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横暴幼馴染の本音

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「ふざっ……どうして、でしょうか」

 エリーが汚い言葉を吐こうとして、すぐに言い直した。

「どうしてって、もう着てる必要ないだろう」

「………………わかり、ました……ッ!」

 目に涙を浮かべ怒りの表情で俺を睨みつけながらも、体はしずしずと身につけていたものを外していく。
 嫌で嫌で仕方ないけど、俺の奴隷だから命令には逆らえない。強制的に動いてしまう。
 なんだかギャップがすごくて癖になってしまいそうだ。

 やがて身に付けていた物をすべて外し、下着姿になったエリーがこちらを見た。

「脱ぎ、ました……」

 全部を脱がずに下着姿で手が止まったのは、エリーにとってもこれが本当に限界ということなのかもしれない。
 ここからさらに重ねて無理矢理命令すれば、強制的に従わせることは出来るかもしれないが……。

 それにしても、こうして改めて見るとエリーはやっぱりとんでもない美少女だ。
 もちろんめちゃくちゃ可愛いというのもあるけど、体も出るところは出ているし、このままモデルとかになっても通用しそうだ。

 なるほど、そういう生き方もありなのかもしれないな……。

 ジロジロと見ていたら、エリーが顔を赤くしながら小声でつぶやいた。

「復讐、でしょうか……」

「ん? どういうことだ」

「アタシが、イクスを……ご主人様をこき使っていたから、ここぞとばかりにアタシを辱めて、復讐しようと……」

 なるほど。
 どうやら俺をこき使っていたという自覚はあったらしい。
 少しは殊勝な部分もあったんだな。

「でもあれはご主人様のためにやっていたことで、クズでノロマでなんの役にも立たないご主人様を雇ってあげていたアタシに感謝していただきたいと言いますか……」

 前言撤回。
 やっぱエリーはエリーだった。

 そこでふと思いつく。
 せっかくだ。
 この際エリーの本音を聞いておくことも大事だろう。

「命令だ。今後俺に対して嘘はつかないこと」

「はい、ご主人様」

「それで、どうして俺を荷物持ちとして使っていたんだ」

 クズでのろまで何の役にも立たないなら、雇う必要はないはずだ。

 そもそもエリーはアイテムボックスのスキルを持っていた。
 荷物持ちなんて必要なかったんだ。
 だからてっきりサンドバッグとして連れ歩いてると思っていたのだが。

 エリーは、先ほどまでの嫌がるような態度を少し弱め、どこか得意げに話しはじめた。

「アタシと一緒にいることでご主人様のレベルも上がるし、世界一の美少女で光の勇者でもあるアタシと同じ空気を吸えるなんて、これ以上の幸せはないでしょう。奴隷になってこき使われてもお釣りが来るほどです。
 ただの冒険者として一生寂しい人生を送るしかなかったご主人様に、世界の頂点に立ったアタシの横にいることを許されたのですから、感謝してもしたりないくらいだと思います」

 マジかよ。
 どうやら本気で俺のためだと思っていたらしい。
 どんだけ性格が歪んでるんだ。

 そういえば、奴隷としてあれこれ命令することはできるけど、そもそも性格を直すことはできるのだろうか。

「エリー、おしとやかな性格になれ」

 これで性格が変わるのなら話は簡単になのだが。
 エリーは首を横に振った。

「奴隷は奴隷にできることしかできません。性格が変わったフリをすることはできますが、自ら性格を変えることはできないのです」

 なるほど、それもそうか。
 出来ないことを命令しても出来るわけがない。
 空を飛べ、と命令したって空を飛べるようにはならないからな。

「ご主人様がお望みでしたら、おしとやかに振る舞うことはできますが」

「……いや、それじゃ意味がない」

 エリーには今後真っ当な人生を歩んでほしい。
 それが女神様との約束でもあるからな。

 女神様は、エリーがこんな性格になったのは、自分が光の勇者なんて力を与えてしまったからだと悔やんでいた。
 それは一面では正しいのかもしれない。

 だけど、ずっとエリーのそばにいた俺にも責任はある。
 彼女が道を間違えた時、それは違うとちゃんと教えることができていれば、こうはならなかったかもしれないのだ。

 俺は、光の勇者でなんでも完璧にこなるエリーという幼馴染を尊敬していた。
 彼女のやることはなんでも正しいと思い、すごいすごいと子供の頃から褒めまくっていたんだ。

 それが今の彼女を生んでしまった。
 だけど女神様がやり直すチャンスをくれた。

 そう、これはチャンスなんだ。
 やり直すのに遅すぎるということはない。
 エリーという女の子は世界一可愛くて、なんでも完璧にこなして、そして、本当は誰よりも優しい女の子なんだ。

