろしくお願いします。春間真莉亜です。
「人間と友達になりたいと、生まれた時から、そう思ったよ。よろしく。」
「続いて、ヴァンパイア界の大王、ヒアン様の息子、ジュンブライト様です。」
「よろしく。ジュンブライトだ。」
ところが、ルーさんはジュンブライトの顔を見て、目がまた点になった。
「えぇ!?ヴァンパイアだったの!?あたし、人間かと思ったぁ。はぁー。もうボケてしまったから、もう歳だねぇ。」
ルーさん、歳、過ぎてるんじゃないでしょうか。
「続いて、ヒアン様の弟、リアン様の娘、マドレーヌ様です。」
「あらぁ。かわいいねぇ。よろしくね。」
「最後は、マドレーヌ様のしつじ、リリア様です。」
「よろしく。」
「リリア様は普段、ヴァンパイアキャットのお姿で「いられます。」
その話を聞いたルーさんは、びっくりした。
「えぇ!?リリアちゃん、ヴァンパイアではないんだ!今日は、不思議なこと、ばっかりだねぇ。」
「ところでルー。君はなぜ、人間界に来たんですか?」
あ!私も気になる!
ルーさんは、「ゴホン!」と、言って、話し始めた。
「あたし、鏡屋で新しい鏡を探したんだよ。そしたらものすごーくきれいな鏡があって、購入したんだよ。ところがさぁ、家で髪を結ぶと、鏡が光って、吸い込まれてしまって、人間界に来てしまったんだよ。けどあたし、気づいたんだ。なんと、人間界にルクトがいるっていうこと!けれど、家が全然、見つからなかったんだよ。」
それで、「家」って、言ったんだぁ。あの時。けれど、鏡でヴァンパイア界とつながってるんだ。
「はい。人間界とヴァンパイア界は、鏡でつながっております。」
だから、ジュンブライトのやかたが、現れたんだ。
「ところでルー様。ルクトじいや様との過去の話を聞かせてください!」
満面な笑顔で、マドレーヌちゃんが言った。
「私も気になります!」
「俺も!」
「私も!」
するとルーさんは、私達の顔を見て、笑った。
「いいよ。今から、五十二年前のことだった。その時あたしは、べっぴんで、歌劇団の男役のトップスターだった。」
-五十二年前ー
あー。歌の練習、マジきつい。
マーガレット先生の歌の練習、マジ厳し~。
なので、学校を逃げ出しました~。あと、校訓も破りましたぁ。
え?校訓はどんなやつかって?それは・・・・・・。
一、歌劇団の者は外出禁止。なお、許可書を書いて提出すればいい。
一、お菓子、ジュース持ち出し禁止。太ったら歌劇ファンに迷惑かかるので。
そして、もっともやばいのが・・・・・・。
一、恋愛禁止。破った者は歌劇団をやめさせる。
まるで、AKBみたーいっと思ってるでしょ?てか、AKBって、なに?
これを破った人、何人かいたよ~。仲良しだった子が、破って、やめさせられたんだ。
ま、あたしは恋愛なんて興味ゼロ。女子力もゼロ。
今はこの広い広ーいお庭でおひるねして、何もかも忘れること。
そんじゃあ、おやすみ~。
2分後
ふぁー。よくねたぁ。
ぎゃあー!灰色のなにかが光ってる~!
「大丈夫ですか?」
男の子だった。
かわいくて、スーツを着て、おまけにちょうネクタイまでついている。
灰色のなにかって、男の子の目だったんだ~。
って、なにが大丈夫よ。
「僕、お庭で青虫のサンドウィッチを食べようとしたら、そこであなたがたおれているのを見て・・・・・・。」
あの~。あたし、たおれていませんですけどぉ。ただ、おひるねしていただけなんですけどぉ。
「あ!そうでしたか。すみません、僕のかんちがいでした。」
男の子は、深々とあたしの前で、土下座してきた。
名前、聞こっかなぁ?んーや!歌劇団の男役トップスターが、そんなこと、するもんか!
恋愛なんて、興味ゼロのあたしが、名前なんか・・・・・・。
「あの。名前は、なんていうんですか?」
聞くもんか。
男の子が、あたしの名前を聞くけどー!?
ざけんじゃねぇよ!あたしはそういうの、聞かないタイプだから。
けど、言おうっかな?
あたしの右側に、あたしそっくりな悪魔が出てきた。
「ねぇ、名前、言わない方がいいと思うよ。」
「あたしもそう思う。だって、歌劇団の男役の、トップスターだもん。」
「だよな~。」
悪魔が、あたしに二カッと笑って、ささやいてきた。
「だよね~。」
あたしもニカッと笑い返して、悪魔にささやいた。
てかあたし、悪魔の味方してるし。
今度は、左側に、あたしそっくりな天使が出てきた。
「あの。名前、聞いた方ががよろしいですよ。」
「なんで?」
あたしと悪魔が、声をそろえた。
ちょっと!じゃましないでよ!
「そうよ!」
「名前を聞くと、あなたの人生はすっごくなりますよ。」
なにを言ってるか、全然・・・・・・。
「ふん。なにがすっごくなりますよーだ!こいつは、歌劇に集中してんだよ!歌劇に!」
「でもいいんですか?歌劇団の男役トップスターが、そんなことをせず、帰るんなんて。もし聞いたら、女子力、恋愛に興味を持ち、それが、upしますよ。」
なーにが、upになりますよーだ!トップスターは、恋愛と女子力に興味を持つと、かっこ悪いんですよー。
あたしは天使に、あっかんべーをした。
「そうだそうだ!」
「そんな恋愛現象は、起こりませんよ。神はあなたを必ず、導いてくれますよ。」
すると、悪魔が天使にはむかった。
「うるせぇー!神神神神うるせぇんだよ!こいつには、神じゃない、えんま大王がやどってんだよ!」
「あなたもそう、はむかってよろしいでしょうか?」
「あぁ!あたしは、悪魔だからな!」
「悪魔さん、あなたは悪魔でも、人に優しくする心はありま・・・・・・。」
「せーんだ!お前、人の話じゃますんじゃねぇぞ!」
もう、イライラ「してくる。
この二人、一体、何しに来たか、わからん。
「うるさーい!」
「ひっ。」
あたしの大きな声で、悪魔と天使がポンっと消えた。
「あ・・・・・・あたし、ルー。ヴァンパイア歌劇団の男役トップスターよ。」
あたし、なに顔、赤くなってんの~!?
