逍遙の殺人鬼

こあら

文字の大きさ
上 下
319 / 333

320

しおりを挟む
私は潤さんから離れようとした
女性が彼との時間をご所望だと察した上での行動だったのだが、潤さんは腰に回した手を離すどころかより強く力を込めた
そして静かに耳元で「今はでしょ?」と、留まらせる

「悪いですが、女性をひとりにはさせられませんから。」

「あらっ、わたくしは女性ではないのですか?今もひとりですのよ。」

「こんな公の場で人妻に手を出す程、愚かではありません。それにしても、今回はおひとりで参加されたのですね。」

「えぇ、そうですわ。」

女性は手に待っていた紫色の扇子をバサッと広げると、小刻みに揺らし少ない風を出しながら妖艶に口元を隠した









たいして暑くないにも関わらず、扇ぎ、そして瞳を動かし私を見て言った

「もう80ですもの。」

そらさない瞳に、まるでその言葉を私に向けて放しているみたいだ
柔らかさを持ち、同時に薔薇の棘のような鋭利さを持ち合わせている声で、境界線を目の前で引かれたみたいだった

「最近足腰が悪くて。夫の為を思って、ひとりで来ましたのよ。」

「懸命な判断ですね。聡明な証です。」

「まぁ、思ってもいないのにお上手なこと。」

オホホホと笑う女性に微笑みかける潤さん
私はナニが何だか分からず、取り敢えずその場のノリに合わせて笑ってみた

挨拶を終えて次へと移動する
そしてまた次へ

流石潤さん、知り合いが多くて困る
みんな自ら近づいてくるし、話が長い……
(これ…私居なくても良くない?)

ただ隣に居るだけなら私じゃなくても…そう考えてしまう
でなけらば、今頃ギュウ君が何かしら食べ物を持ってきて、それを食していたはず……
そう考えるだけでお腹がすく

「疲れたかい?」

「っえ?」

「何だか顔が暗いから。あいさつ回りは退屈かな?」

「…まぁ、私は知り合いが居ませんから。あと何人どれくらい挨拶するんですか?」

「あとはひとりかな。如月という人でね、少々気の強い人なんだよ。出来れば相手をしたくはないんだけど、パーティーだしね、せっかくだから挨拶ぐらいはしなきゃね。」

「"如月"…」(あれ…、どっかで……)

聞いたような…見たような……
そんな曖昧な気持ちになった

潤さんに促されるまま私は進む
人と人の波を掻き分けて、シャンパンを片手に気分を少し良くした潤さんの逞しい腕に押されて、少し疲れてきた足を動かす

「あの人だよ。」、そうわたしに耳打ちする
その言葉に目をやれば、まるでスローモーションのように人の狭間に見える人物が浮き彫りに再生された
時間は正常に進んでいる
それでも、何故か自分か、自分の回りだけ少し遅く進むこの感じが、私をなんとも言えない気持ちになる

「あら、鳩屋さん。」

「こんばんわ、如月さん。」

彼の存在に気づいて声をかけたのは、相手の方だった
「こんばんわ。」と、まるで業務のような受け答え
潤さんは話を進め、まずは世間話からと特に重要性のない話をした

相手の女性を視界に捉えてから、私の足はまるで会場の床と結合したみたいに止まっている
そう遠くない場所で、会話する2人…ともうひとり

漆黒のように黒いショートカット
真っ赤な唇と、体のラインがはっきりと分かるドレスは色がお揃いで、胸元が強調されている
そして何より、記憶を掘り返すみたいに漂うこの香水の匂いに、私は内臓から何かが逆流するんじゃないかと思うくらい、気持ちが悪かった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...