逍遙の殺人鬼

こあら

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前方から勢いよく吹く風が冷たい
元々血が通ってないかのような冷めきった手がさらに冷えていくように、周りの空気が冷ましていく
その手はポケットに入れているにも関わらず冷たいままで、グッと力を入れても温まることはなかった

空は鮮やかな蒼色からオレンジ色を通り越して、熟した柿みたいに濃い色を出している
奪った髪留めで結び、存在をあらわにした首元には1つのチェーンネックレスが纏っていて、さらに冷たさを感じさせてくる

ふと前を歩く2人を見た
身長差が少しあるせいか、真っ直ぐ列に歩いてもかめの頭が見えた
そんなかめの後ろを、申し訳なさそうに弱々しい肩でバランスを取った身体が歩いている

何故かその姿を見ると無性に腹が立つ
何にも抗えないような、自らを無力だと主張するその態度と事実
この世界に生き残るには弱すぎる生き物


「イライラする」









朝あいつの背中を見た時、なんだか複雑な気持ちになった
あの程度の怪我見慣れているはずなのに、何だかそれ以上壊してはいけないと進めなかった

昔の自分を思い出させるみたいで見るのをやめた
幼い頃は俺もそんなんだった
大人の権力と暴力でねじ伏せられ、抗うことを許さないそれは誰にも言えず、自分の中に溜め込んでいた
やっと気づいてくれる人が現れたかと思ったら、その命は一瞬で奪われて自分の非力さを見せつけられてるみたいだった

これだってそうだ
この呪いみたいに身体に彫られたそれは、自分で入れたわけじゃない
誰が好き好んでこんなもん入れるか
それを鏡で見るたびに嫌気が差す

あいつもそうだ

「…あいつどこ行った」

さっきまで目の前を歩いていたのに、少し目を話した隙に消えやがった
周りを見ても近くには居ない

(俺は何であいつを探してるんだ?)

走り出して止めた脚を見て思った
あいつがこのまま居なくなれば、元の生活に戻れるじゃねぇか
なのになんでこんな焦ってんだ、俺は…

そうだ、このままかめの所に戻って気づかなかったフリすればいい
そうすれば、かめだって諦めるだろう
__________そう思ってんのに、あいつが大声で叫ぶにたいに話す声が聞こえて思わずそっちに目をやったら、男に殴られそうになってて…気づいたら走ってた

(あいつ何やってんだ、)

「おい、探したぞ。何だこいつら」

何でそんな驚いた顔してんだ
それに、この男…まるで生きてないかのような雰囲気、どこかあの人に似た顔
何となく出会ってはいけないと思わせてくる

「ちさ?その人は…」

男は俺の指のタトゥーを見たかと思ったら驚いた顔をしやがる
そんな男の近くに居た女が俺のことを聞いてくる
それに答える前に、こいつは俺の質問に答えた
友人とその彼氏だとか、なんだかいけすかねぇ
その後に「この人は雇い主…。」と言った

こいつなんで今、嘘ついたんだ?
その嘘を疑いもしないで「お世話になってます!」だなんて馬鹿真面目に挨拶してくるが、正直乳がでかすぎて名前なんかは入ってこなかった
お辞儀したタイミングで揺れる巨乳から目を離し、こちらこそと笑ってみせる


「彼女にはいろいろとお世話になってます。申し訳ありませんが、我々は買い物が残っていますので、これで失礼します。」

「っあ、そうですか。どうぞ、お邪魔しました。」

ここから離れたい、こいつに聞きたいことがある
なんで離れたのか
なんで嘘をついたのか

それなのに「おい、ちょっと待て」と俺を呼び止め、何か言いたげに身構えてくる

「あんた、…もしかして。」

「どうしました?」


「…。いえ。なんだか、すごく感謝したい気持ちがこみ上げてきたんで。」

「はい?」

「気にしないでください。引き止めてすいません」

なんだこの男
"感謝したい"だと?初めてあった奴に感謝されるようなこと、した覚えはない

今のは何だったんだ?
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