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走り続けて出会したのは1台の車で、春さんが「乗って」と促す
その指示に従って車に乗り、ドアを閉めた
シートベルトをして、上がった息を落ち着かせようとした
そんな私の隣に座る春さんは車のエンジンをかけて勢いよく発進させた
少し振動が来たけど、それほど急いでいるんだと分かった
この若干緊迫した状況で春さんは私に話しかけた
「どうして教会に行ったりしたんだ?亀とジャンと一緒に居ればよかっただろ」
「…。その方が良いと思ったんです…。2人に…迷惑かけないように」
「心配してたよ。亀なんか凄かったんだから」
「臼田さん……お元気ですか?」
「それは自分で確認するんだな」
車を走り出して幾分して除速した
目的地についたのかな?と春さんの方を見れば、少し困った顔をしていた
どうしたんです?と聞けば面倒くさそうな顔をして「ガンバレ…」と細々と私に言ってくる
え?と聞き返してもそれ以上は答えてくれなくて、車を停車させてはシートベルトを外している
それに連動して私もシートベルトを外してみる
グローブボックスを開けてサングラスを取り出す
ガラッと中で音を立てたのは1冊の本
その本のタイトルは"本物の漢"で、これは私が好きな作家さんの作品だった
春さんも小説読むんですか?と聞いたら「仕方なくね」とこれまたぐったりと返事が返ってきて、車から降りた
春さんと同じように私も降りてみた
さっきまでの熱は何処へやら、今の風は冷たく正直肌に突き刺さるように私を攻撃してくる
攻撃に負けて私の髪の毛は宙を舞ってはバサバサと音を立てる
そのうざったい毛に目を細め、両手で抑えた
その隙間から見えたのは、こちらに走ってくるひとりの男性と思われる人物
まさか…さっきの男!?と春さんを見れば、サングラスをかけて走ってくる人物を眺めている
てことは、大丈夫ということ?ともう1度見直した
「…もしかして、」
「飲み物買ってくるわ」
「え、っは、春さん?」
「あとはごゆっくりー」
背中を見せながら歩く春さんは、手をヒラヒラと見せ私から離れて行った
そんな春さんと反対側には、私を「ちさちゃん」と呼ぶ見知った顔
その人の顔に、なぜだか無性に安心感を覚えた
気づけば徐々に距離は縮まり、土を蹴る音がやけに鮮明に耳に届く
そうしてあっと言う間に距離は無くなり、私をすっぽり包み込んで来る
それは優しく、でもしっかりと私を捕えていた
「…臼田、さん…?」
「良かった……本当に良かった。ちさちゃんが…死んだって言われたんだ…」
「っえ!?」(生きてますけど…)
「僕は絶対生きてるって信じてた。でも…見つけ出せなくて、だから凄く焦った。…もしかしたら本当にって」
「ごめんなさい…。本当にごめんなさい」
ただただ謝るしか出来ない私を、臼田さんは「もういいんだ」と優しく応えてくれる
私の肩に顔を埋めてくるその仕草が何とも言えない懐かしさで、心地良いと感じた
そんな臼田さんの頭に手を伸ばして、少し撫でてみる
この癖の無い髪質の感触は、相変わらずやみつきになるくらい梳きやすい
この匂いもあの時と変わっていない
私は気持ちの良い髪に触れながら目を閉じて、そう遠くない昔に浸っていた
すると、不意に梳く手を掴み体制を整える臼田さん
「凄く寂しかったよ」
「私も今とても懐かしい気持ちになりました。臼田さんの髪の毛は前と変わらず癖がないですね」
「ちさちゃんは変わらず可愛いよ。君がいない日々はまるで色が無くなったみたいで、毎日ちさちゃんを思い出してたよ」
「私も臼田さんと過ごした楽しい日々を思い出してました」
そう私が告げると、臼田さんは真剣な声でまた一緒に暮らそうと言ってきた
一瞬はいと返事をしそうになった
危ない、危ない…
今さっき私は男に捕まっていたばかりだ
臼田さんが見つけられなかったこの場所を、男は見つけ出した
と言う事は…あの家もバレている可能性が高い
そのリスクを背負って臼田さんたちと暮らせるほど、私は勇気がなかった
