逍遙の殺人鬼

こあら

文字の大きさ
上 下
54 / 333

54

しおりを挟む
私を追ってやってきたジャンさんによって、彼女から離されてしまう
また後で会おう、そう言えたら良かったのに…そんなこと言えるはずもなく、ジャンさんに肩を抱えられたまま彼女に背を向け歩き出してしまう

チラッと後ろを見るけど、幸せそうに笑う彼女に何だかモヤ…とした
私が居なくても、あの子は大丈夫そうだった
その事実に胸が押しつぶされそうな思いになった

____________________私は……用無しのようだ……………









急に肩を掴む手に力を込めたジャンさん
え?と彼の方を見ると、笑顔のだったはずの顔は面影がなくなるほど怒っていた
いくら遅い時間だからと言っても分かるほど、彼の眉間にはシワが寄っていて眉は尖り、瞳は光を遠ざけるみたいに冷たく見える

「あんた、なにしてんの」

「…あの、ジャンさん…」

って聞いてんだよ!」

そんな風に言われビクっと身体が強張り、離されない肩は痛いほど掴まれている
「早く答えろ」と鬼の形相で迫るジャンさんは怖かった
その凶器みたいな瞳が私をさらに硬直させる
その恐怖に耐え、竦む口を精一杯動かく

「っ、友達を…見かけたから……」

「なんで言わねぇんだ!なんで1人で行くんだ!なんでそんなに…馬鹿なんだ」

(もしかして…心配、してくれたの……?)

違うかもしれないけど、もしそうなら…少し嬉しい
口調は強いのに、顔は怒っているのに、何故か言葉は優しく響く
………でも、どうして?

「どうして……ジャンさんが、心配するんですか?」

「俺が心配しちゃいけねぇのか」

「っ、それ、は…………」

いけない、だなんて言えない
だけどそんなふうに聞かれると…………困る

思わず彼から顔を背け下を向く
一時避難だ
心を、状況を整理するためのもの……なのにすぐにそれはやめさせられる

「またそれだ、そうやって下を見るのやめろ」

肩にあったはずの手が顎を覆うように頬を掴み、下を見るのを強制的に阻み自分の方に向かせる
…だから、痛いって………。

「なんであんたはいつも肝心なことを言わないんだ!」

「っ、………痛い…です…」

「そんなことを聞いてるんじゃねぇ!はぐらかすな!!」

何を言えっていうんだ
言ったところで何になる…

どうして彼女を見て必死になったか?
施設でのこと?
私の過去の話?
そんなこと…聞いたところで今さらだ

「…、私は自分が嫌いです…。従うしかできなかった自分も今の自分も。…それだけです」

「そんなんじゃ分かんねぇだろ、ちゃんと言え!」

「………電話、鳴ってますよ」

救われた…これ以上話したって何にもならない
舌打ち混じりに私を離すと電話に出た
相手は臼田うすたさんみたいで「見つけた」と返していた

場所を伝えてるみたいで「そこじゃねぇ」と意外にも通話はすぐには終わらなかった
待っている間にふらっと辺りを見渡す
何を見たいわけでもない、何となく見ただけ

なのに…そこには見たくもない人物が立っていた
遠くにいてもその気持ち悪さは存在感があって、見ているだけでも吐き気が出そうで思わず後退った

そいつは口パクで《み・つ・け・た》と私に言う
こんな時だけは視力が悪い方が良かった
その目に写ってしまった現実に怖くなり、すぐそこで電話を続けるジャンさんの服を掴んでゆっくり歩み寄った

その時ばかりは私の動揺を察したのか、怒ったりせず「なんだ」と言ってくる
"みつけた"その言葉にどれだけの恐怖を感じるか
その恐怖を消し去りたくて彼で隠れるように抱きついた
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

【完結】婚約者の母が「息子の子供を妊娠した」と血相変えてやって来た〜私の子供として育てて欲しい?絶対に無理なので婚約破棄させてください!

冬月光輝
恋愛
イースロン伯爵家の令嬢であるシェリルは王族とも懇意にしている公爵家の嫡男であるナッシュから熱烈なアプローチを受けて求婚される。 見た目もよく、王立学園を次席で卒業するほど頭も良い彼は貴族の令嬢たちの憧れの的であったが、何故か浮ついた話は無く縁談も全て断っていたらしいので、シェリルは自分で良いのか不思議に思うが彼の婚約者となることを了承した。 「君のような女性を待っていた。その泣きぼくろも、鼻筋も全て理想だよ」 やたらとシェリルの容姿を褒めるナッシュ。 褒められて悪い気がしなかったが、両家の顔合わせの日、ナッシュの母親デイジーと自分の容姿が似ていることに気付き少しだけ彼女は嫌な予感を抱く。 さらに婚約してひと月が経過した頃……デイジーが血相を変えてシェリルの元を訪ねた。 「ナッシュの子を妊娠した。あなたの子として育ててくれない?」 シェリルは一瞬で婚約破棄して逃げ出すことを決意する。

【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。 妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。

婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……

木野ダック
恋愛
メティシアは婚約者ーー第二王子・ユリウスの女たらし振りに頭を悩ませていた。舞踏会では自分を差し置いて他の令嬢とばかり踊っているし、彼の隣に女性がいなかったことがない。メティシアが話し掛けようとしたって、ユリウスは平等にとメティシアを後回しにするのである。メティシアは暫くの間、耐えていた。例え、他の男と関わるなと理不尽な言い付けをされたとしても我慢をしていた。けれど、ユリウスが楽しそうに踊り狂う中飛ばしてきたウインクにより、メティシアの堪忍袋の緒が切れた。もう無理!そうだ、婚約破棄しよう!とはいえ相手は王族だ。そう簡単には婚約破棄できまい。ならばーー貞操を捨ててやろう!そんなわけで、メティシアはユリウスとの婚約破棄目当てに仮面舞踏会へ、行きずりの相手と一晩を共にするのであった。けど、あれ?なんで貴方が隣にいるの⁉︎

処理中です...