 少なくとも子供の頃はそうだった。

「それで、エリーは今後どうしたいんだ」

 それ次第で今後の将来設計も決まる。
 光の勇者としての資格を失っても、エリーにはその美しさがある。
 それだけでいくらでも稼げそうな気がした。

 もちろん、女優とかモデルとか、そういう方面の仕事だからな?
 まあ、体を売る的な仕事をしたいというのなら本人の意思を尊重したいところだが……、まず絶対そんなことは言わないだろう。
 仮に言っても俺が止めるけどな。

「………………………………」

 エリーは黙ったままだった。
 ギリィッ、と歯を食いしばり猛烈に嫌そうな顔をしている。
 それに俺を睨みつける顔は真っ赤に染まっていた。
 どうやらよっぽど恥ずかしいことらしい。

 自分の将来を言うことがどうしてそんなに恥ずかしいんだ?
 まさか、本当に人にはいえないような仕事をしたいのか……?

 とはいえ話してくれないと先に進まない。

「エリー、正直に話してくれ」

 重ねて命令する。
 エリーの目つきがますます険しくなって俺を睨みつけるが、意に反してその口はゆっくりと動きはじめた。

「ご主人様と、一緒に……いたいです……」

「えっ? 俺と?」

「~~~~~~~~~ッ!!!!!」

 エリーの顔が耳まで赤く染まった。
 しかしエリーがどうしてそんな態度をしているのか、俺には全くわからなかった。

「そんなにサンドバッグが欲しいのか?」

「そんなわけ──!」

 エリーが俺を殴ろうと腕を振り上げる。
 俺も反射的に身をすくめてしまったが、エリーの腕は途中で止まっていた。
 奴隷がご主人様に手をあげるなど絶対にあってはならないことだからな。

「……じゃあどうして俺なんかと一緒にいたいんだ?」

 純粋な疑問だった。
 言ってはなんだが俺にはなんの取り柄もない。
 レベルは50もあるため冒険者としてはそれなりだが、それだって特別なわけじゃない。
 顔だって普通だと思うしな。

 エリーは赤い顔を俯かせたまま、ボソボソと答える。

「ご主人様は、子供の頃からずっとアタシのそばにいてくれたから……。皆はどんどんアタシから離れていくのに、ご主人様だけはずっとアタシのそばにいてくれて……。それに優しいし、いつもアタシのことを心配してくれるし、裏でひどいことも言わないし……」

 そういうと、潤んだ瞳で俺を正面から見つめた。

「そんなご主人様を……イクスを……いつからか好きになっていたんです……………………うあああああああああっ!!!」

 突然エリーが叫び声を上げた。

「なにを、なにを言ってるのよアタシーーーーーーーッ!!!!」

 奇声を上げながら壁に頭を打ち付けはじめる。
 いくら奴隷といえども、本当に嫌なことがあると拒否反応を示してしまうようだ。

「エリー、そこまでにしておけ」

「はい、ご主人様」

 奇行をピタリとやめ、こちらを向く。
 今度はずいぶん従順だな。
 自分でもやりたいと思っての行動じゃないからかもな。

 とはいえ、今後もこんなことをされたら大変だ。

「そうやって自分で自分を傷つける行為は禁止だ。せっかくの可愛い顔が傷ついてしまうだろ」

「か、かわっ……。はい、ご主人様」


 さて。
 本当はここで終わるつもりだった。

 確かに俺はエリーと奴隷契約を結んだ。
 でもそれは傲慢で人の言うことを聞かないエリーの性格を直すにはこれしかないと思ったからで、性奴隷を作るためじゃない。

 いくら奴隷になにを命令してもいいからといっても、本当に何をしてもいいわけじゃないだろう。
 少なくとも人の尊厳を踏みにじるようなことはしたくない。

 奴隷契約なんかしておいてなにを今さら綺麗事言ってんだと思われるかもしれないけど、俺にだって超えてはならない一線くらいわかってる。
 だから本当にここで終わりにするつもりだったんだ。

 でも。

「エリーって俺のこと好きなんだよな」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい、そうです」

 ものすごい葛藤のあとに、か細い声で答えた。

「そうか。ちなみに俺もエリーが好きなんだ」

 でなけりゃいくら幼馴染だからって、今日までずっと一緒になんていられなかった。

 エリーの顔がぱああっと輝き、それから慌てて元に戻した。
 本人はうまく隠せたつもりなのかもしれないが、思いっきりバレバレだ。

 俺はエリーの反応を確かめると、最高級のフカフカベッドに腰掛けた。
 一応ここは1人部屋なんだが、これだけ大きければ2人で寝ても十分な広さがありそうだった。

 無理矢理するのは良くないことだ。

 でも、両思いなら、いいよな?
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