その指示に従って車に乗り、ドアを閉めた
シートベルトをして、上がった息を落ち着かせようとした
そんな私の隣に座る春さんは車のエンジンをかけて勢いよく発進させた
少し振動が来たけど、それほど急いでいるんだと分かった
この若干緊迫した状況で春さんは私に話しかけた
「どうして教会に行ったりしたんだ?亀とジャンと一緒に居ればよかっただろ」
「…。その方が良いと思ったんです…。2人に…迷惑かけないように」
「心配してたよ。亀なんか凄かったんだから」
「臼田さん……お元気ですか?」
「それは自分で確認するんだな」
車を走り出して幾分して除速した
目的地についたのかな?と春さんの方を見れば、少し困った顔をしていた
どうしたんです?と聞けば面倒くさそうな顔をして「ガンバレ…」と細々と私に言ってくる
え?と聞き返してもそれ以上は答えてくれなくて、車を停車させてはシートベルトを外している
それに連動して私もシートベルトを外してみる
グローブボックスを開けてサングラスを取り出す
ガラッと中で音を立てたのは1冊の本
その本のタイトルは"本物の漢"で、これは私が好きな作家さんの作品だった
春さんも小説読むんですか?と聞いたら「仕方なくね」とこれまたぐったりと返事が返ってきて、車から降りた
春さんと同じように私も降りてみた
さっきまでの熱は何処へやら、今の風は冷たく正直肌に突き刺さるように私を攻撃してくる
攻撃に負けて私の髪の毛は宙を舞ってはバサバサと音を立てる
そのうざったい毛に目を細め、両手で抑えた
その隙間から見えたのは、こちらに走ってくるひとりの男性と思われる人物
まさか…さっきの男!?と春さんを見れば、サングラスをかけて走ってくる人物を眺めている
てことは、大丈夫ということ?ともう1度見直した
「…もしかして、」
「飲み物買ってくるわ」
「え、っは、春さん?」
「あとはごゆっくりー」
背中を見せながら歩く春さんは、手をヒラヒラと見せ私から離れて行った
そんな春さんと反対側には、私を「ちさちゃん」と呼ぶ見知った顔
その人の顔に、なぜだか無性に安心感を覚えた
気づけば徐々に距離は縮まり、土を蹴る音がやけに鮮明に耳に届く
そうしてあっと言う間に距離は無くなり、私をすっぽり包み込んで来る
それは優しく、でもしっかりと私を捕えていた
「…臼田、さん…?」
「良かった……本当に良かった。ちさちゃんが…死んだって言われたんだ…」
「っえ!?」(生きてますけど…)
「僕は絶対生きてるって信じてた。でも…見つけ出せなくて、だから凄く焦った。…もしかしたら本当にって」
「ごめんなさい…。本当にごめんなさい」
ただただ謝るしか出来ない私を、臼田さんは「もういいんだ」と優しく応えてくれる
私の肩に顔を埋めてくるその仕草が何とも言えない懐かしさで、心地良いと感じた
そんな臼田さんの頭に手を伸ばして、少し撫でてみる
この癖の無い髪質の感触は、相変わらずやみつきになるくらい梳きやすい
この匂いもあの時と変わっていない
私は気持ちの良い髪に触れながら目を閉じて、そう遠くない昔に浸っていた
すると、不意に梳く手を掴み体制を整える臼田さん
「凄く寂しかったよ」
「私も今とても懐かしい気持ちになりました。臼田さんの髪の毛は前と変わらず癖がないですね」
「ちさちゃんは変わらず可愛いよ。君がいない日々はまるで色が無くなったみたいで、毎日ちさちゃんを思い出してたよ」
「私も臼田さんと過ごした楽しい日々を思い出してました」
そう私が告げると、臼田さんは真剣な声でまた一緒に暮らそうと言ってきた
一瞬はいと返事をしそうになった
危ない、危ない…
今さっき私は男に捕まっていたばかりだ
臼田さんが見つけられなかったこの場所を、男は見つけ出した
と言う事は…あの家もバレている可能性が高い
そのリスクを背負って臼田さんたちと暮らせるほど、私は勇気がなかった
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