逍遙の殺人鬼

こあら

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千里の道も一歩から
たとえ千里ほどもある遠い道のりであっても、始めの一歩を踏み出すことが大切で、その一歩を踏み出すとともに着実に努力を重ねれば、大きな事業も成功するという意味

千里とは1里400mの1000倍で、きわめて遠い所という意味のたとえ

だとしても、教会周りの草むしりは千里を超えているのではないかと懸念が尽きない
暖かいを通り越して、暑くなり始めた今日この頃
額に小さ汗が居座っているし、顎の輪郭を伝って滴り落ちるし拭いても拭いても出てくる

「……あつい…。」












どこまでやれば終わるのか
そもそも終わりなどあるのか?
自問自答したところで正解は出てこないし、考えてるだけで余計に疲れる

「はぁ…。これって、終わりあるのかな…?」

(……いや無いな。)

そもそも、雑草って?
日本の第124代天皇、昭和天皇は雑草なんてないって言ってなかったっけ?…

「"雑草という草はありません。どんな植物でもみな名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方で、これを雑草として決め付けてしまうのはいけない。注意するように。"って」

「悟りでも開くのか?」

「ギュウ君。っいつからいたの?」

「今だけど…ちさこそ、哲学みたいなこと言って。」

完全に聞かれたくないことを聞かれてしまった…
誰も居ない所で、しかも雑草をむしりながら独り言だなんて…

草むしりする手を止め、ギュウ君の方に体の向きを変えて立ち上がった
ッパッパと黒い修道服に着いた葉っぱを払って身なりを整える
顔中に散りばった汗を拭いて、彼と顔を合わせる
「っぷ」と呼吸をするみたいに軽い音を出しては、左手で口元を、右手でお腹を抑えている
小刻みに揺らす肩に、私より少し大きな手の隙間から見える広角の上がった口

(私…笑われてる?)
それは正解で、彼の方から切り出してくる
左手を口元から離して、私の鼻先を軽くつまんではクシャッとしたい笑顔を見せてきた

「鼻に泥ついてる。」

「っ!?……あ、りがとう…」

拭き終えて手を離しても、鼻先には若干の微熱を感じる
恥ずかしかに打ちひしがれているのに、ギュウ君はそんな私を楽しそうに見ている

「また、こき使われてるのか?」

「私の仕事だから…。ギュウ君は庭に何か用なの?」

「いや…、ちさが見えたから。」

「私が草むしりしてる姿を近くで見に来たってこと?そんなの見たって楽しくないよ?」

「……。」

急に黙って、バツが悪そうに頭なんかかいてるギュウ君
本当に何しに来たんだか

休憩しようと木陰に移動し、彼が持ってきてくれたお水を飲んだ
ゴクリとその冷たさが喉を伝うのが分かる
太陽に照らされ、黒い修道服によって吸収された熱を冷ますように、暑さで火照る頬を鎮めるように前方からそよ風に近いものが吹いてくる

(平和だ。)
鳥のさえずる音や草木が奏でる音が心地良い
良すぎる天気と、都会離れした空気
綺麗そのもので平和な空

「……昨日のさ、」

「ん?」

「大浴場での…ごめん……。」

「っ!?っべ、別にギュウ君のせいじゃ。後から知ったんだけど、私の部屋の時計遅れて表示されてたみたいだし」

だから実際私が女湯時間だと思ってたのが、男湯時間だった訳で彼のせいじゃない
随分古そうな時計だったし、仕方ないといえば仕方ない

(だから、そんな申し訳なさそうな顔をしないで)
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