逍遙の殺人鬼

こあら

文字の大きさ
上 下
284 / 333

285

しおりを挟む
狼狽える私は、冷や汗混じりの体を支えながらも、その場から動くことが出来ない
当時の状況を説明する瑞貴さんの声は、アイドルとは思えないほど、その綺麗な顔つきからは想像もできないほど…サディスティック的で血の気が引くのが分かった

「無表情でもなく、笑って殺ったんだよ。分かるか?」

「み、っずき…さん…」

「血しぶきを浴びたアイツの顔、お前想像できるか?あのバケモノはな、手で拭って、指で姉さんの口にスマイルマークつけてやがったんだよ!」

「やめて!!」

耳を…塞いだ
遅すぎた行動と態度に、瑞貴さんは呆れた

瑞貴さんは、今自分の口から出した言葉をちゃんと分かっていない
それだと…ジャンさんはお尋ね者の殺人鬼と言う事になってしまうから…









私は支えきれなくなった体を壁伝いに下へと下ろした
床に座り込む私は、両手を力の限り耳に押し当ててシャットアウトを試みる
瞬きのしていない瞳から落ちる雫はまだらに落下して、私のふとももの間をすり抜けて、床へと跳ね落ちた

今は走っていないのに、マラソンした後みたいに呼吸が速くなっているのが分かる
呼吸の仕方を忘れそうになって、口を開いて空気を吸っては吐いてを繰り返す

「もう……っやめてください…」

「お前も気を付けろよ。その皮1枚で繋がった首、大事に守れよ。」

首元が冷える感覚がこんなにゾワッて感じる日が来るなんて思いもよらなかった
瑞貴さんの言葉で、私の首は本当に薄い皮で繋がれた危うい状況下に晒されているんだと思い込まされた

瞬きすら恐く感じてしまったんだ
目を閉じたら、ジャンさんが今にもナイフを突き立てて、私の首目掛けて横に一振しそうで…

本の紙を1枚めくるように、髪留めを解くように、いとも簡単に斬ってしまいそうな幻覚に襲われそうで……
首に当てた手ですら冷たい
まるで喉に何かが詰まっているように、苦しい

「っま、別に死にたいならいいけど。」

「っ……」

「せいぜい足掻いて見せてよ。オレ、アイツが苦しむ姿見たいんでね。んじゃ、おやすみ。」

廊下へと向かう瑞貴さんは、ぼやける私の視界から消えて行った
静まり返るリビングでひとりで震える私は、その硬くなった脚で立ち、苦しい胸を抑えて歩いた

浅くなった呼吸は、私の頭を刺激して苦しめる
薄っすら見える臼田うすたさんに近寄って、そっと手を握った

すがるみたいに両手で包み込んで、ベッド脇に腰掛けた
暖かい手は、私には落ち着いてと宥めてくれるようだった

「いっそ、全部夢だったら…」

夢で終わらせられた、こんな悪夢もう見たくないで片付けられた
温もりのあるこの手も、さっき聞いた話も、私が今まで経験した人生も、全部全部本当で現実だから辛い

熱くなった目元を無視して、私はベッドに頭を置いた
忘れたいと願って目を瞑って、ぎゅっと臼田うすたさんの手を握る
薄暗い部屋、静かな空間と暖かい温もり…
条件は完璧なのに……眠りにつけない
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

【R18】短編集【更新中】調教無理矢理監禁etc...【女性向け】

笹野葉
恋愛
1.負債を抱えたメイドはご主人様と契約を (借金処女メイド×ご主人様×無理矢理) 2.異世界転移したら、身体の隅々までチェックされちゃいました (異世界転移×王子×縛り×媚薬×無理矢理)

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...