逍遙の殺人鬼

こあら

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「シスター。」そう呼ぶ声に、私はまぶたを上げた
私の中は一気に真っ白になって、何も考えられなくなった
高さはどれくらいあっただろうか
あの時と同じ、無駄にスローモーションで時間が経過したような感覚だった

脚立がガタッとなる音、修道服の裾をなびかせる音に鼓動が早くなる音がした
シャンデリアの大きさは少しずつ小さく縮小するけど、下から見てもやっぱり大きかった
自分の靴が見えた時は、本当に変な気分だった

「シスター。大丈夫?」

「……、ダイ…丈夫です」









少し高い声で呼ばれたところまで覚えていたけど、落ちてしまった事で頭がいっぱいだった
上から降ってきた私をお姫様抱っこでキャッチしてくれたのは、思いもよらない人だった

「急に話し掛けて驚かせてしまいましたね。すいません。」

「いえ…私の不注意が招いたことです。謝らないで下さい…それと、ありがとうございます。その…助けていただいて」

「よっと…間に合ってよかったです。仕事中でしたか?」

「えぇ…はい、蝋燭ろうそくを付け替えていました。蝋燭ろうそくが無いと暗くて見えませんからね」

落下によって、彼にかかった負荷は私の体重+αできっと辛かっただろう
意外とガッシリとはしていたが、細身の体には負担がかかっていたに違いない

そっと起き上がらせながら私を床に立たせてくれる
心臓は落ちる事へのドキドキの余韻がまだ残っていて、彼にドキドキしているのでは?と錯覚させてくる
顔が近かった
話す時に私の方に向いた時、互いの距離は15cmあるかないかぐらいだった
15cm……それは長いようで短い距離感だった
嫌でも目に入ったそのかおは、目元が誰かに似ていた

大きくぱっちりとした目、小さく整った唇にそう高くない身長
格好良いと言うよりが似合いそうな雰囲気
少し外ハネした襟足が何とも愛らしくって、何処かで見た面影に悩まされていた

(何処で見かけたんだろう…)

頭の中にある記憶の図書館に検索ワードを掛けても中々ヒットしてくれない
要所要所のポイントは出ているのに、浮上しないそれに私は眉をひそめてしまう
首までているというのに…あと一歩が吐き出せない

絶対に会ったことがある
記憶力はいい方だと思っていたのに…誰だったのか思い出せない

「通訳者様は、何か御用でしょうか?」

「あ…えぇ、実はクリスを探していたんですけど。今のところ見つけ出すことは成功していないですね。」

「クリスチャンさんですか…」(昨日の今日だし…できればあまり関わりたくはないんだけど……。)

「そうだシスター、良ければ一緒に探してくれませんか?ひとりよりも2人で探した方が早いでしょう。」

「あ………、」(まだ蝋燭ろうそくの仕事が残ってるんだけど……。)

私は悩んだ
私の仕事は、シスターエリに任されたこの大量の蝋燭ろうそくの付け替えで、でも院長からは客人である2人…つまりクリスチャンさんと通訳者さんをもてなすことだ

序列を考えれば院長の方を優先したほうが良いだろうけど、私は昨日罰せられたばかり
しかもクリスチャンさん絡みなのだから、普通ならば同じ事を繰り返さないように自重するのが筋と言うもの
それに、シスターエリに知られたらまたやっかまれてしまうだろう……

でも、本人を目の前にしてお断りするのも気が引ける
悩んだ末に出した、私の答えは道徳的にも間違ってはいないと確信があった

「分かりました。では、私は外を見てみます」

「ありがとう、シスター。ではボクはもう少し中を探してみます。」

「見つけたらここ、この礼拝堂に集合しましょう」
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