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闇魔法の極意

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 広場一面に起動した魔方陣が展開される。
 その魔方陣に杖をつき、シャルロットが花のように美しい笑みを浮かべながら、その恐ろしい言葉を口にした。

「《ソウルブレイクLv2000》」

 それは人間の言葉じゃなかった。
 鉄の虫が羽をこすり合わせるような不快な音が周囲に響く。

 魔法陣の上を光が走る。
 同時に、俺の全身が凄まじい倦怠感に襲われた。

 体に力が入らない。
 そのまま地面に倒れてしまう。
 見れば俺やエリーだけでなく、シェイドやパンドラまで地面に伏していた。

「うう……。なんなのだこれは、まったく力が入らなイ……」

 パンドラが押しつぶされたカエルのように、地面にへばりついている。
 その横でシェイドが驚愕の表情を浮かべていた。

「この力……まさか、レベルダウンの禁呪か……ッ!」

「あら、物知りな仲間がいるようね」

「レベルダウンだと……?」

 そんなことは不可能といわれている。

 そもそもレベルとは肉体の成長とは根本的に違う。
 実のところレベルがなんなのかはわかっていない。

 なぜレベルが上がるのか。
 なぜレベルが上がるとステータスも上がるのか。
 そこのところは、なにひとつわかっていないんだ。

 だけど、レベルとはどうやら魂に紐付く概念らしいと言われている。
 栄養を取ると肉体が成長するように、経験を積むと魂が成熟する。それを可視化したのがレベルではないかといわれている。

 そのレベルを下げるとは、つまり魂に直接干渉するような行為。
 人間が扱える領域の魔法じゃない。
 それこそヴァンパイアの始祖クラスだとか、女神様が行うような魔法だ。
 単なる能力低下の魔法とはわけが違うんだ。

 なのに。

「<ステータス>」

 俺は自分のステータスを表示させる。

イクス=ガーランド
レベル:-1914
職業:奴隷王
攻撃:-658(+520)
魔力:-680(+520)
防御:-661(+520)
精神:-639(+520)
素早:-661(+520)
幸運:-679(+520)

 信じられないことにレベルがマイナスになっていた。
 なんだこの数値。初めて見たぞ。
 ステータスでさえ上昇分を含めても0以下だ。

 どうりで立つことすらできないわけだ。
 しかしレベルダウンなんて、ヴァンパイアの始祖にくらったとしても、せいぜい数十下がるくらいのはず。
 それがいきなり2000も下がるだと?

「シャルロット、お前……いったいに何に手を出したんだ……!」

「なにと言われても。私の奥の手だからね。そう易々とは明かせないわ」

「この力……過去に一度だけ見たことがある……」

 シェイドが呻くように声を絞り出す。

「これは悪魔の力を借りた禁呪。魂に干渉する呪いのたぐいだ。しかしこれだけの力……いったいどれだけの生贄を捧げたことか……」

「ふうん。あなた、本当に物知りね。エリーとイクスだけが目的だったけど、あなたにも興味がわいてきたわ」

「シャルロット……本当に悪魔と契約したのか……?」

「契約とは少し違うんだけど。闇魔法の奥義は、悪魔の力を直接借りること。今の私は半分悪魔なのよ」

 そうか、それでステータスも表示されなかったのか……。

「このクソアマが……! さっさとこの忌々しい魔法を解きなさいよ……!」

 エリーがシャルロットを睨みあげる。
 この状況でも強気を維持できるのはさすがというところだろう。

 もっとも、さすがのエリーでもできるのはそこまでだった。
 シェルロットが笑みを浮かべたままエリーに近づき、その頭を踏み潰す。

「あぐっ!」

「あははは! 豚みたいないい声で鳴くじゃない。さすが奴隷。ご自分の立場をわかってらっしゃるってことかしら?」

「アンタ……絶対に殺す……ッ!」

「あらあら、怖いわね。とりあえずその両腕は切り落としておきましょうか」

「……ッ!!」

 シャルロットの周囲に黒い風が渦を巻きはじめる。
 初級の風系魔法<ウインドカッター>にも見えるが、それにしてはあの黒い色はなんだ?
 悪魔の力を借りているといっていたが、その影響だろうか。

「アンタ……そんなことしてみなさいよ……必ず後悔させるからね……!!」

「そんなに脅さなくてもエリーは後で私の奴隷にしてあげるから、その時に腕も治してあげるわよ。それまで切り落とすだけ。<カース・ウインドカッター>」

 黒い風の刃が襲いかかり、倒れるエリーの両肩を切り刻んだ。

「あああああっ!!」

「あらあら、私としたことが一撃で切り落とせないなんて。これじゃあ無駄に苦しませるだけなのに。手元でも狂ったのかしらねえ?」

「こ、の……くそ野郎が……!」

「口の利き方に気をつけなさい。<カース・ウインドカッター>」

 切り刻まれた傷口をえぐるように、再度黒い風の刃が襲いかかる!

「ああああああああああああッッッ!!!!!」

「エリイイイイイイイイイィィィィィィィィィ!!」

 エリーの悲鳴と俺の絶叫が響き渡る。

 それとほぼ同時に。
 2つの影が地面から飛び出してきた。

「グルガアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「きゃあっ!!」

 不意を突かれたシャルロットが弾き飛ばされる。
 魔法が中断され、そのすきにもう1匹が倒れたエリーを口にくわえて飛び上がった。

 シェルロットが驚愕の声を上げる。

「グリフォン!? いったいどこから!」

 あれは、まさか……。

 俺はこの元凶であろう男に目を向ける。
 シェイドが地面に倒れたまま俺に告げた。

「マスター。あの人間は放置できない。ここで必ず倒せ!」

 そういうと同時に、目の前の地面にいきなりダンジョンの入り口が現れた。

「きゅいっ!」

 ワイバーンのドレイクが現れ、俺をつかんで空へと飛び上がった。
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