「いい名前だね。僕はルクト。しつじ協会で働いています。」
ルクト・・・・・・。いい名前だね。しつじになりたいんだ。
「はい。おととい、人間界に修行してきました。去年まで。」
「あ、ごめん。」
かわいい~♡あたし、カワイイ系の男子、大好きなんだよね~♡
すると、広場の時計のチャイムが、鳴り始めた。
えっと・・・・・・あー!もう、4時!寮に戻る時間!
「ねぇ。青虫のサンドウィッチ、食べる?とっても、おいしいよ。」
あたし、大好物だけど、帰るね!
あたしは、ルクトをほっといて、ダッシュで歌劇団の寮へと走った。
☆
歌劇団の学校の学園長室前。あたしは呼び出された。
それにしても、赤いレッドカーベットがよく目立つなぁ。
学園長のイブ先生、こわーいよぉ。
校訓と、公演を失敗した時、呼び出されて、長い長ーい説教があるんだよぉ。
あたし、ここ来たの、これで九回目。
一回目は、女役のドレスをやぶったこと、二回目は、人間界で人気の『トムとジェリー』のDVDを、見たこと・・・・・・。
「ルー、入りなさい。」
ドアが開いた。しかも、勝手に。超能力ヴァンパイアだもん、この人。
「お入りなさい!」
うわぁ。こっわ~。
あたしは、学園長室に足をガタガタふるわせて、一歩一歩、部屋へと入った。
部屋の壁には、歴代学園長先生の写真がある。
その九代目、学園長こと、イブ先生。
イブ先生は、トレードマークは丸い眼鏡で、白髪で、背が高くて、長ーいドレスを着ている。
なんと、イブ先生は、元黒組トップスターなんだ!
「ぼぉーとしてないで、早くおすわり!」
あ、は・・・・・・ひぃぃぃぃ!体が勝手に動いて、イブ先生のところまで向かってるぅ!
これぞ、超能力ヴァンパイアの力!
ふぅ~。やっととまったぁ。
へ?今度はいすにすわってるぅ!
しかも、イブ先生の前だよ、前!
おそるべし、超能力!
さぁ、もう用なんてないから、帰ろ。
あ・・・・・・あれ?全然、離れない・・・・・・。
「まだ終わってないよ。話が終わるまで、いすにすわったままだよ。」
え~!?そんなぁ~。
「その前に、お茶をしながら、説教したいわねぇ。」
がくっ。もうお茶をしながら、説教聞くの、あきました。
「そうかい?」
人の心、読んだよ、この人!
「私は、あきないねぇ。」
先生が指をカチッと鳴らした。
え、え、え~!?やかんとコーヒーカップが、宙にうかんでるぅ!
学園長、やっぱあんたはすごいよ!
宙にうかびながら、紅茶を入れてるし、やっぱすんげぇよ!
「はい。」
あ・・・・・・ありがとうございます!では、すべての超能力に感謝をこめて、いただきます。
ごくっ。
う・・・・・・うんまーい!あたし、超能力ゔアンパイアに生まれてくればよかったぁ。
「さぁ、お楽しみの説教の時間に、行こうか。」
学園長が、眼鏡を上げて言った。
あー!説教のこと、忘れてしもうたー!
さぁ、なんてごまかせばいいんでしょうか。
「外出の許可書、提出しなかったねぇ。」
「それは、まぁ、許可書がどこにあるか、わかりませんでしたから。」
「本当かい?」
学園長の眼鏡の奥の黒い目が、ギラリと光った。
「本当ですぅ。あたしの顔に、『うそ』という字が、かかれていませんよぉ。」
だって、提出するの、めんどくさいもーん。
「提出するのがめんどくさい?」
なぬ!?人の心、勝手に読んだのか!この学園長!
「ふざけたことをいうんじゃないよ!あんた、とっぷすたーだろうが!めんどくさーいという言葉、口に出すんじゃないよ!」
あたしは目が点になった。
学園長、マジキレして、立っているよぉ。
「どこにいたんだね、こんな時間に!」
おひるねしてましたよ、広い広ーいお庭で。
「おひるね?まあたあんた、ふざけてるねぇ。トップスターのくせに校則、破って。ミミが探してたよ!「ルーがいません。」って。」
ミミっていう子は、あたしの幼なじみで、一緒の寮の部屋に住んでる。仲が良いんだよ~、ミミとは。
「もしまた校則を破ったら、トップスターをやめさせてもらうよ!」
えぇ~!?マジっすか!
「マジだよ。」
そんなの、いや~!
だってトップスターをやめたら、うちの両親はどう思うか。
うちの家族、音楽一家だもん。母はピアニストで、父はギターリスト。
あたしが歌劇団に入れたのは、両親のおかげ。あと、ミミもね。
あたし、トップスター、やめたくないよぉ!
☆
「ルー!今日のあなたはおかしいですよ!ダンス、まちがってるじゃないの!」
「あ、はい!」
今日のあたし、ダンス、まちがってんじゃん!
昨日、超能力を見とれたせいか!?
あと3日で『名探偵ホームズ』の公演なのにぃ!
あたしはホームズ役なのにぃ!
「今日のレッスンはここまで。ルー、今日のダンス、ちゃーんとふくしゅうして来なさい。」
「はいっ!」
そして、マーガレット先生は、レッスン室を出た。
「ルー。昨日、怒られたでしょ?」
ミミ!
