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帝王と説得

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ギルバート=グリード
レベル50
職業:帝国帝王
攻撃:50
魔力:50
防御:50
精神:50
素早:50
幸運:50

 帝王のステータスが視界の中に写される。
 どうやら本物のようだが……
 数値が明らかにおかしい。
<ステータス>を改ざんするなんて本来ならあり得ないことだが、帝王クラスになればそれくらいは出来るのだろう。

 むしろ明らかにあり得ないステータスであることが、逆に相手がそれだけただ者ではないことを表していた。

「まさか帝王自ら来てくれるとはな」

「余を探していたのだろう。手が省けてよかったではないか」

「ああ、まったくだよ」

 思わず吐き捨てるような口調になってしまう。
 まったく、油断していたな。
 帝王はもっと慎重な性格だと思っていたんだが。
 まさか向こうから直接やってくるとは。

 でも考えてみれば当たり前でもある。

 分裂体がある限り、どれだけやられても自分に痛手はない。
 怪しい奴を見かけたら、とりあえずこうして直接見に来るのが一番手っ取り早いからな。

 それに姿を変えていたあの魔法。
 幻覚かなにかだろうか。

 俺たちは帝王の秘密を探りつつ、その居場所を特定していく予定だった。
 しかし分裂を作るだけではなく、姿まで変えられるとなると、話はかなり変わってくる。

 帝王の周囲には近衛兵や、常に付き従う臣下も多い。
 それらはただの部下だと思っていたが、実は帝王が変身している可能性もあるのだ。

 それどころか、何の関係もない一般兵にまでこうして姿を変えられる。
 そうなると、もはや全ての帝王を見つけて同時に撃破なんて不可能だった。

「実はあんたに話があったんだよ」

 こうなれば当初の予定通り、説得しかない。
 帝王も剣を構える手を止めた。

「ほう。余に話か。許す。申してみよ」

「どうせ話術はあんたの方が上だろう。だから小細工抜きで話す。聖王都への戦争をやめてくれ」

「それが目的か」

「そうだ」

 帝王がじっと俺を見つめてくる。

「貴様は聖王都からのスパイか?」

「いやちがう。ここに来たのは俺自身の意思だ。正確には女神様から依頼されたんだがな」

「なるほど。聖王都は女神を信奉する国。裏では女神が操っていたということか」

「そういうわけではないが……」

 どうも微妙に勘違いされているな。
 まあそんな簡単に信じてもらえるわけないか。
 できればここで女神様に直接来てもらえれば話は早いんだが……。

 ……。

 当然来る気配はない。
 人間の歴史に直接介入は出来ないって話だったからな。
 ここで帝王の前に出てきて直接話をしてくれるのなら、俺なんかに頼まずにとっくにやっているだろう。

 もっとも、女神を敵とする帝王の前に女神様が出てきたところで、効果はないかもしれないけどな。

「我が国の精鋭暗殺部隊を手中に収め、余の周辺を探り、目的が説得とはな。不思議な男だ」

「そもそもあんた、暗殺できないだろう」

「<分裂>のことまで知っているか。キラも仲間にしたとみえる。さては先日のモンスター共の宣戦布告は貴様の仕業か」

「そうだ。軍を引き出して膠着状態を作り、暗殺者部隊を俺たちの側に引き入れるためにな」

「面白い男だ。大胆なのか慎重なのか。貴様、余の部下となる気はないか?」

「なっ!」

 驚きの声を上げたのは暗殺者のリードだ。

「帝王様が自ら勧誘なされるなんて……」

「せっかくのお誘いだが、帝国で暮らす気はないんでな」

 徹底した階級制度の帝国は、俺には合わない。
 俺はもっと自由に生きたいんだよ。

「それで、聖王都から手を引いてくれるか」

「余に何のメリットがある」

「そっちこそ、聖王都を侵略したところでそれほど得るものもないだろう。帝国はすでに十分発展している。仮に戦争に勝ち聖王都を手に入れても、生き残った人々の恨みを買うだけ。むしろ泥沼の戦争に発展するぞ」

「そうであろうな。それで話は終わりか?」

「……少しは考えるかと思ったんだがな」

「その程度のことは当然余も考慮している。その上での決断だ」

「……そうか」

 やはり俺程度では説得は無理か。
 せめてもう少し時間があればなにかしら作戦を用意出来たかもしれないが、突然だったからな。
 もしかしたらそれもあって、帝王も当然来たのかもしれない。
 こういったことは何度も経験してるだろうからな。

「話が終わりなら、貴様はここで処分する」

 そう言って帝王が再び剣を構えた。

「貴様は危険だ。余の部下とならないならここで殺す」

 結局こうなるか。

 俺もまた剣を構える。
 この帝王と戦ったところで意味はない。
 複数いる分裂体の1人でしかないからな。
 だから本来なら、さっさと逃げるしかない。

 なのだが。
 こちらにもひとつだけ作戦がある。

 それに、せっかくの機会だ。
 帝王の実力がどれほどのものなのか、見せてもらうとしよう。
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