逍遙の殺人鬼

こあら

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シスター見習いとなってすぐ、私は仕事を任された
仕事と言っても雑用で、シスターらし事では無かった

「次は洗濯をして頂戴。」

「分かりました、シスターエリ。」

彼女はエリさんと言って、私より4つ上の誓願期間生だ
私が来るまでは彼女が一番若い存在で、新しく来た私をあからさまに嫌っている

次から次へと仕事と称しては、雑用ばかり押し付けてくる
だけど、逆に良かったのかも知れない
だって、忙しくしていたら忘れられるかもしれないから
思い出す暇もないくらい、動いていれば…
そう思って、私は一生懸命働いた









(洗濯・洗濯…右も左も洗濯の山だわ……。)

裏庭に運んだ洗濯の山々を見ては、ドッと疲れが出る
流石に疲れた…
教会の窓という窓を拭いて、蝋燭ろうそくを取り替えては暖炉の灰の掃除
ここに来てすぐというのに、休み無く動いている

「っひっひ…ひくっ…」

「?どうしたの?こんな木陰に隠れて、どうして泣いてるの?」

「シスター…っ、私っみんなにバカにされるの。”お前は親なしだ”って…」

「…、ねぇ、良かったら私と洗濯してみない?きっと楽しいよ」

少しキョトンとした真丸目で私を見る女の子を起き上がらせて、私は手を引いた
私は知ってる
その悲しさも、辛さも、心が張り裂けそうなくらい悲鳴をあげているのに誰にも分かってもらえないことを
こんな時は楽しいことをするに限る

洗濯は楽しくないって、思ってる?
大丈夫、すごく楽しいよ

大きな桶にシーツを入れて、大量の水を流し入れる
洗い粉を入れて、裸足になって桶の中で足踏みしてごらん
ほら、凄いでしょ

「わあぁ!!シャボン玉!!」

「綺麗でしょ!たくさん踏むと、シャボン玉の数も増えるよ。」

「ほんとだ!すごいすごい!!」

(良かった、笑ってくれた)

これが通じるのは、これぐらいの幼い子ぐらいだ
そんな幼い子供に誰が酷いことを言ったのか?…

はしゃぐこの偽りのない笑顔を守りたいと思った
私のように悲しい想い、して欲しくない
そんなの、私だけで充分だ

「お姉ちゃんシスターなのに、シスターらしくないね」

「っえ?…あ、それはね…」

「お姉ちゃんみたいなシスター好き。また会える?」

「もちろん!いつでも会いにおいで。」

確かに、子供と一緒になってはしゃぐシスターなど聞いたことない
いや、私はシスターだから許される、はず…

元気になったのか、女の子は手を大きく振りながら走って行ってしまった
そんな姿が可愛くって、私も手を振り返した
こんなやりとりさえ、大切に感じる

「ふぅ、まだこんなに残ってる。…よし!」

気合を入れ直して、次の洗濯に取り掛かった
汚れを落として、洗い粉を洗い流して干す
これの繰り返しと、お昼を食べていないせいか若干目がかす

それどころか、幻覚まで見え始めた
風に揺られて動くシーツの合間にチラつく人の姿
ハッキリしないその姿に、目を擦って見直せばその姿は居なくなっている
そりゃそうか、だって幻覚だもん

(幻覚だ…)

そこにいるはずない、いる訳がない
こんな所まで来るはずない
そんな人じゃないって分かってる

なのに…後ろから私の手首を掴む感覚があるのはどうしてですか?…
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