「聞いたよぉ。「だって、提出するの、めんどくさいもーん。」って。」
あ!こいつも、超能力ヴァンパイアだった!
「あらあら。昨日、勝手に外出した、トップスターさん。」
あたし達の前に、真っ黒い影が現れた。
「マリー!」
マリーはあたしのライバル。大金持ちの娘で、髪はポニーテールで、目はするどくて、黒組の男役。
歌劇団で女子力がいいのは、マリーだけ。あたしはマリーの女子力はあんまり、いいとは思わない。
ちなみにマリーは、劇でモリアーティー教授役。だって悪役、なんでも似合うもん。マリーは。
「校則をまた破ったら、トップスターをやめさせるって、言われたでしょ?ま、もしあなたがまた破ってやめさせたら、私が、トップスターになるわ。その時を、楽しみにしているわ。」
「なんだと!?」
あたしは、マリーをなぐろうとした。
すると、ミミがあたしのわきをつかんだ。
「だめよ、ルー!歌劇団の校訓、覚えてる?」
校訓・・・・・・あ!
一、友に暴力をふるわない。・・・・・・だ!
あたしはその言葉を思い出して、なぐるのをやめた。
「ふっ。なぐればよかったのに。」
マリーがささやいて、レッスン室を出た。
あいつ、あたしがトップスターになってから、すっごく、にくんで、さっきみたいなことを、言い出したんだ。
ちょーむかつく~。
「気にしなくていいよ。マリーの言い方が、悪いから。」
ミミがほほえんだ。
そうだよね。あたしが、悪くはないよね。悪いのは、マリーだし。
「さぁ、朝食の時間だから、食堂に行こ。」
うん!
あたし達は、誰もいないレッスン室を出た。
☆
今日のメニューは・・・・・・。ねずみの丸焼きと、ちょうちょのムニエルと、いも虫とかえるの血のソース煮と、デザートは、あたしが大好きな、干しがえる!ん~、どれもおいしそ~♡
くん、くん、くん、くん。ん~!かえるの血が、だんだんただよってくるぅ!
あと、もう少し・・・・・・。
「ありがとね~。」
来たー!ついに、あたしの昼飯がー!
「はい。ルーちゃん。」
食堂のおばちゃんが、あたしに差し出したのは、バケット。
え?メニュー、違うんじゃあ・・・・・・。
「さっき、男の子が「ルーさんに。」って、渡したから。ちょうネクタイとスーツを着てたから、しつじ協会の子だったよ。」
しつじ協会・・・・・・ルクトさんが!?
あたしは、バケットをもって、テーブルのいすにすわった。
ルクトさん、今日はお仕事、休みだったのかな?
「ルー!そのお弁当、まさか自分でつくったの!?」
バケットを見て、ミミが驚いた。
違うよ。てかあたし、料理下手だから。
「じゃあ、誰につくってもらったの!?」
まあだ、驚いているよ。
しつじ協会のルクトっていう人。カワイイ系のイケメンで、将来は立派なしつじになるらしいよ。
「カワイイ系!?」
なによ、驚いて。
「坂本九に、そっくりだった!?」
はぁ?誰よそれ。
「知らないの!?人間界の歌手だよ!」
あたし、人間界の有名人、あんたみたいにくわしくないから。
「あの人も、カワイイ系だよ!」
へぇー。今度、調べておくから。
それより、バケットの中には、なにが入ってるんだろ?
あたしはバケットを開けた。
中にはなんと、あたしの大好物、青虫のサンドウィッチが、どっさり!
その上には、手紙が一枚置いてあった。
なんだろ?
「開けてみな。」
うん。あたしは手紙を開けた。
<ルーさんへ 昨日、君が大好物っと言っていた、青虫のサンドウィッチをつくっておいたよ。 できれば、そのバケットをもってきて、夜の八時に満月谷に来て欲しい。 ルクトより>
意外と字、きれいじゃん。
・・・・・・満月谷って、あの満月がでっかく見える谷のこと?
「そうだよ。それが?」
ううん。なんでもない。
あたしは首を振った。
なんでルクトさん、満月谷に来て欲しいって、言うんだろ。
きっと、なんか理由でもあるのかな・・・・・・。
でも、外出する前に、許可書を出さなくちゃ。
トップスター、やめさせられる。
「早く食べないと、サンドウィッチ、くさるよ。」
そうだった!せっかくルクトさんがつくったあたしの、青虫のサンドウィッチちゃんが、くさってしまう・・・・・・。
「いただきまーす!」
あたしはサンドウィッチを口にぱくっと入れた。
ん~。うま~い!油で焼いた青虫がおいし~い!それに、ブラックペッパーの香りも、こうばし~い♡
ルクトさん、ありがと~♡
☆
夜の八時のヴァンパイア界。
暗いなぁ、森。
あたし、許可書提出して、「どこに行くのかい?」って、言われなかったよぉ。
満月谷はもう少しだし・・・・・・。夜の森は、こわ~い。
バサッ。
ひぃぃぃぃぃ!
なんだぁ、ふくろうがとんでいたのかぁ。
「カー、カー、カー!」
ひぃぃぃぃぃ!
なんだぁ、カラスかぁ。
森をぬけ出し、ついに満月谷に到着~。
崖のてっぺんに、満月がでっかくみえるのが、満月谷。
崖を登るのは、こわいから、とんで見よ~。
あたしの背中に、黒い翼が、バサッとはえた。
そしてあたしは、満月谷へと向かってとんだ。
下を見るの、こわいなぁ。
でも、あたしはヴァンパイアだから、そんなの気にしない、気にしなーい・・・・・・。
ヒュー。
キャー!風に吹きとばされたぁ!
「ルーさーん!」
その声は・・・・・・。
「ルクトさん!」
ルクトさんが、あたしのわきをつかんだ。
え、え、え~!?ちょっと!離してぇ!
