逍遙の殺人鬼

こあら

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「ちょっとしみるかも。我慢してね」

「…はい」

春さんが私の膝に出来た擦り傷を消毒してくれる
言った通り、傷口に消毒液がしみてグッと脚に力が入った
しかめっ面するみたいに眉をひそめて目を瞑り、処置が終わるのを待つ

絆創膏を貼って終わりかと思えばそうでは無く、ガーゼを被せて包帯で丁寧に巻き付けてくれる
緩くせず、キツくし過ぎない程よい程度の巻圧で、処置は終了した
ありがとうございますとお礼の言葉を言えば、「頑張りました」と子供を相手にしているかのように頭を撫でてきた

「…私、もう18ですよ…」

「まだまだ子供だなー。良い子良い子」

「"子供"じゃないです…。電車やバスは大人料金ですし、選挙権は18歳からですよ」

「そういうところが、子供な発言。テイ!」

天誅てんちゅうと言わんばかりの勢いとは裏腹に、何とも軽い衝撃が額に走る
痛くも痒くもないそれは、春さんなりに私を慰めてくれているものだった









_____あの後…ジャンさんがお風呂場を出た後、入れ替わるように春さんがやって来た
びしょ濡れ状態の私を見るや否や「大丈夫」とだけ言って、私の肩にポンッと手を置いた

大丈夫?と聞くのでも、どうしたの?と状況を確認しようともせず、ただ大丈夫と言うだけだった
流しっ放しのお湯を止めて、もう濡れているのだからとお風呂に入るように言われた
それに従って、私は頭・顔・体と全身を洗った

膝にできた傷を見ては、この存在のせいで…とやけになって洗った
当然、血が滲むくらいしみたしやっぱり痛かった
(ジャンさんは…もっと痛かったかも…)

付け離される気持ちは誰よりも知っていたつもりだった
ひとり置いてきぼりにされる気持ち、言葉にされた時に感じる想いは今でも覚えている
なのに、それをジャンさんにしてしまった……
境界線を目の前で引かれるみたいに感じたあの想いを、私は彼に植え付けてしまった

「私……っ最低」

湯気が立ち昇る中で、私は私に言い放った
弱虫、クズ、臆病者…………どの言葉を自分に与えても、それすらもおこがましいくらい私は下人なのだと自分に言い聞かせた

私もあの人達と同じ
まるで変わらないじゃないか
平気で人を傷つけて、本当…最低

「私…18になっても人の気持ちが分からないんです」

「23にもなっても自分に素直じゃない奴もいるよ。ひとりの女に夢中になり過ぎてる男もいるしね」

「え、誰のことです?」

「それに気付かない子もいるってこと。まぁそれはいいんだけど、1つ聞いていい?」

「はい…良いですけど、」

「施設を出た理由は?」

「…それは」

まさかこうも通常モードで聞いてくると思わなかった
ジャンさんか臼田うすたさんに聞いたんだと分かった
私が孤児で施設育ちなこと
その施設から逃げ出したことを、春さんは知っていた

重苦しい雰囲気なんか出さず、まるで世間話するみたいなノリで聞いてくる春さんは強キャラだ
好奇心から聞いているのか分からないけど、話していいのか分からず口が重くなるのを感じた
脈が早くなるし、考えるだけで冷や汗が出る
春さんが貸してくれたパジャマ代わりのスエットを握って、それは……と頑張って声に出してみる
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