逍遙の殺人鬼

こあら

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お昼休憩の時間が終わって、ギュウ君は仕事に戻って行った
私は医務室の中で、独りになった余韻に浸っている

また静かだ
また一人で、また心の中で喋っている
背中はまだ痛みが残っている
ギュウ君が手当してくれたおかげで、今朝よりマシになった

「…いつまでも、医務室に居座れないよね……」

ベッドから降りて歩こうとすれば脚に力が入り切らなくて、一瞬焦る
今ある力を振り絞って医務室から出て、自室に戻ろうと試みる

歩く度に背中に響くし、食事抜きの罰は私の身体に応えた
壁伝いに歩いて私の部屋を目指す
今まで当たり前のように歩いていた私の脚は、軸が定まらないみたいで普通には歩けていなかった









ようやくあと少しで着くという時に、思わぬ人に出くわした
お客様であるクリスチャンさんの通訳担当の方だった
名前は知らないし、地味な服装に似合わず綺麗な顔付きだった

私はシスターと言う役目を全うする為、精一杯の笑顔を見せた
ここに居させてもらっているのだから、当然の仕事だ
お客様は神様とは良く言ったものだ
シスターは神に仕える者
ならこのお客様は神様で、私は全身全霊でお仕えしなければとか思ってしまう
そんなつまらない事を考えられるんだから、まだ頭は余裕なようだ

「何か不都合なことはありませんか?問題などあれば、遠慮なくお伝え下さい。」

「とても快適です。ただ…少し妙ですね。」

「"少し妙"とは、どういった意味でしょう?」

そうオオム返しの様に聞き返す私に、通訳の人は一時の間を挟んで「いいえ」と話の終止符を宣告した
通訳の人は通訳するだけの役目でここに来たから、教会とか神とかに慣れていないと
だから、ここに居るのが不思議だと話した

確かにそうかもしれない
こう言う宗教物って、日本より外国の方が支流な気がする
それに日本は仏教じゃなかったっけ?

そもそも私だって宗教とか神とか、そんなもの関心はそんなに無い
ただ、心の拠り所かそこしかなかったから、だから仕方なく神に語りかけて救いを求めて罪を告白した
当然神から返事を貰ったことなどない

「シスターはどこか不思議なところがあるようですね。」

「"不思議"……ですか?」(至って平凡で普通だと思いますけど…)

「初めて会ったとは思えない、そんな気がします。」

「そうですか、褒め言葉として受け取っておきます」(褒めてるんだよね?多分…)

ぱっとしない格好だけどその整った顔つき、もし会ったことがあるなら忘れはしないだろう
だけどあいにく私が知っている中では、貴方のような男性には合った事が無い

男性にしては少し小さい身長に、まるで女性のような細く綺麗な指
毛穴など知らないかのようなキメの細かい艶肌
髪の毛なんて私とは比べ物にならないほどサラサラで、光のせいなのか知らないが、天使の輪っかみたいにハイライトが浮かび上がっている

ジャケット越しからでも分かる、華奢でスタイルの良い体型は低身長を忘れるみたいにスタイリッシュだ
年齢もそう遠くないように感じるのは、彼が童顔だからたろうか?

「ではクリスが待っていますので、失礼しますね。」

「あ、はい。」(クリスチャンさんのことクリスって呼んでるんだ…)

通訳担当の方は後ろ姿まで素敵だった
まるで、ランウェイを歩くモデルのように姿勢が正しくて、ここって教会じゃなくて会場なのかな?と錯覚させられる
まぁ、見たことないんですけどね


………………想像です……
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