逍遙の殺人鬼

こあら

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暗闇の中を走っても、行き着く先は闇のままで果てしない
右も左も、前も上も全てが真っ暗で気持ち悪い
どこまで行っても変わらず、景色とは呼べないほど何もない
もはや目を開けていても、閉じているのと同じようなもので訳が分からなくなる

無駄に走り回って疲れて、脚を止めて呼吸を整えても何故か身体の寒さは変わらなかった
走れば身体が熱くなるものだと言うのに、なぜ寒いと感じるのか?

風も吹いていないこの場所は、季節なんて感じない
まるで、世界に独り取り残さるたみたいで無性に泣きたくなる









なんとも言えない絶望的な想いに打ち砕かれて、その場に座り込んだ
私はどれだけ取り繕っても結局一人で、孤独だった
そんな現実に笑えない私は、視界がぼやける
見えるものは同じで全て黒いというのに、そういうのは嫌なくらい分かってしまう

〈どうして逃げるの?私はあなたなのに。〉

〈っ!?……違う…私は、私はっ〉

〈ずっと一緒に居たのに。これからも一緒だよ。〉

後ろから抱き締めるように捕まえては、小さな私は一体化するみたいに溶けていく
背中が痛い…
私をむしばむ原因は私で、抗えないもの
どんなに否定しても変わらない事実だった

過去の自分に囚われて、必死に逃げるのに自分自身が変わらないから結果も変化しない
あなたは私で私はあなたなら、私はあなたのような異形で異質な存在だということなの?

〈…誰かっ〉

手を伸ばしてもその先には誰も居なくて、差し伸べる手もない
分かってる
でも、藁にもすがる思いだった
自分がこんな風にはなりたくないと、逃げる為の助け舟を必死に探していたんだ

__________後どれくらい繰り返せばいいのだろうか…
どれだけこんな思いをすれば、私は救われるのか……
やっぱり答えなんて返ってこない

「……ん……?」

「起きたか。大丈夫か?」

「…ギュウ君。どうしてここに…?」

「シオリさんに頼まれて様子を見に来たんだ。泣くほど辛かったのか?」

("泣くほど"?…私、泣いてる?)

目の端から確かに落ちた涙は、少量ながらも枕を確実に濡らしていた
それを隠すように拭き取って起き上がった
その時気づいたのは、背中の痛みが薄れていること
若干の違和感に、きっと彼が手当してくれたんだろうと理解した

「寒いな」と言っては、少し開いた窓を閉めた
朝と夜は寒い今、窓を開けて寝ていたら風邪を引いてしまうかもしれない
そのせいなのか、あんな見たくも無い夢まで見てしまった…

うなだれるみたいに息を吐いては、現実逃避するみたいに両手で顔面を覆った
あの顔…忘却できたら、どれだけいいか…
頭にこびり付いて剥がれない

「鞭打ちだって聞いたけど…背中大丈夫か?」

「うん…だいぶマシになったかな。ギュウ君仕事は?」

「今は昼休憩中だ。お腹空いただろ、内緒で持ってきたから食べろ。」

「…駄目だよ。私は夕餉ゆうげまで何も口にしちゃいけないんだから…」(気持ちはすごく嬉しいけど…受け取れない)

ギュウ君は優しいから、こうやって私を助けてくれようとしてくれる
でも、そのせいでギュウ君まで罰せられたりしたら、私の心は張り裂けてしまう

仕事で疲れているだろうに、本当は休憩時間はゆっくりとしたいだろうに、頼まれたから仕方なく私の様子を見てくれている
申し訳ないですね…
今もこうやって心配しきった顔でそばにいてくれる

「ギュウ君…ありがとう」

「何もしてないのに、なにが"ありがとう"だよ…。」

(手当してくれたり、心配してくれたりとか、)「色々と」

ちゃんとお礼を言っているのに、なんでギュウ君はそんな腑に落ちないような顔するの?
私、間違ったこと言った?
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