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漣の音が耳を燻って、もみあげを動かせている
体育座りで砂の上にちょんぼり居る私は、浜辺が綺麗な夕焼けに照らされて、何故か海に向かってはしゃぎ倒している朔夜さんを眺めている
かき分ける様に吹く風は、塩の匂いがした
(肌寒い…)
そう思うのに、橙色に輝く西日が暖かかった
目に映る景色、波の音、鳥の声すらも美しく思えて、自分の悩み事がちっぽけに感じた
どこまでも広がり、続いているこの大きな海からしたら私の存在など小さな事
何十億人いる内のひとりでしかなくって、気に留めるものではない
初めて見た海を目の前に、私が思うのはそんな悲観的なものばかりだった
まるで、そんな悩みなど忘れてしまいなさいと諭されている気分になった
朔夜さんは海の波と遊んでいる
波を追いかけたり、迫ってくる波から逃げたりしている
バシャバシャ音を立てて、素足を海の水滴と砂まみれにしてとても楽しそうだ
「おい女、こっち来てみろ。」
「私はいいです」(春さんから借りた洋服が汚れたらヤダもん。)
「いいから、ほらっ。こっちだこっち。」
「っだから、私はっ」
「ほら!どうだ女。」
「ひっどい、悪意のある行動でしたよ、今。」(思いっきしかかったのだけど…。)
海水ぶっかけられてご機嫌ななめな私とは対象的に、朔夜さんはすんごい笑顔だ
せっかくの服が、ビショビショだ…
何するんですか!と私もかけ返した
それに負けじと朔夜さんもかけ返してくる
お互い、子どもでもないのにムキになってはしゃいでしまっている
「女ずぶ濡れだな。」って腹を抱えて笑う朔夜さんを睨んだ
いったい誰のせいだと思っているのか
それに、朔夜さんも相当ずぶ濡れでいらっしゃる
まぁ…私がかけたせいなんですけど…
「思いの外楽しかったな。」と笑ってみせる朔夜さんは、本当に子どもみたいだった
「本当にこれが小説のネタに繋がるんですか?遊んでいるようにしか見えない…」
「まあな。」
「朝言われた…、行き詰まっているんですか?でも、順調に色んな作品出してるのに」(沢山書籍化されてるのに。)
「ここ何年も今の俺が書いた物は無い。全部全部、俺が学生の時書いてたやつを混ぜてそれっぽくしたやつさ。外に出れば少しは思い浮かぶと思ったけど…そうでも無かったみたいだな。どんどん書けなくなっていく……。」
「そう、だったんですか…」(学生の時から面白いものを書けていたのが凄いと思うけど、朔夜さんはそれでは困るんだよね…。)
春さんはずっと家にこもってるって言ってたけど、それって小説を書く為だったのかな…?
さっきまで本当に楽しそうにしてたのに、今は凄く悲しそう
書きたいのに書けないって凄く辛いことだ
書かないのと書けないのでは訳が違う
どうして書けなくなってしまったのか、聞いても良いのか…私には分からなかった
そこまで、踏み込むには私達は他人過ぎる
そんなデリケートな所に割って入れるほど、勇者じゃない
聞いてしまった後の事だって、対処できるか分からない
書かなくていいとか今はお休みしててもいいんじゃないですか?とか、言えない
励ましの言葉も思い浮かばない
私も悩んだ
人より記憶力が少し良いからって何でもできる訳じゃ無い
台本を全て覚えられても、上手な演技ができる訳じゃ無い
歌詞を完璧に覚えても、綺麗に歌える訳じゃ無い
最初に期待された分だけ出来ないと知られるのが、ガッカリされるのが怖くって…
_____苦しいんだ………
体育座りで砂の上にちょんぼり居る私は、浜辺が綺麗な夕焼けに照らされて、何故か海に向かってはしゃぎ倒している朔夜さんを眺めている
かき分ける様に吹く風は、塩の匂いがした
(肌寒い…)
そう思うのに、橙色に輝く西日が暖かかった
目に映る景色、波の音、鳥の声すらも美しく思えて、自分の悩み事がちっぽけに感じた
どこまでも広がり、続いているこの大きな海からしたら私の存在など小さな事
何十億人いる内のひとりでしかなくって、気に留めるものではない
初めて見た海を目の前に、私が思うのはそんな悲観的なものばかりだった
まるで、そんな悩みなど忘れてしまいなさいと諭されている気分になった
朔夜さんは海の波と遊んでいる
波を追いかけたり、迫ってくる波から逃げたりしている
バシャバシャ音を立てて、素足を海の水滴と砂まみれにしてとても楽しそうだ
「おい女、こっち来てみろ。」
「私はいいです」(春さんから借りた洋服が汚れたらヤダもん。)
「いいから、ほらっ。こっちだこっち。」
「っだから、私はっ」
「ほら!どうだ女。」
「ひっどい、悪意のある行動でしたよ、今。」(思いっきしかかったのだけど…。)
海水ぶっかけられてご機嫌ななめな私とは対象的に、朔夜さんはすんごい笑顔だ
せっかくの服が、ビショビショだ…
何するんですか!と私もかけ返した
それに負けじと朔夜さんもかけ返してくる
お互い、子どもでもないのにムキになってはしゃいでしまっている
「女ずぶ濡れだな。」って腹を抱えて笑う朔夜さんを睨んだ
いったい誰のせいだと思っているのか
それに、朔夜さんも相当ずぶ濡れでいらっしゃる
まぁ…私がかけたせいなんですけど…
「思いの外楽しかったな。」と笑ってみせる朔夜さんは、本当に子どもみたいだった
「本当にこれが小説のネタに繋がるんですか?遊んでいるようにしか見えない…」
「まあな。」
「朝言われた…、行き詰まっているんですか?でも、順調に色んな作品出してるのに」(沢山書籍化されてるのに。)
「ここ何年も今の俺が書いた物は無い。全部全部、俺が学生の時書いてたやつを混ぜてそれっぽくしたやつさ。外に出れば少しは思い浮かぶと思ったけど…そうでも無かったみたいだな。どんどん書けなくなっていく……。」
「そう、だったんですか…」(学生の時から面白いものを書けていたのが凄いと思うけど、朔夜さんはそれでは困るんだよね…。)
春さんはずっと家にこもってるって言ってたけど、それって小説を書く為だったのかな…?
さっきまで本当に楽しそうにしてたのに、今は凄く悲しそう
書きたいのに書けないって凄く辛いことだ
書かないのと書けないのでは訳が違う
どうして書けなくなってしまったのか、聞いても良いのか…私には分からなかった
そこまで、踏み込むには私達は他人過ぎる
そんなデリケートな所に割って入れるほど、勇者じゃない
聞いてしまった後の事だって、対処できるか分からない
書かなくていいとか今はお休みしててもいいんじゃないですか?とか、言えない
励ましの言葉も思い浮かばない
私も悩んだ
人より記憶力が少し良いからって何でもできる訳じゃ無い
台本を全て覚えられても、上手な演技ができる訳じゃ無い
歌詞を完璧に覚えても、綺麗に歌える訳じゃ無い
最初に期待された分だけ出来ないと知られるのが、ガッカリされるのが怖くって…
_____苦しいんだ………
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