「なんで?」
あたし、こういうの、苦手。
「ごめん。谷に着くまで、我まんして。」
うん。
ドキドキ。
うわ!心臓の音がヤバー!
もしかして、女子力もない、恋愛が興味ないあたしに、まさか・・・・・・。
って、そんなわけ、ないっしょ。
「さぁ、もう着いたよ。」
うわぁ。満月、でかっ!
そして、あたしたちは無事、谷に着陸。
うわぁ~。やっぱ空をとんだ時の景色より、今着陸した満月の景色がいい~。
「ここ、始めて来たんだ!」
あたしはルクトさんの方を振り返り、にこっと笑った。
そしたらルクトさんの顔は、リンゴみたいに赤くなっていた。
「僕は・・・・・・、仕事で失敗した時、ストレス発散でここに来てるんだ。」
あれ?あたし、ライバルとのけんかでイライラがなくなってきたなぁ。
「それ、ストレス発散だよ。」
ルクトさんがあたしににこっと笑ってきた。
・・・・・・かわいい。
って、なに顔、赤くなってんのよ、あたし!
「じゃあ、あたしもストレス発散のために、ここ、来ようかな。」
あたしがルクトさんににこにこと笑いかけると、ルクトさんはまた、顔がリンゴみたいに赤くなって、後ろを振り向いた。
「そ・・・・・・そうしていただければ、いいよ。」
と、ささやいた。
なーんか、あやしい。
ここにあたしを呼び出すのも、あやし~い。
リンゴみたいに赤くなるのも、あやし~い。
青虫のサンドウィッチを届けるのも、あやし~い。
あ!バケットを返すの、忘れてた!
あたしは、ルクトさんにバケットを返すと、ルクトさんは後ろを向いたまま、右手を出して、ぱっとバケットを取った。
やっぱり、あやしーい。
「あ・・・・・・あの!満月、とてもきれいだねっ。」
「そうだね。」
ほら、あやしい。
恋愛興味ゼロ、女子力ゼロのあたしに、声をかけるなんて、あやしい。
「ねぇ、好きな人、いる?」
え!?いや~。そんなの、いないよ、ルクトさん。
「ルクトでいいよ。ルーさん。」
ルーでいいよ。ルクト。ところで、ルクトは好きな人は・・・・・・。
「いるよ。」
え!?誰、誰!?
すると、ルクトがぐいっとあたしの手をぐいっと引っぱって・・・・・・。
チュ。
キスをした。
えっ、えっ、えっ、えぇ~!?
ルクトがあたしの唇を離した。
「君だよ。」
えっ、あたしなの?なんで?
「僕、初めて君を見た時、一目ぼれしたんだ。」
一目ぼれ~!?
「あたし、そんなにかわいくないよ。だって、恋愛に興味ないし、女子力はないし・・・・・・。それに、うちの歌劇団は恋愛禁止だし・・・・・・。」
「僕と付き合ってくださいっ!」
へ?今、なんて?
「付き合ってください!」
え~!?
「ごめんなさい!」
あたしは思いっきり、頭を下げた。
「あたし、さっき「うちの歌劇団は恋愛禁止。」って、言ったでしょ?それを破ると、歌劇団をやめさせられるの。付き合うのは、あたしが卒業してからして・・・・・・。」
「今しかダメなんだ!」
ルクト・・・・・・。
ルクトの目が、うるうるしている。
「どうしても、どうしてもダメなんだ・・・・・・。卒業する365日をまてないよ。 僕のわがままだけど。」
ルクトの目から、涙が出てきた。
「あーあ。」
あたしの声で、ルクトはなくのをやめた。
「しょうがない。付き合うか。恋愛も女子力ないあたしだけど、いい?」
あたしがにかっと笑うと、ルクトはにこっと笑った。
「よろしく、ルー。」
こちらもねっ。
☆
ジュンブライトが質問してきた。
な・・・・・・なんで質問するの!?てか、ハヤテくんの苗字は、伊集院ですっ!あ、ジュンブライト、やきもち焼いてるんだぁ。
「ち・・・・・・ちげーよ!やきもちなんか、この俺が焼くかっつーの!」
ウフフ。顔、真っ赤になってる。
「なってねぇよ!」
はいはい。でも、私の本命は、ジュンブライトだよ。
「んじゃあ、ジュンブライトは、好きな人、いるの?」
「い・・・・・・いねぇよ!」
まあた、顔、赤くなってるし。おや?あそこでじろじろしているおばあさん、何してるんだろ。
「どれどれ?」
ジュンブライトと私は、おばあさんの方をじーと見た。
しらがで、服は真っ黒のエプロンみたいなものを着ていて、髪型は京花と一緒。あと、とんがった耳をしているし、ヴァンパイアかな?
「ちょっと、行ってみよう。」
私とジュンブライトは、おばあさんのところまで歩いた。
「すみませーん。」
私が声をかけると、おばあさんは私達の方を見た。
「なにか、探してるんですか?」
「家。」
は?家?
「古びたのお屋敷のこと。ねぇあなた達、案内してくれない?」
あ、はい。てか、お屋敷って、ジュンブライト達の家じゃん。
「いいぜ、おばあちゃん!俺の家だから、案内するぜ!」
ジュンブライトが二カッと笑うと、おばあさんも二カッと笑い返した。
「ありがとう。そんな人間がいるとあたし、うれしいよ。」
おばあさん、ジュンブライトは人間ではないんですけど・・・・・・。
ま、いっか。
-1分後ー
「着きましたよ、おばあさん。」
「うわぁー。なんてでっかいお屋敷でしょー。あたし、感激したよ。」
おばあさんが、お屋敷を、目をキラキラしながら、みつめている。
ガチャ。
「じいやー、客が来たぞー。」
「はいはーい、ただいまー。」
ルクトさんの声が、遠くから聞こえてきて、ルクトさんがやって来た。
「ようこそ。わたくしは、ルクトともうします・・・・・・え?」
ガチャーン。
ルクトさんはおばあさんを見て、目が点になった。それとともに、紅茶が入っていたティーカップを、落とした。
一体、どうなってるの~!?
