逍遙の殺人鬼

こあら

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休戦した私と朔夜さんは、ゼハゼハ息を乱していた
そんな中、急ぎ足で走る足音が聴こえる
「ちーちゃん!?」と、春さんの心配するように私を呼ぶ声がしてすぐ、私の部屋に入って来た
苦しそうにしている私を見るや、凄い勢いで朔夜さんに掴みかかった

「ちーちゃんニナにしてんのさ。」

「別に、って苦情入れただけだ。」

「の割にはやけに息切れしてるじゃんか。しかも凄くうるさかったぞ。」

「だったら何だって言うんだ。」

これは、私のせいでもあるんだよね…
今にも殴り合いになりそうな二人の間に入るように止めた
この息切れは、春さんを犯罪者に仕立て上げようとするのを阻んでいたからってことは内緒にしておこう









朔夜さんはブツブツ言いながら自室に戻って行った
ふぅ…と一息つく私に、春さんはベッドに座るよう促す

(何だろう?)

「座っててよ、いい?」とまるで子供に注意する母親みたいに念押しして来る
はい、座ってますよって頷けば、部屋から出て行ってしまった
まさか朔夜さんと喧嘩するんじゃとか思って立ち上がりそうになったけど、春さんと入れ違いでジャンさんが入って来たもんだから脚に入った力が弱まる

嫌な訳じゃないけど…どうすれば良いのか、どんな顔でジャンさんを見れば良いのか
壁にもたれかかってポケットに手を突っ込んでいる
相変わらず長い脚だ
前と変わらず身長は高い
整った顔もどこも変わっていない、髪以外は

私の中の今の彼は、クリスチャンで止まっている
本当はそんな人物居ないんだけど…いや、クリスチャンもジャンさんの名前なのかもしれない
知らないことの方が多いいから、何も分からない

「お待たせ、ちーちゃん。はい、これ。」

「何だよ」

「自分のケツは自分で拭くもんだろ?」

「はぁー…、わーったよ」

春さんから木箱を受け取ると、これまたダルそうに歩いて来る
っえ?っと困惑状態の私は、春さんに目をやるも腕を組んで頷いているだけだった

ごめんなさい春さん、全く分かりません
もっと分かりやすく合図か何か送ってもらえると助かるんですがね…

ベッドに座る私の前でしゃがんでみせるジャンさんは、しゃがむと互いの目の位置がそう変わらなかった
不思議な気分を味わった
いつも見下ろす目しか見た事なかったから、こうやって真っ直ぐに視線が合うのは初めてだった

「そうだ、ちーちゃん。良かったらお店見学していかない?」

「あ…そうですね。春さんが良いのでしたら、是非見学させてっ…ッイ!」

「ジャンもっと優しく。良かった、それじゃ一旦お店の方見てくるからまた後で。」

「っあ、春さん、あの…」(行っちゃった…。)

下手に動けない今、春さんを追いかけることは許されない
首元に薬を塗っているジャンさんの手は、冷たかった
緊張で背筋がカチコチ状態

なるべく遠くの方へと目線をずらしてみるけど、やっぱり心臓がうるさい
春さん…どうして行ってしまったんですか…
おかげで二人っきりになってしまったではないですか……

首に感じるジャンさんの指先は、先程よりも優しく私に触れている
少し熱を持った首に冷たい指が触れて薬を塗る工程が、妙に長く感じた
ギュッと手に力が入ったのは、痛みに耐える反射的な物なのかジャンさんに触られているからなのかは、微妙なラインだった

絆創膏を貼り終えて、よしこれで終わりと安堵したのもつかの間
急に足に冷たい感触を感じてびっくりする
そうだ…足もだった…………

「あの…足は自分でやります、から…」

「いい、告げ口されても面倒だ」

「…そんな事、しませんよ」

「どうだかな」

「…、私の事を嫌ってるのは知ってます。でも、つけ離さないで欲しい…です……」

「嫌いだって言った覚えは無い。それに、嫌ってるのはあんただろ」

っえ?????私そんな事言いましたっけ?
それに…嫌っては、いないってこと?
絆創膏を貼り終えるジャンさんに、それは…って言いかけて春さんが部屋に入って来た
時間切れでジャンさんは私から離れて行った
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