98 / 333
98
しおりを挟む
人混みから離れた私は、トイレを目指していたはずだったのに何処にあるかなんて分からなくて、左右をキョロキョロしながら歩き進んでいた
別にトイレに行かなくても良いんだけど…と、自ら自分にツッコんだ
ただいつもと違う臼田さんから逃げたくて、移動しただけだ
そもそも今自分が何処に居るのかすら、把握できていない
どうしよう、と悩んでいると壁際に添えられたソファーに座り込む、輝くブロンド女性が座っていた
別に知り合いでもないその女性は、仮面を着けているのに何だか哀しそうで話しかけてしまった
「あの…大丈夫ですか?」
「ア…アノ、ワタシ…」
「っあ!」
私はそのなまりの入った日本語に察しがつき、すぐに英語で"大丈夫ですか?"と再度聞き直した
女性はその質問に英語で答えてくれた
"大丈夫です…"と口では言っていたが、その憂いの入った瞳が嘘だと言っていた
『私で良ければ、お話聴きますよ。どうせ、言いふらす知り合いなんて居ませんから。』
『…あの、私…彼氏と来たんですけど、その……場違いな気がして…』
『分かります……。私も、最初は場違いな気がしてました。でも仮面つけてますし、今だけは自分じゃないって考えたら、少しは……楽しめた気がしました。』
仮面を着けた私は私じゃない他の人
そう考えたほうが楽だった
だから、この爽やかな青の肩が出たドレスもいつもと違う下ろした髪型も、私じゃないから受け入れられた
そうじゃなきゃ、今頃裸足で走って会場から脱出していただろう
仮面を着けていても…と落ち込み続ける彼女は、どこか自分と似ている気がしてほっておけなかった
『彼の横に…堂々とした態度で居られないんです…。彼は、どうして私なんかを側に置いてくれるのか…』
("どうして…")
『私はまだまだ日本語は不慣れで、気持ちなんて全然伝えられなくて…どうしていいか……』
『でも、お好きなんですよね?』
その単刀直入の質問に彼女は仮面越しに顔を赤らめ、無言で頷いだ
『好きです…』と頬を抑えながら言うのは、同じ女の私でも可愛いと思わせるほどの愛らしさがあった
私よりも人間味のある彼女でも、こうやって悩むんだと改めて思った
私なんて日本生まれで日本育ち、勿論日本語を話しているけど自分の気持ちなんて伝えられたことは少ない
そんな私を好きだと言った臼田さんには、まだあの返事はできていない
『私…大木になりたいって思うときがあるんです……』
『え?…』
『木ってひと粒の小さな種から葉を育たせて大きくなっていくんです。土の下には根っこを生やして、周りの木とコミュニケーションを取ってるって言われているんです。』
『根っこが?』
『あの物静かな木ですらできることを…私はできていないんです…』
コミュニケーションを取れるどころか、色々なものに使われる木は私より有能で、どれだけ自分が無駄な存在なのかを考えさせてくる
そんな分かりづらい私の話に、何故か共感してくれる彼女は『分かります…』と拳を握りしめた
でも、彼女は私とは違う
彼への気持ちは確かで、私は不確かだ
『どうして彼氏さんと一緒にいないんですか?』
『彼は…有名人で、私はその他大勢なんです。そんな彼の横なんて、私には恐れ多くて…』
『でもそんな彼氏さんに選ばれたのなら、もっと誇って良いんじゃないですか?』
"選ばれた"、それは羨ましくて手の届かない立場
臼田さんの言葉だって、信じられない
他人には言えているのに、受け入れられない自分は矛盾を
極めていた
別にトイレに行かなくても良いんだけど…と、自ら自分にツッコんだ
ただいつもと違う臼田さんから逃げたくて、移動しただけだ
そもそも今自分が何処に居るのかすら、把握できていない
どうしよう、と悩んでいると壁際に添えられたソファーに座り込む、輝くブロンド女性が座っていた
別に知り合いでもないその女性は、仮面を着けているのに何だか哀しそうで話しかけてしまった
「あの…大丈夫ですか?」
「ア…アノ、ワタシ…」
「っあ!」
私はそのなまりの入った日本語に察しがつき、すぐに英語で"大丈夫ですか?"と再度聞き直した
女性はその質問に英語で答えてくれた
"大丈夫です…"と口では言っていたが、その憂いの入った瞳が嘘だと言っていた
『私で良ければ、お話聴きますよ。どうせ、言いふらす知り合いなんて居ませんから。』
『…あの、私…彼氏と来たんですけど、その……場違いな気がして…』
『分かります……。私も、最初は場違いな気がしてました。でも仮面つけてますし、今だけは自分じゃないって考えたら、少しは……楽しめた気がしました。』
仮面を着けた私は私じゃない他の人
そう考えたほうが楽だった
だから、この爽やかな青の肩が出たドレスもいつもと違う下ろした髪型も、私じゃないから受け入れられた
そうじゃなきゃ、今頃裸足で走って会場から脱出していただろう
仮面を着けていても…と落ち込み続ける彼女は、どこか自分と似ている気がしてほっておけなかった
『彼の横に…堂々とした態度で居られないんです…。彼は、どうして私なんかを側に置いてくれるのか…』
("どうして…")
『私はまだまだ日本語は不慣れで、気持ちなんて全然伝えられなくて…どうしていいか……』
『でも、お好きなんですよね?』
その単刀直入の質問に彼女は仮面越しに顔を赤らめ、無言で頷いだ
『好きです…』と頬を抑えながら言うのは、同じ女の私でも可愛いと思わせるほどの愛らしさがあった
私よりも人間味のある彼女でも、こうやって悩むんだと改めて思った
私なんて日本生まれで日本育ち、勿論日本語を話しているけど自分の気持ちなんて伝えられたことは少ない
そんな私を好きだと言った臼田さんには、まだあの返事はできていない
『私…大木になりたいって思うときがあるんです……』
『え?…』
『木ってひと粒の小さな種から葉を育たせて大きくなっていくんです。土の下には根っこを生やして、周りの木とコミュニケーションを取ってるって言われているんです。』
『根っこが?』
『あの物静かな木ですらできることを…私はできていないんです…』
コミュニケーションを取れるどころか、色々なものに使われる木は私より有能で、どれだけ自分が無駄な存在なのかを考えさせてくる
そんな分かりづらい私の話に、何故か共感してくれる彼女は『分かります…』と拳を握りしめた
でも、彼女は私とは違う
彼への気持ちは確かで、私は不確かだ
『どうして彼氏さんと一緒にいないんですか?』
『彼は…有名人で、私はその他大勢なんです。そんな彼の横なんて、私には恐れ多くて…』
『でもそんな彼氏さんに選ばれたのなら、もっと誇って良いんじゃないですか?』
"選ばれた"、それは羨ましくて手の届かない立場
臼田さんの言葉だって、信じられない
他人には言えているのに、受け入れられない自分は矛盾を
極めていた
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる