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第1章 碧斗、小学1年生。あさひ、高校2年生。
6.
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「おはよう、あさひ!」
「おはよう」
今日も変わらず一緒に学校へ行く。何も言わず、あたりまえのようにあさひの手をにぎった。
「今日から体育はプールなんだ!」
「碧斗嬉しそうだね」
「体育はプールに限る!あさひは?あさひの学校はプールないの?」
「うちもあるよ」
おれとあさひの身長差は四十五センチある。
そんなのすぐなくなるから全然気になんかしてないけど、もし今…もう少しおれの身長があったら。
「あさひ…?」
きっと変な感じがしたあさひの目をどうにかしてあげられたのかもしれない。
やっぱりこんな時、大人になれたら…
「え、なぁに?」
ハッキリわからなかったんだ。それ以上近づけなかったから。
だってあさひはいつも通り笑っていた。
「ううん!プール楽しみだな~」
子供みたいに笑ってみせるしかできなかった。何もわかってないフリをして。
学校に着くとどこからともなくあの声が聞こえてくる。どっから叫んでるのかわからないほど遠くから、こっちが見付ける方が一苦労だ。
「あああああぁぁぁーおーとぉぉぉーーーー!!!」
太陽が後ろからタックルしようとしたのをかろやかに避けた。
「よけんなよっ!!」
「そんな毎日引っかかるかっ!」
ふいっと顔をそらし太陽を無視して教室に向かおうとすると、ガシッと肩を組んできた。体重がかかってきて重たい。
「今日もねぇーちゃんと手つないじゃって、碧斗は甘えん坊なんだな!」
ヒューヒューと耳元で息を吹きかけながら、わざとおちょくるような言い方をしてきた。これにはイラッよりもはぁっとタメ息の方が出ちゃって、しかも大きめのタメ息が。
つーか何度言えばわかるんだそれ、こっちも聞き飽きてんだよ。何度言われたってその言葉におれがゆらぐはずがない。
「あたりまえだろ。つーか、ねぇーちゃんじゃねーから」
「じゃぁ誰なんだよ?」
組まれた肩に置かれた腕を振り払う、太陽の前に立ってその問いに真っ直ぐ見つめて答えた。
ゆらぐことのないおれの気持ち。
「“好きな子”」
あさひはおれの好きな子だ。
「はぁーーーーーっ、好きな子だって!」
「別にいいだろ」
「うわー、恥ずかしい~!」
ケラケラと笑ってる太陽に、何とも思わなかったわけじゃないけどおれは間違ったこと言ってないしわざわざ返すのもやめた。
太陽なんかほおっておいて、教室へ行こう…と思ってひとつ思い出した。
“それきっと太陽くんも美羽ちゃんも好きなんだよ”
「なぁ、太陽」
だから一応、聞いてみようかなって。
「は、なんだよ」
「太陽は美羽のこと好きなの?」
「はぁ!?」
耳がキーンってなるぐらい大きな声を出したからビクッてなって顔がゆがんだ。
びっくりするな、耳痛…ッ
「そんなわけないだろ!好きじゃねぇよ、全然好きじゃない!美羽のことなんか…!」
めちゃくちゃ顔を赤くして、すごい顔でムキになって返して来た。ふんふんと息まで荒くなっちゃって…さっきまでヘラヘラしてたのに、急に眉毛つり上げちゃってさ。
…ふーん、違うのか。
なんだ違うじゃんあさひ、やっぱあさひもわかってねぇな。全然好きじゃないんだってさ。
「おはよ~、碧斗!太陽!」
「美羽…!」
まっ赤な顔した太陽がまたでっかい声を出した。
美羽が来ただけだろ、声を出すたび、びっくりするじゃんか。
「おはよう、美羽」
「おはよう」
「あれ、今日…」
いつもはふわっとした長い髪を二つにむすんでいるのに、今日はていねいにみつあみが編み込まれていた。いつもと少し違うだけなのに、なんだか全然違って見えた。
「かわいいじゃん」
素直にそう思ったから言ってみた。いつも見ない姿は新しい感じがしていいなって思ったから。
美羽だってそう言われてうれしそうだった…のに。
「碧斗、ほんと?ありが…っ」
「そうか!?普通だろ!なんなら普通以下だろ!!」
ほほ笑む美羽の声をかき消すように、何倍も大きな声の太陽が言い放った。
その瞬間、しーんっとして何の音も聞こえなくなり廊下が冷たくなった気がした。おれも美羽もつい黙っちゃって、太陽でさえ驚くような顔をしていた。
「…!」
「美羽っ!!」
次の瞬間、美羽が走り出した。
美羽との身長差はあまりない、だからちゃんと見えていた。
美羽の瞳からこぼれ落ちる涙を。
「………。」
「……。」
おれも太陽もその場から動けなかった。
冷たかった空気が今度は重い空気になった。
どうにも気まずそうな太陽がおろおろとうろたえていた。だったらせめて追いかけてやるべきだったのに。
「お前サイテーだな」
あさひのあの言葉が思い出される。
“素直になれないだけじゃない?”
