逍遙の殺人鬼

こあら

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大型トラックの荷台に居る私は、車の揺れに耐えながらずらっと並ぶ機材を扱っている臼田うすたさんを見ている
正直パソコン以外の機材名なんかは全く分からない
しかし、臼田うすたさんには分かるようで、揺れを無視して何やら作業を進めている

どこに行くのか今回も伝えられてない
私は着慣れないワンピースを身にまとって、背もたれの無い丸い椅子に座っている

ふと昨日貰った指輪を見た
パーティーの前に臼田うすたさんから貰った指輪を、今も着けている
厳密に言うと、外すタイミングを逃しただけなのだが
何だか彼に守られているみたいで、心が落ち着く
未だに返事をせずにいる私を急かしたりしないで、待っていてくれる









揺れが止まった
目的地に着いたのだろうか?

荷台の扉が開かれ、ジャンさんと瑞貴さんが中に入って来た
それと共に口を開いたのは臼田うすたさんだった

「やっぱり僕がちさちゃんと行くよ。」

「駄目だ、ひさしは裏方担当だろ。行くのはこの子と、ジャンだ。」

(状況が全く飲み込めない…)

何の説明を受けていない私は、どこに・何で・何をしに行くか見当もつかない
そんな私に瑞貴さんは「デート楽しんで」と言ってくる
私はデートするために、荷台に乗って揺れていたの?
全く理解できない

「僕もちさちゃんとデートしたーい」

「うわっ、…うっせぇなー。マイクの近くで言うな」

「マイクチャックだよ。ちゃんと聞こえてるね、よし。」

耳元を抑えるジャンさんは、瑞貴さんに促されて荷台から出されてしまう
どうして誰も説明してくれないのか…
口がついてるんだから、喋ってよ。と思うが、既に手遅れ

「行くぞ」と私の手を取るジャンさんに、何をすれば…と問いかけた

「今からあんたと俺は恋人」

「恋人!?」

「のフリをする」

どうしてそんな歯切れの悪い伝え方をするのか…
”恋人”その言葉を実行するように、繋ぐ手の指を絡ませてくる
いわゆる恋人繋ぎだ

できれば、どうして恋人のフリをするのかも説明して欲しいのだが、そんなことはお構い無しに進んでいく
どうやら今日は何かのお祭りの様で、街は賑わっていた
色んな屋台に出し物
ピエロの格好をした人や火を吹く男など、まるでサーカスだ

そんな輝きに目を取られていると、誰かに肩を突かれる
振り返るとそこには白と黒で着彩された、少し不気味な男性がいた

男は帽子を取ると、そこから勢い良く鳩を何羽も出現させる
それに感動していると、男の口からトランプカードを出してくる
見事な手品に、私は盛大に拍手をした
それに釣られたのか、大勢の人がやってくる

男は胸ポケットから赤いハンカチを取り出すと、中から真っ赤な薔薇を一輪出して見せる
それに観客は大喜び
私もすごい!!と拍手すると、男は私にその薔薇をくれた

「ありがとうございます!すごい綺麗」

薔薇の匂いを嗅いでいると、横からジャンさんに奪われる
一体何をするのかと焦ると、ジャンさんの隣に居た女の子に薔薇を渡した
女の子は「ありがとう」と微笑んでいる

大人げないと分かってはいるが、私が貰ったのに…と拗ねてしまう
なのに強引に手を引かれるから、男の手品を見続けることができなかった

「薔薇…」

「花なんかすぐ枯れる」

「そうだとしても気持ちの問題です。例えすぐになくなるものでも、気持ちがこもっていたらどんなものでも嬉しいです。」

「へぇー。だからあんたは馬鹿みたいにバイキングせしめてた訳か」

「っあ、あれは、普段食べれないご馳走だから…飛びついただけです…」

全く弁解できていない、その言い訳に鼻で笑われてしまう
自分だって、車にお菓子詰め込んでるくせに
人のこと言えないじゃん、とか思うが怒られるので言わない
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