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私は潤さんから離れようとした
女性が彼との時間をご所望だと察した上での行動だったのだが、潤さんは腰に回した手を離すどころかより強く力を込めた
そして静かに耳元で「今はパートナーでしょ?」と、留まらせる
「悪いですが、女性をひとりにはさせられませんから。」
「あらっ、わたくしは女性ではないのですか?今もひとりですのよ。」
「こんな公の場で人妻に手を出す程、愚かではありません。それにしても、今回はおひとりで参加されたのですね。」
「えぇ、そうですわ。」
女性は手に待っていた紫色の扇子をバサッと広げると、小刻みに揺らし少ない風を出しながら妖艶に口元を隠した
たいして暑くないにも関わらず、扇ぎ、そして瞳を動かし私を見て言った
「もう80ですもの。」
そらさない瞳に、まるでその言葉を私に向けて放しているみたいだ
柔らかさを持ち、同時に薔薇の棘のような鋭利さを持ち合わせている声で、境界線を目の前で引かれたみたいだった
「最近足腰が悪くて。夫の為を思って、ひとりで来ましたのよ。」
「懸命な判断ですね。聡明な証です。」
「まぁ、思ってもいないのにお上手なこと。」
オホホホと笑う女性に微笑みかける潤さん
私はナニが何だか分からず、取り敢えずその場のノリに合わせて笑ってみた
挨拶を終えて次へと移動する
そしてまた次へ
流石潤さん、知り合いが多くて困る
みんな自ら近づいてくるし、話が長い……
(これ…私居なくても良くない?)
ただ隣に居るだけなら私じゃなくても…そう考えてしまう
でなけらば、今頃ギュウ君が何かしら食べ物を持ってきて、それを食していたはず……
そう考えるだけでお腹がすく
「疲れたかい?」
「っえ?」
「何だか顔が暗いから。あいさつ回りは退屈かな?」
「…まぁ、私は知り合いが居ませんから。あと何人挨拶するんですか?」
「あとはひとりかな。如月という人でね、少々気の強い人なんだよ。出来れば相手をしたくはないんだけど、パーティーだしね、せっかくだから挨拶ぐらいはしなきゃね。」
「"如月"…」(あれ…、どっかで……)
聞いたような…見たような……
そんな曖昧な気持ちになった
潤さんに促されるまま私は進む
人と人の波を掻き分けて、シャンパンを片手に気分を少し良くした潤さんの逞しい腕に押されて、少し疲れてきた足を動かす
「あの人だよ。」、そうわたしに耳打ちする
その言葉に目をやれば、まるでスローモーションのように人の狭間に見える人物が浮き彫りに再生された
時間は正常に進んでいる
それでも、何故か自分か、自分の回りだけ少し遅く進むこの感じが、私をなんとも言えない気持ちになる
「あら、鳩屋さん。」
「こんばんわ、如月さん。」
彼の存在に気づいて声をかけたのは、相手の方だった
「こんばんわ。」と、まるで業務のような受け答え
潤さんは話を進め、まずは世間話からと特に重要性のない話をした
相手の女性を視界に捉えてから、私の足はまるで会場の床と結合したみたいに止まっている
そう遠くない場所で、会話する2人…ともうひとり
漆黒のように黒いショートカット
真っ赤な唇と、体のラインがはっきりと分かるドレスは色がお揃いで、胸元が強調されている
そして何より、記憶を掘り返すみたいに漂うこの香水の匂いに、私は内臓から何かが逆流するんじゃないかと思うくらい、気持ちが悪かった
女性が彼との時間をご所望だと察した上での行動だったのだが、潤さんは腰に回した手を離すどころかより強く力を込めた
そして静かに耳元で「今はパートナーでしょ?」と、留まらせる
「悪いですが、女性をひとりにはさせられませんから。」
「あらっ、わたくしは女性ではないのですか?今もひとりですのよ。」
「こんな公の場で人妻に手を出す程、愚かではありません。それにしても、今回はおひとりで参加されたのですね。」
「えぇ、そうですわ。」
女性は手に待っていた紫色の扇子をバサッと広げると、小刻みに揺らし少ない風を出しながら妖艶に口元を隠した
たいして暑くないにも関わらず、扇ぎ、そして瞳を動かし私を見て言った
「もう80ですもの。」
そらさない瞳に、まるでその言葉を私に向けて放しているみたいだ
柔らかさを持ち、同時に薔薇の棘のような鋭利さを持ち合わせている声で、境界線を目の前で引かれたみたいだった
「最近足腰が悪くて。夫の為を思って、ひとりで来ましたのよ。」
「懸命な判断ですね。聡明な証です。」
「まぁ、思ってもいないのにお上手なこと。」
オホホホと笑う女性に微笑みかける潤さん
私はナニが何だか分からず、取り敢えずその場のノリに合わせて笑ってみた
挨拶を終えて次へと移動する
そしてまた次へ
流石潤さん、知り合いが多くて困る
みんな自ら近づいてくるし、話が長い……
(これ…私居なくても良くない?)
ただ隣に居るだけなら私じゃなくても…そう考えてしまう
でなけらば、今頃ギュウ君が何かしら食べ物を持ってきて、それを食していたはず……
そう考えるだけでお腹がすく
「疲れたかい?」
「っえ?」
「何だか顔が暗いから。あいさつ回りは退屈かな?」
「…まぁ、私は知り合いが居ませんから。あと何人挨拶するんですか?」
「あとはひとりかな。如月という人でね、少々気の強い人なんだよ。出来れば相手をしたくはないんだけど、パーティーだしね、せっかくだから挨拶ぐらいはしなきゃね。」
「"如月"…」(あれ…、どっかで……)
聞いたような…見たような……
そんな曖昧な気持ちになった
潤さんに促されるまま私は進む
人と人の波を掻き分けて、シャンパンを片手に気分を少し良くした潤さんの逞しい腕に押されて、少し疲れてきた足を動かす
「あの人だよ。」、そうわたしに耳打ちする
その言葉に目をやれば、まるでスローモーションのように人の狭間に見える人物が浮き彫りに再生された
時間は正常に進んでいる
それでも、何故か自分か、自分の回りだけ少し遅く進むこの感じが、私をなんとも言えない気持ちになる
「あら、鳩屋さん。」
「こんばんわ、如月さん。」
彼の存在に気づいて声をかけたのは、相手の方だった
「こんばんわ。」と、まるで業務のような受け答え
潤さんは話を進め、まずは世間話からと特に重要性のない話をした
相手の女性を視界に捉えてから、私の足はまるで会場の床と結合したみたいに止まっている
そう遠くない場所で、会話する2人…ともうひとり
漆黒のように黒いショートカット
真っ赤な唇と、体のラインがはっきりと分かるドレスは色がお揃いで、胸元が強調されている
そして何より、記憶を掘り返すみたいに漂うこの香水の匂いに、私は内臓から何かが逆流するんじゃないかと思うくらい、気持ちが悪かった
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