10歳差の王子様

めぇ

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第2章 碧斗、中学1年生。あさひ、社会人3年目。

4.

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「それ付き合ってたんじゃん?」


もうプールの季節は終わってしまった。まだ泳ぎたい気分だったけど、しょうがない今日はグラウンドを走るしかない。

50メートル走、記録目指してがんばろうと鼓舞するオレに太陽が言い放ったこの言葉。

「付き合ってねぇよ!そんな話あさひから聞いたことねぇし!」

「言ってないだけじゃねぇの、碧斗に言う必要もないじゃん」

「そんな…っ、ことはない!」

前後に開いた足の前方に重心をかけ、アキレス腱を伸ばす。太陽はストレッチもしないで話の方に夢中だった。そんなんで途中で足吊っても知らないからなっ。

「だってさ!たとえば碧斗のにーちゃんが中学生の時の話だとして、碧斗赤ちゃんじゃん。付き合ってても知らないだろ」

「…いーや、違うね!絶対違う!オレとあさひの仲だ、隠し事なんかないね!」

「何の根拠もないだろ、お前の希望なだけで!」

そりゃ希望で願望で祈念だけど、今までそんな素振りさえも一切感じたことなかったし、内緒でそんなことになってたとか…っ

「ないない!付き合ってるはずがない!」

ぶんぶんと首を横に振った。邪心を飛んでけと言わんばかりに力強く。

「じゃあ、好きだったのかもよ?」

太陽がのぞき込むようにオレの顔を見てきた。

一瞬理解が難しかった言葉に、ゆっくりと口を開いた。

「誰が?」

「あさひさんが」

「誰を?」

「碧斗のにーちゃんと」

 

……………、は?

 

なんだそのもっとわからない話。



あさひが?兄貴を?

あのゴリゴリな兄貴を…?

 

「じゃなきゃ“あの指輪”とかそれっぽいこと言わなくね?」

ねぇーよ!そんなことあるわけぇーよ!!

そりゃ“あの指輪”はどの指輪か気になるけど、そんなこと…っ

「で、オレも聞いてほしいことがあるんだけど…」

太陽が何か言いかけたけど、それ以上何も入って来なかった。

付き合ってるとしても衝撃だけど、あさひが兄貴のことを好きだとしたらそれはもっと衝撃だ。

 

だけどあのあさひの反応…!

 

あさひは指輪を欲しがったけど、兄貴は買ってあげなかったっていう話だった。

あさひがねだった指輪を兄貴は断った。


これはあさひの方に気持ちがあるってことになるのか…

いや、これだけじゃわかんねぇよ!


でも“あの指輪”をあさひは欲しがってた。


しかもすごく…
いや、そんな、まさか…


「オレ、彼女出来たんだよ」

知らぬうちに太陽の話と50メートル走の順番は過ぎて、次はオレの走る番だった。

頭の中でぐるぐる回る。

わからない、でも考えれば考えるほど暗闇の中に入っていく気がしてとにかく今は走るしか…!

「おい、碧斗聞いてるか?相手が誰とか聞かなくていいのか?」

ずっと太陽が何か言っていたけど、丁寧に深呼吸をし心を無にしてスタートラインについた。無我夢中で走った50メートル走は記録が良かった。
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