逍遙の殺人鬼

こあら

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夜になって一日の仕事を終えた余韻に浸っている
ふと机に目をやれば、花瓶がなく置かれたままのデイジーが一輪、寂しく存在を示している

ギュウ君から貰ったものだ
なのに、頭に浮かぶのは彼じゃない

「やだ…忘れようとしてるのに、私何してんだろ…」

手に持ったデイジーを離した
ふと力が抜けてしまったんだ
デイジーは手元を離れ、床へと跳ねながら落ち花びらを巻きちらかせた
先程まで完璧だった花は形を崩し、乱れてしまった

それに焦る私
なんで焦ってるんだろう?
ギュウ君から貰ったものだから?
それとも…まだ忘れられていないから?









拾い上げたデイジーは、生を失いかけたみたいにしおれている
昼間はあんなに生き生きしていたのに…

あの後、ギュウ君は続きを話してくれなかった
いくら聞いても「何でもない」しか答えてくれなくて、少し距離を感じた
そもそもそこまで親しくなった訳じゃないけど、なんだか寂しい

私はシスターエリに別の仕事を任せられ、ギュウ君は自分の仕事へと戻って行った
それからは、会わなかった

「私…何か変なこと言ったかな…」

ここに来て、1番仲良くなれたと思った
年も同じで、話しやすくて、楽しいと思えた
(また失敗しちゃったかな…)

こんな時、どうすればいいんだろう?
主よ、貴方ならどうされますか?
月明かりに照らされは私は、無力そのもので何も返っては来なかった

いくら月を見つめても答えは出ない
誰も助けてはくれない
いくら周りに人がいても、心はいつも一人で無駄にお喋りで…
いくら予行練習してみても、いざその場になったら練習した成果は出なかった

蝋燭ろうそくに灯した明かりを消して、冷えた体のままベッドに入る
軋む音を鳴らして、横になる

目を瞑ればまた都合のいい夢を見れる気がして、眠りにつくのは嫌じゃなかった
せめて夢の中だけは、自由がいい
見たくもない夢よりも、意味の分からない夢よりも、記憶に残らない夢でいいから本能のままに夢を見たい

わざと開けたままのカーテンからは、輝き続ける月の明かりが部屋を照らしている
窓も鍵はかけていない
昼はあんなに暑かったのに、夜になると少し冷える

ガタッと音が鳴り、目を開ければそれはそれはリアルな夢だった
夜に現れるなんて、本来なら怖くてベッドに潜り込んで絶対に起きないが、夢と分かれば怖くはない

見えづらくなった部屋の中で佇む彼を確認するべく、体を起き上がらせて目を擦った
暗闇に慣れれば、彼の顔も見えるようになるだろう

「"夢にまで出てこないで"って言ったのに…」(その言葉とは裏腹に、少し嬉しいくせに…。)

でも、夢ならばいいのだろうか?
普段できないことを…してみても、いいのだろうか?

ベッドから離れ、彼に近づいておぼつかない手付きで腕を伸ばした
ぎゅっと彼の腰元に手を回して抱き締めてみる
別に寂しくなんかない、ただ夢だから…これくらい良いだろう…

「はぁ……、っだめだな…私。忘れられそうにないや……」

「忘れる必要なんてない」

「…うん。また……一緒に寝てくれる?」(いつかの時みたいに)

返事をする代わりに、私を抱きかかえてベッドに運んでくれた
私を抱きしめるみたいに、一緒にベッドに横になった
誰かと一緒に寝るのが心地良いだなんて、子どもみたいなことを思ってしまう
今だけ、夢の時だけ、許してほしい

(夢ならば…もう少しぐらいいいかな?…)「頭…撫でてくれる?」

その大きな手で、結んでいない髪の毛を乱すみたいに撫でてくれる
恥ずかしい…だけど、うれしい

「そう言えばね、今日デイジーの花のこと思い出したの。ジャンさんが私に"似てる"って言ってくれたんだけどね、」

「静かに」

そう言って、更に抱き寄せる
夢だから話させてよ
まぁ、良いんだけどね
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