「おれは太陽が美羽のことどう思ってんのか知らねーけど、“好きな子”泣かすなんてサイテーだと思う」
「おはよう」
今日も変わらず一緒に学校へ行く。何も言わず、あたりまえのようにあさひの手をにぎった。
「今日から体育はプールなんだ!」
「碧斗嬉しそうだね」
「体育はプールに限る!あさひは?あさひの学校はプールないの?」
「うちもあるよ」
おれとあさひの身長差は四十五センチある。
そんなのすぐなくなるから全然気になんかしてないけど、もし今…もう少しおれの身長があったら。
「あさひ…?」
きっと変な感じがしたあさひの目をどうにかしてあげられたのかもしれない。
やっぱりこんな時、大人になれたら…
「え、なぁに?」
ハッキリわからなかったんだ。それ以上近づけなかったから。
だってあさひはいつも通り笑っていた。
「ううん!プール楽しみだな~」
子供みたいに笑ってみせるしかできなかった。何もわかってないフリをして。
学校に着くとどこからともなくあの声が聞こえてくる。どっから叫んでるのかわからないほど遠くから、こっちが見付ける方が一苦労だ。
「あああああぁぁぁーおーとぉぉぉーーーー!!!」
太陽が後ろからタックルしようとしたのをかろやかに避けた。
「よけんなよっ!!」
「そんな毎日引っかかるかっ!」
ふいっと顔をそらし太陽を無視して教室に向かおうとすると、ガシッと肩を組んできた。体重がかかってきて重たい。
「今日もねぇーちゃんと手つないじゃって、碧斗は甘えん坊なんだな!」
ヒューヒューと耳元で息を吹きかけながら、わざとおちょくるような言い方をしてきた。これにはイラッよりもはぁっとタメ息の方が出ちゃって、しかも大きめのタメ息が。
つーか何度言えばわかるんだそれ、こっちも聞き飽きてんだよ。何度言われたってその言葉におれがゆらぐはずがない。
「あたりまえだろ。つーか、ねぇーちゃんじゃねーから」
「じゃぁ誰なんだよ?」
組まれた肩に置かれた腕を振り払う、太陽の前に立ってその問いに真っ直ぐ見つめて答えた。
ゆらぐことのないおれの気持ち。
「“好きな子”」
あさひはおれの好きな子だ。
「はぁーーーーーっ、好きな子だって!」
「別にいいだろ」
「うわー、恥ずかしい~!」
ケラケラと笑ってる太陽に、何とも思わなかったわけじゃないけどおれは間違ったこと言ってないしわざわざ返すのもやめた。
太陽なんかほおっておいて、教室へ行こう…と思ってひとつ思い出した。
“それきっと太陽くんも美羽ちゃんも好きなんだよ”
「なぁ、太陽」
だから一応、聞いてみようかなって。
「は、なんだよ」
「太陽は美羽のこと好きなの?」
「はぁ!?」
耳がキーンってなるぐらい大きな声を出したからビクッてなって顔がゆがんだ。
びっくりするな、耳痛…ッ
「そんなわけないだろ!好きじゃねぇよ、全然好きじゃない!美羽のことなんか…!」
めちゃくちゃ顔を赤くして、すごい顔でムキになって返して来た。ふんふんと息まで荒くなっちゃって…さっきまでヘラヘラしてたのに、急に眉毛つり上げちゃってさ。
…ふーん、違うのか。
なんだ違うじゃんあさひ、やっぱあさひもわかってねぇな。全然好きじゃないんだってさ。
「おはよ~、碧斗!太陽!」
「美羽…!」
まっ赤な顔した太陽がまたでっかい声を出した。
美羽が来ただけだろ、声を出すたび、びっくりするじゃんか。
「おはよう、美羽」
「おはよう」
「あれ、今日…」
いつもはふわっとした長い髪を二つにむすんでいるのに、今日はていねいにみつあみが編み込まれていた。いつもと少し違うだけなのに、なんだか全然違って見えた。
「かわいいじゃん」
素直にそう思ったから言ってみた。いつも見ない姿は新しい感じがしていいなって思ったから。
美羽だってそう言われてうれしそうだった…のに。
「碧斗、ほんと?ありが…っ」
「そうか!?普通だろ!なんなら普通以下だろ!!」
ほほ笑む美羽の声をかき消すように、何倍も大きな声の太陽が言い放った。
その瞬間、しーんっとして何の音も聞こえなくなり廊下が冷たくなった気がした。おれも美羽もつい黙っちゃって、太陽でさえ驚くような顔をしていた。
「…!」
「美羽っ!!」
次の瞬間、美羽が走り出した。
美羽との身長差はあまりない、だからちゃんと見えていた。
美羽の瞳からこぼれ落ちる涙を。
「………。」
「……。」
おれも太陽もその場から動けなかった。
冷たかった空気が今度は重い空気になった。
どうにも気まずそうな太陽がおろおろとうろたえていた。だったらせめて追いかけてやるべきだったのに。
「お前サイテーだな」
あさひのあの言葉が思い出される。
“素直になれないだけじゃない?”
「おれは太陽が美羽のことどう思ってんのか知らねーけど、“好きな子”泣かすなんてサイテーだと思う」
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