逍遙の殺人鬼

こあら

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「っも、もう電話終わったんですか?」

(軽く読むつもりが集中しすぎた……)

正直もっと読んでいたいけど、と名残惜しさが残る中読書をやめた
本を読むのは久しぶりで、読めることが嬉ししくてつい手に取ってしまった
ジャンさんは?と反対側を見ると、臼田うすたさんの声なんか聞こえていないかのように読み続けている
その立ち読み姿は先程の自分と同じでなんだか笑えた

「もぉジャン?僕電話終わったよ。ジャン?ねぇジャン?」

「……うっさい、耳元で騒ぐな。慰謝料請求するぞ」

「それはやだ」と軽いノリで返す臼田うすたさんに、怪訝けげんな目で睨むジャンさん
うっざ、と読み途中の本を棚に戻す
買わなくてよかったんだろうか?









本屋さんを後にし、次なるお店に向かう
相変わらず行き先は教えてはくれず、手を引く臼田うすたさんの後ろをついて行く
手を握るのはまだ恥ずかしいが、この優しい手には慣れ始めている

「……っ!?」

「っう、ままぁ……」

いきなり小さな女の子に裾を掴まれ、動きを止めた
見知らぬその子は「まま……どこぉ……」と号泣している
迷子のようだ

「ママとはぐれちゃったの?」

「お人形…見てたら、ままどっか行っちゃった…」

「迷子だね、サービスカウンターで呼び出してもらおう」

「そうですね。お姉ちゃんたちと行こうか。」

涙で濡れる女の子の目元をハンカチで拭い、臼田うすたさんから手を離し少女の手を握る
それに応えるように、小さな手がぎゅっと握り返してくる

サービスカウンターに入ると臼田うすたさんが事情を説明し、優しそうな女性が親の名前なんかを聞くため話始める
その間も握り続ける手を私は見ていた
こんな小さい子が親と離れるのは、短い時間だとしても心が痛む
私は握られることのなかった手と少女の手と勝手に重ねて心が重くなった
この子は私とは違う、そんなことは分かりきっていたが無性に離したくないと思った

「では見つけた時間や状況をもう少し詳しくここに記入していただけますか?」

「よろしければ座って待っていてください」

「ありがとうございます。座ろうか。」

子供用のソファーに私と少女、そしてジャンさんが座る
そんな彼は足が長いせいか座りずらそうに腕組みしながら黙って座っている

「ねぇ、お姉ちゃんほっぺどうしたの?」

「っえ?」

(っあ、そうだ、お化粧取れてたんだ。痣のこと忘れてた……)

「あのお兄ちゃんに叩かれたの?」と子供特有の直球な質問に、全力で否定する
臼田うすたさんがそんなことする訳ないでしょ。子供に言っても意味ないが……
そんな様子を見て「じゃあこっちのお兄ちゃん?」と隣に居るジャンさんを指差す
その質問に不機嫌になったジャンさんに一瞬固まり、違うよ。と答える

「お姉ちゃんとあのお兄ちゃんは恋人なの?」

「っえ!ち、違うよ!」

「て、つないでたよね?」と言われっう、と口籠る
ちゃんとい見られていた
その事実に遅れて恥ずかしさが押し寄せてくる

「こっちのお兄ちゃんが恋人?」

「違う違う、恋人じゃないよ!!」

「嫌いなの?」

「きっ、……らいじゃ、ないよ?」

私は今なぜ、そんなことを聞かれているのだろうか?
しかも、バカ真面目に答えたりして……
「じゃあ好き?」と聞かれ、困ってしまう
ここで否定したら……そう思うだけで悪寒が走る

「うん、……好きーーかな?」

「じゃあチューするの?」

はぁい!?!?!?!?!?”チュー”?
このお子様はなんて事聞くのかしら……
しないしない!と首を横に振ると、私に向いていた身体をジャンさんの方に向け、今度は彼に質問する

「お姉ちゃんのこと好き?」

「あぁ?」

っちょ、ジャンさん、子供相手にそんな態度……
ジャンさんは子供でも、そんな風に嫌そうな顔するんだ…と思いながら、ハラハラしながら隣で見守る

「お姉ちゃんのことぜんぜん見ないね?アツイシセン、おくらないの?」

「馬鹿か、そんなことしたらこいつ妊娠するぞ」

「っちょ!ジャンさん、子供になんてこと言うんですか」

少女の耳を塞ぎ小声で訴える
なんだかその卑猥ひわいな言葉を、聞かせてはいけないと耳から手を離すことができなかった
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