「え?」
おばあさんも、ルクトさんを見て、目を点になってるし。
すると、ルクトさんの目から、涙があふれてきた。
「ルー。」
おばあさんの目からも、涙があふれてきた。
「ルクト。」
そして二人は、だきついちゃった。
「久しぶりです、ルー。」
「本当。五十二年ぶりね、ルクト。」
え?え?
「一体、何があったんですか?」
あ、マドレーヌちゃん。それがね、私にも全然、わからないんだよ。
「誰?あのおばあさん。また、ルクトが知っている人?」
リリアさん。あの人、ルーさんって、いうらしいよ。
すると、ルクトさんとルーさんは、だきあうのをやめて、私達の方を向いた。
「これは失礼しました。この人は、ルーといって、元ヴァンパイア歌劇団の男役の、トップスターです。」
ヴァンパイア歌劇団って、宝塚のパクリでは?
「ちなみに、わたくしの元カノです。」
ルクトさんの元カノか~。へぇ・・・・・・って。
「え~!?」
私達は、声をそろえた。
「本当か!?んじゃあ、二人であーしたり、こーしたりしたのか!?」
ジュンブライト!妄想しすぎだよっ。
「キスはしましたか!?」
マドレーヌちゃんも!
「デートしてたの!?」
そんなリリアさんが、そんなこ興味あったなんて、知りませんでした。
「し・・・・・・失礼な!そんなこと、誰がしますかっ!」
ルクトさんの顔、まっかっかになってる。
「したよ。」
え~!?本当ですか、ルーさん!
「もちろん。キスしたり、あーしたり、こーしたり、デートまでしたよ。」
ジュンブライト達が言ったこと、妄想ではなかった!
「さぁ、お茶でもして、お話しましょう。」
「うん。」
二人とも、本当の本当に、カップルだよ。
☆
テーブルの上には、紅茶、焼きたてのクッキー、チョコレートケーキがおいてある。
「こちら、人間の春間真莉亜様です。」
あ、よろしくお願いします。春間真莉亜です。
「人間と友達になりたいと、生まれた時から、そう思ったよ。よろしく。」
「続いて、ヴァンパイア界の大王、ヒアン様の息子、ジュンブライト様です。」
「よろしく。ジュンブライトだ。」
ところが、ルーさんはジュンブライトの顔を見て、目がまた点になった。
「えぇ!?ヴァンパイアだったの!?あたし、人間かと思ったぁ。はぁー。もうボケてしまったから、もう歳だねぇ。」
ルーさん、歳、過ぎてるんじゃないでしょうか。
「続いて、ヒアン様の弟、リアン様の娘、マドレーヌ様です。」
「あらぁ。かわいいねぇ。よろしくね。」
「最後は、マドレーヌ様のしつじ、リリア様です。」
「よろしく。」
「リリア様は普段、ヴァンパイアキャットのお姿で「いられます。」
その話を聞いたルーさんは、びっくりした。
「えぇ!?リリアちゃん、ヴァンパイアではないんだ!今日は、不思議なこと、ばっかりだねぇ。」
「ところでルー。君はなぜ、人間界に来たんですか?」
あ!私も気になる!
ルーさんは、「ゴホン!」と、言って、話し始めた。
「あたし、鏡屋で新しい鏡を探したんだよ。そしたらものすごーくきれいな鏡があって、購入したんだよ。ところがさぁ、家で髪を結ぶと、鏡が光って、吸い込まれてしまって、人間界に来てしまったんだよ。けどあたし、気づいたんだ。なんと、人間界にルクトがいるっていうこと!けれど、家が全然、見つからなかったんだよ。」
それで、「家」って、言ったんだぁ。あの時。けれど、鏡でヴァンパイア界とつながってるんだ。
「はい。人間界とヴァンパイア界は、鏡でつながっております。」
だから、ジュンブライトのやかたが、現れたんだ。
「ところでルー様。ルクトじいや様との過去の話を聞かせてください!」
満面な笑顔で、マドレーヌちゃんが言った。
「私も気になります!」
「俺も!」
「私も!」
するとルーさんは、私達の顔を見て、笑った。
「いいよ。今から、五十二年前のことだった。その時あたしは、べっぴんで、歌劇団の男役のトップスターだった。」
-五十二年前ー
あー。歌の練習、マジきつい。
マーガレット先生の歌の練習、マジ厳し~。
なので、学校を逃げ出しました~。あと、校訓も破りましたぁ。
え?校訓はどんなやつかって?それは・・・・・・。
一、歌劇団の者は外出禁止。なお、許可書を書いて提出すればいい。
一、お菓子、ジュース持ち出し禁止。太ったら歌劇ファンに迷惑かかるので。
そして、もっともやばいのが・・・・・・。
一、恋愛禁止。破った者は歌劇団をやめさせる。
まるで、AKBみたーいっと思ってるでしょ?てか、AKBって、なに?
これを破った人、何人かいたよ~。仲良しだった子が、破って、やめさせられたんだ。
ま、あたしは恋愛なんて興味ゼロ。女子力もゼロ。
今はこの広い広ーいお庭でおひるねして、何もかも忘れること。
そんじゃあ、おやすみ~。
2分後
ふぁー。よくねたぁ。
ぎゃあー!灰色のなにかが光ってる~!
「大丈夫ですか?」
男の子だった。
かわいくて、スーツを着て、おまけにちょうネクタイまでついている。
灰色のなにかって、男の子の目だったんだ~。
って、なにが大丈夫よ。
「僕、お庭で青虫のサンドウィッチを食べようとしたら、そこであなたがたおれているのを見て・・・・・・。」
あの~。あたし、たおれていませんですけどぉ。ただ、おひるねしていただけなんですけどぉ。
「あ!そうでしたか。すみません、僕のかんちがいでした。」
男の子は、深々とあたしの前で、土下座してきた。
名前、聞こっかなぁ?んーや!歌劇団の男役トップスターが、そんなこと、するもんか!
