逍遙の殺人鬼

こあら

文字の大きさ
上 下
7 / 333

しおりを挟む
まぶたの裏側が明るい

カーテンを開けたまま寝たおかげで朝早く起きることができた
幸い寝起きは良い方で、早起きなんかも全然苦じゃない


消灯時間は決まっていたけど、起床時間前に起きることは禁止されていなく、朝早く起きて日の出とともに太陽の明るさを頼って本をよく読んでいた

同室の子に悪いと思って電気はつけたくなかった

でも、唯一の楽しみ、趣味と行っても良いかも知れない
小説や論文、あらゆる本を読んでいた


周りからは良く本の虫と言われた

暇さえあれば本のことを考えて、時間があれば本を読んでいた


一度読んだら続きが気になる
本の1ページ1ページをめくるあの感覚が好きだ
知らない出来事、知識が頭の中に入ってくる嬉しさと言ったら他に例えようがない

クリスマスや誕生日に何が欲しい?
その質問には即答でと答える
だって、本が欲しいから欲しいって言う


毎年毎年そのお決まりの言葉に施設の子は私のことを少し変な子だと言っていたが、気にしないとうそぶいていた

こんなの自己満足だって心の中で自己完結して自分を守った

あなた達が欲しがっている物だって結局は自分のため、欲を満たすためのモノ
私はそれがたまたま本だっただけだ

モノが違うだけで本質は一緒じゃない









んんーーーー!っと大きく伸びをして立ち上がり、居間を後にする

台所に入り朝食を考える
ふとゴミ箱に目が行き、昨日の夕食が捨てられていることを再度認識する


昔ある子がいつも私が本を読んでいることが気に入らなかったみたいで、私が貰ったばかりの本を目の前で奪ってビリビリに破かれたことがあった

その時はまだ幼く、大事に読んでいた本を壊されて大泣きしたくらい悲しかった
破かれた紙を全て集めてセロハンテープで貼り付けて何とか読めるように治したかった
だけど、どれがどこにあるのか、何ページなのか分かる訳もなく、当然ながら本は治らなかった
そのうれいに胸が締め付けられそうになっていた

その子が里子に出される時、当時のことを謝って来た
意地悪がしたかったのではなく、ただ私と仲良くしたかったけど本ばかり読んでいて中々話すことができず、勢い余ってやってしまったことだったと

声をかけてくれれば読むのをやめ、ちゃんと話を聞いたのに

当時はそう思ってたけど、今思い返すと近寄りがたい雰囲気の中をわざわざ突っ走るバカはいない



本を破られた時の感情と似た何かが今、胸の奥底でざわめいていた


(朝食、朝食、作らなきゃ)

食材がないから簡単におにぎりを作ろうと思う
昨日土鍋で作ったごはんを使ってシンプルに塩むすびでいこう

そう考えていると後ろから胸をガシッと鷲掴みされる

「きゃあっ!!」

「んー、もうちょい胸あったほうがいい」


いきなり何を!?!?!?

あまりの猥雑わいざつ驚嘆きょうたんな出来事に戸惑いを隠せずにいると、掴んだ手を動かし胸を揉んでいく

揉む手が、何だか意図的に敏感な所を刺激するかのようにいやらしく動く

いきなり過ぎて頭が真っ白だ


「っんん…」

「へぇー、結構いい声出すじゃん」


まずい、完全に彼のペースに踊らされている


必死に抵抗し、彼から離れて距離を取る
危ない相手だ

考え事をしていたせいか近づいてくるジャンさんに全く気づかなかった

当の本人はふんっと私を嘲笑っていた


「そんなに気持ちよかったんだ」

「…っ!っせ、セクハラ、セクハラよ!!」

そう言って台所のお手拭きタオルでバシバシ叩く



別に図星を突かれたとかそんなんじゃない

今の出来事が恥ずかしくて、彼の婬猥いんわいな行動に赤面している自分の顔を見られたくないだけだ


そんな小さな攻撃も虚しく簡単にタオルを掴まれ、紅潮した顔を見られてしまう



「俺の家だから何しても合法」


嫌なら出て行けと言い放つと戸棚からカップラーメンを出し、ポットでお湯を沸かし始めた


朝食作ります
そう言っても、答えは決まってる


『知らねぇ奴の作ったメシなんか食えるか』

きっとまたそう言われるだろう



カチッ、お湯が沸いたポット音が自分がどれだけ非力なのかを思い知らされた


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

処理中です...