求不得苦 -ぐふとくく-

こあら

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外伝

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病室の窓から流れ入る風が肌に触れる

桜が舞って春を主張してくる







「お姉ちゃん、…元気かな?また会えるって言ってたけど…」


















「お姉ちゃん、もうアキの所に会いに来てくれないの?」



少し悲しげに少女に問うと

「ごめんね。でも、アキちゃんから会いに来ることになると思うよ。」



「てことは、また会えるってこと!?」



顔をパァっとさせて喜ぶ



それとは対照的に少女はいつにもまして悲しげだった



「ごめんね。結局何もできなかったよ…」







「お姉ちゃん?」



少女に声をかけるがもう姿はなかった















(早く会いたいなー)


そう思いながら色鉛筆を持つ手を動かし鼻唄を歌う





桜の花びらが絵の上に落ちてきて微笑んでいると病室のドアが開く






「…っあ…。」







「お母さん…。」






入ってきたのは母親だった




「あからさまにがっかりした顔しないで」




「ごめんなさい。…お兄ちゃんは来てないんだと思って…」





「母さんだけじゃ不満なの?あの子は留学中って言ったでしょ。」






「アキが入院してるって連絡してくれたんだよね?」







「したわよ!いちいちうるさいわね。」


 不機嫌になる母親を前に怯える





(お兄ちゃん、会いたいな…)


悲しい気持ちを押さえて、とびきりの笑顔を作る



お母さんがお見舞いに来たのはいつぶりだったかな?


お見舞いに来るのはお母さんだけで、なかなかベッドからも降りられない私は毎日が少し退屈で仕方ない



暇潰しにと描きはじめた絵も、今ではお姉さんやお医者さん、お姉ちゃんに見せたりと楽しみの1つになっている









「これ買ってきたわ。」



そう言ってスポーツドリンクを差し出す


ありがとうと手に取る






「飲みなさい。」




「はい…」





毎回このスポーツドリンクを買ってきてくれるのはお母さんの優しさなんだと思うけど、正直味が好きじゃない






スポーツドリンクは甘いのに少し苦いような、変な味がする





(でも、飲まなきゃお母さんが悲しむ…)







ごくっと1口飲んでキャップを閉める





(うぅ…、やっぱり変な味…。)




「ありがとう、お母さん。」




スポーツドリンクを飲んだのを確認すると、スマホに手を伸ばす




「…お母さん、アキはいつ退院できるのかな?」







「…、あなたの体の回復が全然追い付いてないんだって。だから退院はまだまだ先よ。」






(まだ退院できないんだ…)


それでも頑張って笑顔を作る




あんまり暗い考えしないでおこう


もしかしたら退院なんて、一生できないかもそんな風に考えたらそれが現実になってしまう気がして、なるべくなるべく良い方へ考える良いにしてる




このままの状態がずっと続く、そう考えるだけで胸の奥がぎゅってなって息苦しくなる…





「っさ、そろそろ帰るわ。ちゃんと飲み干しなさいよ。」




「…わかりました。」









パタンっとドアの閉まる音が病室に響く








ふぅっ、と一息つき窓へ目を向ける





「外に出たのは、どれくらい前かな…?」


だんだん眠気が襲い目蓋まぶたが重くなる





(今頃、学校行って友達いっぱいつくって遊んだりしてたのかな…?)





なんか呼吸が…、しずらいな…






やっぱり悪い方に考えるのは良くないな…


早く元気になって、学校に行って、友達沢山つくって
お兄ちゃんや皆に早く会いたいな









呼吸が徐々に浅くなっていることに誰も気づかなかった










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