逍遙の殺人鬼

こあら

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店内だといのにサングラスをかけたままのジャンさんが透さんに呼ばれ、女優ライトに照らされる私の方に歩いてくる
そんな彼を美容部員BAさん方が黄色い声援で見ていた
不機嫌そうにしているのがサングラスをかけていても分かる
「いい?」とジャンさんに鏡の私を見るように促し、何やら説明が始まった

「ちさちゃんは色白だからリップを濃くしすぎると、より青白く見えちゃうから肌馴染みのいいものを使うこと。」

「ん」

「塗るときはつけ過ぎ注意ね。こんな感じに、」

そう言うと数あるリップの山々からそれを取り出し、ブラシで口元を彩る
その手はテキパキとしていて手慣れている感じだ
「ほら可愛い」と鏡越しに目を合わせてくる透さんは、その道のプロごとく輝いて見えた









「茶色いアイシャドウを使うと疲れて見えるから、ピンクや赤系の色を使うと活発に見えるよ。紫はダメ、もっと血色がなく見える。」

「どれも変わんねぇだろ」

ならちゃんと見ること。ちさちゃんは若干寄り目気味だから目尻側をオーバーに塗るようにすると、もっと可愛くなるよ。」

「"寄り目"ねぇーーーーーー」

どうしてそこを復唱するんですか!?
寄り目…………………寄り、目って…

「目瞑ってね」と呼びかけられ、ッハとする
すいませんと目を閉じ、まぶたに肌触りの良いものが行き来した
その間もジャンさんと透さんの声は聞こえる

アイラインは少し長めで、とかハイライトがどうとか
私にはよく分からない
もはやなどと言う単語には、頭が破裂しそうだ

「はい、できた!!ちさちゃん目開けていいよ。」

その合図で目を開ける
鏡にはさっきまで居た芋女からグレードアップした、顔立ちのはっきりとした自分が、座ってこちらを驚いた顔で見ていた
メイクってすごい………

「パーティならこれくらいしないと逆に目立つよ。」

「いつものあれは?チーク?ってやつ」

「ちさちゃんには必要ないかなー。っね!」

いや、”っね!”って……
ウィンクされても困るんだが……
あははは……と笑って返すが、ちゃんと笑えていただろうか?

「お代は4万っ、うぐっ……」

「っちょ、なんで透さん蹴るんですか!?」
「いいのいいの、ちょっとふざけてみただけ」そう言うとジャンさんとレジの方に行き、何やら話し込んでしまった
私は再度自分の顔を鏡で確認すべく、椅子に座り直す
ちょうど頬の跡は消えていて、メイクに支障は出ずにすんだ

今まで化粧をしたことがなかった私には全てが初めてで、驚きの連続だった
昔から女性はこうして美しさを出していたんだと思うと、女って大変だな……と改めて感じる

話が終わったらしく私の方にやって来た透さんは、仕上がったばかりのメイクを丁寧に落としていく
流石にこれで外に出るのはまずいと分かっていたようだ
何故かリップを落とさず「はいOK」と終了を告げられ、お店を後にする
感謝を伝えお別れをしようとする私に、透さんが耳元に近寄り囁いた

「ビルといい感じになれるといいね。」

「んなっ!!」

そんなことを言って人差し指を口元に持っていくと「シー」と頬んでくる
この人どういう思いでこんなことしてるんだろう…
「またいつでもおいで。」と掌をひらひらさせて私とジャンさんは透さんと別れた

先に歩き出すジャンさんを追い、私も歩き出す
彼の手にはお店のロゴが入った買い物袋が握られていてた
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