波のカナタ

石川 直生

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柚子 小田哲 晶 功

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 高校一年の美術の授業が終わった。
 柚子先生は、波の高校を去り、遠くの小学校に非常勤講師で赴任すると、女子生徒に聞かれて話している。

 小田哲が晶に尋ねる。
「知ってた?」
「今、知った」
 小田哲が、先生のところに行く。

「センセー。酷いじゃん。どうして俺たちに何も言ってくれなかったの? お別れ会とか、デートとかさ。したかったのに」
「ごめんごめん! 内示が出るまで言えなくて。上からのお達し。悪く思わないで」
 小田哲と先生が、いろいろ話している。

「お先に」晶は、教室を移動した。
 どうして。どうして何も言ってくれなかったの。俺が……子供だから?
 黙っていなくならないで。彼氏じゃなくてもイイ。一番じゃなくてもいい。だから。だからーー。
 どんな繋がりでもいいから。切らないでーー。捨てないでーー。お母さん。(て言ったらキミはちょっと!って言うかな)
 柚子。ボクを一人にしないで。抱きしめてーー

 次の日の終業式。晶は、前の晩に一睡も出来ずに、微熱が出た。高校を初めて休む。
 終業式が終わって小田哲が川瀬先生のところに挨拶に行く。
「センセ。いつ、行くの?」
「今日」
「そお。連絡先教えて」
「いいよ」連絡先を陰で交換する。

「ねー。もしさ」
「ん」彼女と別れたら、相手してくんない?
「あ。先生、彼氏いんの?」
「どーだろね。ってキミ興味無いでしょ?」そーでもないよ。けど。ちょっと遠距離は無理かな。なんせ甘えんぼさんだから。
「じゃね。先生。またこっちきたら遊ぼうよ」
「ありがとね」小田哲が走っていく。

 自分の部屋の布団の中でゴロゴロしている晶。もう、どうもないのだけど、なんか落ち込んでる。結局、先生と教室でちゅうできなかった。それに、春休みに先生の薬指に指輪とかつけてみたかった。それから
 ピンポンが鳴って自分しかいないので、インターホンのカメラの画像をみる。佐々木功がいる。晶、心臓が一気にドクンと高鳴る。ドアを開ける。
 功は、柚子先生に頼まれてお見舞いにきた。ゼリーやらスポーツ飲料をもらう。先生が、お金をくれたと言う佐々木功。
「大丈夫ー? 先生が心配してたよ」
「ありがと。もう平気」
「そっか。先生に晶の様子見てきてって」
 ……。先生。ごめんね。仕事なんだから、しょーがナイじゃんね。ごめんね。子供で。
 もう、お別れなんだね。
 いつも暖かかったキミーー  ずっと包まれてたかった。キミのぬくもり。
 だけど、今のボクじゃ先生を引き止めることなんてできナイ。

 佐々木功がボーッとしている晶を覗き込む。
「晶」
「ん」
「平気?」
「うん。先生、いつ出発すんのかな」
「今日の夕方の便だって」え。今日?

「お別れ言いたい。ーーお礼もちゃんと言えてない」
 功が携帯を出して時間を見る。
「今から急げば間に合うかも。晶、連絡先教えて。先生に聞いて送ってあげる。晶はすぐ空港に向かって」
「うん。功くん。ありがと!」
「急いで」
 晶はジャージのまま、携帯と財布を持って自転車で駅に向かう。

 ©️ 石川 直生 2020.
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