逍遙の殺人鬼

こあら

文字の大きさ
上 下
268 / 333

269

しおりを挟む
車の後部座席と言うのは、私が寝そべるには十分な広さだった
本来座るべき所なのだが、今は寝ている
いや、押し倒されている

「怖がらないんだな」って冷たい目で私を見ているのに、どことなく声は優しげだった

"怖い"とは思わなかった
むしろそれを望んでいたのかもと思っている自分がいた
何の迷いもなく私にキスするジャンさんに、抗うなんて選択肢は浮かんでこなかった
不思議だと思った
でも、嫌だとは思わなかった

両手首を押し付けるみたいに掴まれているけど、そんな事しなくても抵抗なんてする気はない
何だかいつもと違うと感じてはいた
けれど、わざわざいつもの自分に戻る必要性を見出だせずにいる

「んぁ…」

「もっと口開けろよ」

甘い、痺れるような声だけが頭に響いた









今までだったら嫌がっていたと思う
だって、付き合ってもいないのにキスするとか変だし、おかしいって思ってた
なのに……今は、そうは思わない
違う、思う余裕がないんだ

嫌とかダメとか、そんな物どこかに行ってしまった
今もし、両手首を拘束されていなかったら、私はきっとジャンさんを受け入れるために彼の背中に腕を回していただろうな

合わさる唇と唇の感触、今にも窒息してしまいそうに激しくそして熱く這う舌に私はなされるがまま
何故だか分からない程、体が熱くて、まるで風邪にかかったみたいだった
私らしくない
でもやめられなかった

「っはぁ…。ジャンさん…」

「なに」

「手首…痛い」

過呼吸気味の私は、か細い声で言った
ジャンさんはグッと押し付けていた手を退けてくれた
そして、少し距離を取って上から私を見下ろしている

影で見にくくなってしまったジャンさんの顔は不鮮明で、思わず手を伸ばしてしまう
指先に触れた柔らかな感触はきっと彼の唇で、その触り心地に魅入られてなぞった

艶かしいその唇に先ほどまで口付けされていたなんて信じられない程、弾力とハリがあった
でもジャンさんはその動きを封じ込めるように手を掴んで「煽んな」って言って、私を引っ張った
もちろん力が抜けている私は、簡単に体を起こされ瞬間的に彼にもたれかかった

ふわっと香るのはジャンさんの匂い
同じシャンプーを使ったはずなのに、同じボディーソープで洗ったはずなのに全然違う匂いに感じた
ずっと嗅いでいたいくらいいい匂いだ

「…アツい……」(すごくアツい。)

「っおい…」

「ジャンさんはアツくないんですか…?」

身体全身が焼けるように熱い
上着を脱いでも全然涼しくはならないし、頭がぼんやりする
目も霞むし、息苦しい

Yシャツを脱ごうとボタンに手をかけた時、大きな手がそれを阻んだ
「あんた、すげぇ汗だぞ」って私に言うけど、私も熱いって言ってるじゃん
もう目の前に居るジャンさんの姿も見えなくなってきた

「ジャンさん…?どこ?」

「おい。目の前に居んだろ」

「見えない…見えないですよ、ジャンさん。意地悪しないでください」

「おい!目閉じんな!」

(私、目閉じてなんか……)

でも、目の前は真っ暗だ
すぐそばに居たはずのジャンさんの声も遠くに聞こえる

(あぁ、やっぱり私は置いてきぼりにされちゃったんだな…)

すごく、すごく悲しい海に投げ飛ばされたみたいに沈んでしまった私は、上に上がれずに下に下に落ちて行く
水圧で動きは制限され、もがいてももがいてもそこは海の底だった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...