恋愛なんて、興味ゼロのあたしが、名前なんか・・・・・・。
「あの。名前は、なんていうんですか?」
聞くもんか。
男の子が、あたしの名前を聞くけどー!?
ざけんじゃねぇよ!あたしはそういうの、聞かないタイプだから。
けど、言おうっかな?
あたしの右側に、あたしそっくりな悪魔が出てきた。
「ねぇ、名前、言わない方がいいと思うよ。」
「あたしもそう思う。だって、歌劇団の男役の、トップスターだもん。」
「だよな~。」
悪魔が、あたしに二カッと笑って、ささやいてきた。
「だよね~。」
あたしもニカッと笑い返して、悪魔にささやいた。
てかあたし、悪魔の味方してるし。
今度は、左側に、あたしそっくりな天使が出てきた。
「あの。名前、聞いた方ががよろしいですよ。」
「なんで?」
あたしと悪魔が、声をそろえた。
ちょっと!じゃましないでよ!
「そうよ!」
「名前を聞くと、あなたの人生はすっごくなりますよ。」
なにを言ってるか、全然・・・・・・。
「ふん。なにがすっごくなりますよーだ!こいつは、歌劇に集中してんだよ!歌劇に!」
「でもいいんですか?歌劇団の男役トップスターが、そんなことをせず、帰るんなんて。もし聞いたら、女子力、恋愛に興味を持ち、それが、upしますよ。」
なーにが、upになりますよーだ!トップスターは、恋愛と女子力に興味を持つと、かっこ悪いんですよー。
あたしは天使に、あっかんべーをした。
「そうだそうだ!」
「そんな恋愛現象は、起こりませんよ。神はあなたを必ず、導いてくれますよ。」
すると、悪魔が天使にはむかった。
「うるせぇー!神神神神うるせぇんだよ!こいつには、神じゃない、えんま大王がやどってんだよ!」
「あなたもそう、はむかってよろしいでしょうか?」
「あぁ!あたしは、悪魔だからな!」
「悪魔さん、あなたは悪魔でも、人に優しくする心はありま・・・・・・。」
「せーんだ!お前、人の話じゃますんじゃねぇぞ!」
もう、イライラ「してくる。
この二人、一体、何しに来たか、わからん。
「うるさーい!」
「ひっ。」
あたしの大きな声で、悪魔と天使がポンっと消えた。
「あ・・・・・・あたし、ルー。ヴァンパイア歌劇団の男役トップスターよ。」
あたし、なに顔、赤くなってんの~!?
「いい名前だね。僕はルクト。しつじ協会で働いています。」
ルクト・・・・・・。いい名前だね。しつじになりたいんだ。
「はい。おととい、人間界に修行してきました。去年まで。」
「あ、ごめん。」
かわいい~♡あたし、カワイイ系の男子、大好きなんだよね~♡
すると、広場の時計のチャイムが、鳴り始めた。
えっと・・・・・・あー!もう、4時!寮に戻る時間!
「ねぇ。青虫のサンドウィッチ、食べる?とっても、おいしいよ。」
あたし、大好物だけど、帰るね!
あたしは、ルクトをほっといて、ダッシュで歌劇団の寮へと走った。
☆
歌劇団の学校の学園長室前。あたしは呼び出された。
それにしても、赤いレッドカーベットがよく目立つなぁ。
学園長のイブ先生、こわーいよぉ。
校訓と、公演を失敗した時、呼び出されて、長い長ーい説教があるんだよぉ。
あたし、ここ来たの、これで九回目。
一回目は、女役のドレスをやぶったこと、二回目は、人間界で人気の『トムとジェリー』のDVDを、見たこと・・・・・・。
「ルー、入りなさい。」
ドアが開いた。しかも、勝手に。超能力ヴァンパイアだもん、この人。
「お入りなさい!」
うわぁ。こっわ~。
あたしは、学園長室に足をガタガタふるわせて、一歩一歩、部屋へと入った。
部屋の壁には、歴代学園長先生の写真がある。
その九代目、学園長こと、イブ先生。
イブ先生は、トレードマークは丸い眼鏡で、白髪で、背が高くて、長ーいドレスを着ている。
なんと、イブ先生は、元黒組トップスターなんだ!
「ぼぉーとしてないで、早くおすわり!」
あ、は・・・・・・ひぃぃぃぃ!体が勝手に動いて、イブ先生のところまで向かってるぅ!
これぞ、超能力ヴァンパイアの力!
ふぅ~。やっととまったぁ。
へ?今度はいすにすわってるぅ!
しかも、イブ先生の前だよ、前!
おそるべし、超能力!
さぁ、もう用なんてないから、帰ろ。
あ・・・・・・あれ?全然、離れない・・・・・・。
「まだ終わってないよ。話が終わるまで、いすにすわったままだよ。」
え~!?そんなぁ~。
「その前に、お茶をしながら、説教したいわねぇ。」
がくっ。もうお茶をしながら、説教聞くの、あきました。
「そうかい?」
人の心、読んだよ、この人!
「私は、あきないねぇ。」
先生が指をカチッと鳴らした。
え、え、え~!?やかんとコーヒーカップが、宙にうかんでるぅ!
学園長、やっぱあんたはすごいよ!
宙にうかびながら、紅茶を入れてるし、やっぱすんげぇよ!
「はい。」
あ・・・・・・ありがとうございます!では、すべての超能力に感謝をこめて、いただきます。
ごくっ。
う・・・・・・うんまーい!あたし、超能力ゔアンパイアに生まれてくればよかったぁ。
「さぁ、お楽しみの説教の時間に、行こうか。」
学園長が、眼鏡を上げて言った。
あー!説教のこと、忘れてしもうたー!
さぁ、なんてごまかせばいいんでしょうか。
「外出の許可書、提出しなかったねぇ。」
「それは、まぁ、許可書がどこにあるか、わかりませんでしたから。」
「本当かい?」
学園長の眼鏡の奥の黒い目が、ギラリと光った。
「本当ですぅ。あたしの顔に、『うそ』という字が、かかれていませんよぉ。」
だって、提出するの、めんどくさいもーん。
「提出するのがめんどくさい?」
なぬ!?人の心、勝手に読んだのか!この学園長!
「ふざけたことをいうんじゃないよ!あんた、とっぷすたーだろうが!めんどくさーいという言葉、口に出すんじゃないよ!」
あたしは目が点になった。
学園長、マジキレして、立っているよぉ。
「どこにいたんだね、こんな時間に!」
おひるねしてましたよ、広い広ーいお庭で。
「おひるね?まあたあんた、ふざけてるねぇ。トップスターのくせに校則、破って。ミミが探してたよ!「ルーがいません。」って。」
ミミっていう子は、あたしの幼なじみで、一緒の寮の部屋に住んでる。仲が良いんだよ~、ミミとは。
「もしまた校則を破ったら、トップスターをやめさせてもらうよ!」
えぇ~!?マジっすか!
「マジだよ。」
そんなの、いや~!
だってトップスターをやめたら、うちの両親はどう思うか。
うちの家族、音楽一家だもん。母はピアニストで、父はギターリスト。
あたしが歌劇団に入れたのは、両親のおかげ。あと、ミミもね。
あたし、トップスター、やめたくないよぉ!
☆
「ルー!今日のあなたはおかしいですよ!ダンス、まちがってるじゃないの!」
「あ、はい!」
今日のあたし、ダンス、まちがってんじゃん!
昨日、超能力を見とれたせいか!?
あと3日で『名探偵ホームズ』の公演なのにぃ!
あたしはホームズ役なのにぃ!
「今日のレッスンはここまで。ルー、今日のダンス、ちゃーんとふくしゅうして来なさい。」
「はいっ!」
そして、マーガレット先生は、レッスン室を出た。
「ルー。昨日、怒られたでしょ?」
ミミ!
「聞いたよぉ。「だって、提出するの、めんどくさいもーん。」って。」
あ!こいつも、超能力ヴァンパイアだった!
「あらあら。昨日、勝手に外出した、トップスターさん。」
あたし達の前に、真っ黒い影が現れた。
「マリー!」
マリーはあたしのライバル。大金持ちの娘で、髪はポニーテールで、目はするどくて、黒組の男役。
歌劇団で女子力がいいのは、マリーだけ。あたしはマリーの女子力はあんまり、いいとは思わない。
ちなみにマリーは、劇でモリアーティー教授役。だって悪役、なんでも似合うもん。マリーは。
「校則をまた破ったら、トップスターをやめさせるって、言われたでしょ?ま、もしあなたがまた破ってやめさせたら、私が、トップスターになるわ。その時を、楽しみにしているわ。」
「なんだと!?」
あたしは、マリーをなぐろうとした。
すると、ミミがあたしのわきをつかんだ。
「だめよ、ルー!歌劇団の校訓、覚えてる?」
校訓・・・・・・あ!
一、友に暴力をふるわない。・・・・・・だ!
あたしはその言葉を思い出して、なぐるのをやめた。
「ふっ。なぐればよかったのに。」
マリーがささやいて、レッスン室を出た。
あいつ、あたしがトップスターになってから、すっごく、にくんで、さっきみたいなことを、言い出したんだ。
ちょーむかつく~。
「気にしなくていいよ。マリーの言い方が、悪いから。」
ミミがほほえんだ。
そうだよね。あたしが、悪くはないよね。悪いのは、マリーだし。
「さぁ、朝食の時間だから、食堂に行こ。」
うん!
あたし達は、誰もいないレッスン室を出た。
☆
今日のメニューは・・・・・・。ねずみの丸焼きと、ちょうちょのムニエルと、いも虫とかえるの血のソース煮と、デザートは、あたしが大好きな、干しがえる!ん~、どれもおいしそ~♡
くん、くん、くん、くん。ん~!かえるの血が、だんだんただよってくるぅ!
あと、もう少し・・・・・・。
「ありがとね~。」
来たー!ついに、あたしの昼飯がー!
「はい。ルーちゃん。」
食堂のおばちゃんが、あたしに差し出したのは、バケット。
え?メニュー、違うんじゃあ・・・・・・。
「さっき、男の子が「ルーさんに。」って、渡したから。ちょうネクタイとスーツを着てたから、しつじ協会の子だったよ。」
しつじ協会・・・・・・ルクトさんが!?
あたしは、バケットをもって、テーブルのいすにすわった。
ルクトさん、今日はお仕事、休みだったのかな?
「ルー!そのお弁当、まさか自分でつくったの!?」
バケットを見て、ミミが驚いた。
違うよ。てかあたし、料理下手だから。
「じゃあ、誰につくってもらったの!?」
まあだ、驚いているよ。
しつじ協会のルクトっていう人。カワイイ系のイケメンで、将来は立派なしつじになるらしいよ。
「カワイイ系!?」
なによ、驚いて。
「坂本九に、そっくりだった!?」
はぁ?誰よそれ。
「知らないの!?人間界の歌手だよ!」
あたし、人間界の有名人、あんたみたいにくわしくないから。
「あの人も、カワイイ系だよ!」
へぇー。今度、調べておくから。
それより、バケットの中には、なにが入ってるんだろ?
あたしはバケットを開けた。
中にはなんと、あたしの大好物、青虫のサンドウィッチが、どっさり!
その上には、手紙が一枚置いてあった。
なんだろ?
「開けてみな。」
うん。あたしは手紙を開けた。
<ルーさんへ 昨日、君が大好物っと言っていた、青虫のサンドウィッチをつくっておいたよ。 できれば、そのバケットをもってきて、夜の八時に満月谷に来て欲しい。 ルクトより>
意外と字、きれいじゃん。
・・・・・・満月谷って、あの満月がでっかく見える谷のこと?
「そうだよ。それが?」
ううん。なんでもない。
あたしは首を振った。
なんでルクトさん、満月谷に来て欲しいって、言うんだろ。
きっと、なんか理由でもあるのかな・・・・・・。
でも、外出する前に、許可書を出さなくちゃ。
トップスター、やめさせられる。
「早く食べないと、サンドウィッチ、くさるよ。」
そうだった!せっかくルクトさんがつくったあたしの、青虫のサンドウィッチちゃんが、くさってしまう・・・・・・。
「いただきまーす!」
あたしはサンドウィッチを口にぱくっと入れた。
ん~。うま~い!油で焼いた青虫がおいし~い!それに、ブラックペッパーの香りも、こうばし~い♡
ルクトさん、ありがと~♡
☆
夜の八時のヴァンパイア界。
暗いなぁ、森。
あたし、許可書提出して、「どこに行くのかい?」って、言われなかったよぉ。
満月谷はもう少しだし・・・・・・。夜の森は、こわ~い。
バサッ。
ひぃぃぃぃぃ!
なんだぁ、ふくろうがとんでいたのかぁ。
「カー、カー、カー!」
ひぃぃぃぃぃ!
なんだぁ、カラスかぁ。
森をぬけ出し、ついに満月谷に到着~。
崖のてっぺんに、満月がでっかくみえるのが、満月谷。
崖を登るのは、こわいから、とんで見よ~。
あたしの背中に、黒い翼が、バサッとはえた。
そしてあたしは、満月谷へと向かってとんだ。
下を見るの、こわいなぁ。
でも、あたしはヴァンパイアだから、そんなの気にしない、気にしなーい・・・・・・。
ヒュー。
キャー!風に吹きとばされたぁ!
「ルーさーん!」
その声は・・・・・・。
「ルクトさん!」
ルクトさんが、あたしのわきをつかんだ。
え、え、え~!?ちょっと!離してぇ!
「なんで?」
あたし、こういうの、苦手。
「ごめん。谷に着くまで、我まんして。」
うん。
ドキドキ。
うわ!心臓の音がヤバー!
もしかして、女子力もない、恋愛が興味ないあたしに、まさか・・・・・・。
って、そんなわけ、ないっしょ。
「さぁ、もう着いたよ。」
うわぁ。満月、でかっ!
そして、あたしたちは無事、谷に着陸。
うわぁ~。やっぱ空をとんだ時の景色より、今着陸した満月の景色がいい~。
「ここ、始めて来たんだ!」
あたしはルクトさんの方を振り返り、にこっと笑った。
そしたらルクトさんの顔は、リンゴみたいに赤くなっていた。
「僕は・・・・・・、仕事で失敗した時、ストレス発散でここに来てるんだ。」
あれ?あたし、ライバルとのけんかでイライラがなくなってきたなぁ。
「それ、ストレス発散だよ。」
ルクトさんがあたしににこっと笑ってきた。
・・・・・・かわいい。
って、なに顔、赤くなってんのよ、あたし!
「じゃあ、あたしもストレス発散のために、ここ、来ようかな。」
あたしがルクトさんににこにこと笑いかけると、ルクトさんはまた、顔がリンゴみたいに赤くなって、後ろを振り向いた。
「そ・・・・・・そうしていただければ、いいよ。」
と、ささやいた。
なーんか、あやしい。
ここにあたしを呼び出すのも、あやし~い。
リンゴみたいに赤くなるのも、あやし~い。
青虫のサンドウィッチを届けるのも、あやし~い。
あ!バケットを返すの、忘れてた!
あたしは、ルクトさんにバケットを返すと、ルクトさんは後ろを向いたまま、右手を出して、ぱっとバケットを取った。
やっぱり、あやしーい。
「あ・・・・・・あの!満月、とてもきれいだねっ。」
「そうだね。」
ほら、あやしい。
恋愛興味ゼロ、女子力ゼロのあたしに、声をかけるなんて、あやしい。
「ねぇ、好きな人、いる?」
え!?いや~。そんなの、いないよ、ルクトさん。
「ルクトでいいよ。ルーさん。」
ルーでいいよ。ルクト。ところで、ルクトは好きな人は・・・・・・。
「いるよ。」
え!?誰、誰!?
すると、ルクトがぐいっとあたしの手をぐいっと引っぱって・・・・・・。
チュ。
キスをした。
えっ、えっ、えっ、えぇ~!?
ルクトがあたしの唇を離した。
「君だよ。」
えっ、あたしなの?なんで?
「僕、初めて君を見た時、一目ぼれしたんだ。」
一目ぼれ~!?
「あたし、そんなにかわいくないよ。だって、恋愛に興味ないし、女子力はないし・・・・・・。それに、うちの歌劇団は恋愛禁止だし・・・・・・。」
「僕と付き合ってくださいっ!」
へ?今、なんて?
「付き合ってください!」
え~!?
「ごめんなさい!」
あたしは思いっきり、頭を下げた。
「あたし、さっき「うちの歌劇団は恋愛禁止。」って、言ったでしょ?それを破ると、歌劇団をやめさせられるの。付き合うのは、あたしが卒業してからして・・・・・・。」
「今しかダメなんだ!」
ルクト・・・・・・。
ルクトの目が、うるうるしている。
「どうしても、どうしてもダメなんだ・・・・・・。卒業する365日をまてないよ。 僕のわがままだけど。」
ルクトの目から、涙が出てきた。
「あーあ。」
あたしの声で、ルクトはなくのをやめた。
「しょうがない。付き合うか。恋愛も女子力ないあたしだけど、いい?」
あたしがにかっと笑うと、ルクトはにこっと笑った。
「よろしく、ルー。」
こちらもねっ。
☆
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