10歳差の王子様

めぇ

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第1章 碧斗、小学1年生。あさひ、高校2年生。

3.

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「碧斗、もうすぐ焼けるからお皿取って」

「うんっ」

学校から帰って来たら楽しみにしていたホットケーキを作る時間。あさひの方が帰って来るのが遅いからちょっとだけ待ちくたびれたけど、その分ホットケーキへの情熱は上がったからよし。

昨日から食べたがっていたホットケーキ作るんだからな、ちなみに楽しみにしていたのはおれじゃなくてあさひの方だから!

そろそろ焼き上がりだ、あまーい香りがふわーって部屋中に広がってる。

焼きたい!って言ったけど焼かせてはくれなかったからお皿を出すお手伝いをする。あさひの家だけど、お皿がどこにあるかぐらい知ってるからな。

ちょうどよさそうな白い皿を二枚棚から取り出した。

「ありがとっ」

あとちょっとで出来上がりそう、楽しみだ。

「それで、美羽ちゃんはどうしたの?」

「え、美羽?えっと美羽は…」

ホットケーキを焼きながら今日あったことをあさひに話していた。太陽には手をつなぐ女の子がいないとか、好きな女の子さえいないとか、だから同じクラスの美羽なんてどうか?って言ったらすごい声が大きくなってそれが原因で二人が言い合いを始めたこと…

「めっちゃ怒ってた。勝手に自分の話しないでって」

確かに勝手に話したけど、よくよく考えたら勝手に美羽の話をしたのはおれであって太陽ではないけどな。でも美羽は太陽に向かって言ってた。

「マジでめちゃくちゃ仲悪くてさぁ」

それほど嫌だったんだろうな、二人の言い合いなんてしょちゅう聞いてるし…
こーゆうのケンエンの仲って言うんだっけ?ケンエンって何かわかんないけど、今度図書室で調べてみよう。

「ふふふっ」

「何笑ってんだよあさひ!」

「可愛いね」

「何がだよ」

あさひが焼き上がったホットケーキをお皿に乗せた。こんがりとキレイな焼き色でおいしそう。

「それきっと太陽くんも美羽ちゃんもお互いのことが好きなんだよ」

「いや、超仲悪いんだって」

フライパンに油をうすく塗ってもう一度お玉ですくったホットケーキの生地を流し込む。それをとなりで見ながら、早く全部焼き上がらないかとプツプツと小さな泡の数を数えていた。

「素直になれないだけじゃない?」

「すなおに?」

「そう、可愛いよね」

「?」

泡の数を数えていたらあさひがホットケーキをひっくり返した。だから見ているものがなくなって、そのままあさひの顔を見た。

「まぁ碧斗にはわからないかもね」

「おい、バカにしたな!今バカにしたな!?」

にこっと笑われた。笑ったんじゃなくて笑われた。

「さ、焼き上がったからトッピングしよ!」

「話変えるなよ!子供だと思いやがって!」

ぷんっと横を向いた。だってまだくすくす笑ってたから。

「ごめんって碧斗。あ、トッピングのバナナ多く付けてあげるから♡」

「え、マジで!やった!!」

しまった、ついバナナにそそのかされてしまった。

もう一度あさひの方を見るとやっぱり笑ってた。

「ぜ、全然嬉しくないからな!!」

でもバナナは好きだしバナナに罪はないからもらっといてあげなくもない…

けど、バナナひとつで喜んでしまったのは一生のふかく…!

「あ、そうだ!来週碧斗の好きなアニメのショーあるの知ってる?」

あさひが生クリームやらメープルシロップやらを冷蔵庫から取り出した。
ホッカホカのホットケーキに好きなようにかざり付ける。切ってくれたバナナも一緒に。

「マイタウン・ヒーローの!?」

通称マイヒロ、今一番ハマっているアニメで毎週録画しながら見てる。ついでにあさひも一緒に見てる。

「なんかイベントあるらしいよ、駅前のショッピングモールで」

「ま、マジか…!おれのあこがれ、マイヒロが来るのか…!!」

そのまんまタイトル通り、町の平和を悪の組織から守るヒーローアニメ。ヒーロー・ヒロがヒロイン・マユコのことをとにかく大事にしていてそこをめちゃくちゃリスペクトしてるんだ。

「碧斗嬉しそう」

「ん、何?今ヒロのこと考えてて聞いてなかった!」

「ううん、何でもない。一緒に見に行こっか!」

え、今何て?一緒に見に行こっかって…??

ねって笑うあさひを前に食い気味に返事をしてしまった。

「行く!!!」

うれしすぎて、今うれしいことが二つも起こったから。楽しみ過ぎるだろ、マイタウン・ヒーロー!!!

 

だけど、一つ新しい悩みができた。



「なぁ、太陽…」

「んー?」

教室の窓から見上げる空はなんてすがすがしいんだ。どこまでも青く広がってすき通ってるみたいだ。

なのにおれの心は全然晴れてやしない。

はぁって重たい息が勝手に出ちゃうほどに。

「デートの勝負服ってどんなのだろう…」

これをきっとアンニュイって呼ぶんじゃないかな、よくわかんないけど。

「碧斗何言ってんだ?」

窓の外を見るのをやめて、視線を太陽の方に変えた。
自分の席でなんか書いてた。あ、次の授業の宿題か。

「今週はデートなんだ」

「デート!?なんだそれっ」

「しんみつな男女が予定を合わせて会うことをデートって呼ぶんだよ」

「そんなこと聞いてねぇよ!」

あれは絶対デートの約束だ、あさひと。

もちろんそんなの初めてじゃない。今までだって、近くのコンビニ行ったり、公園でブランコしたり、二人でホットケーキだって作ったりしてるんだから。

今さらあさひと二人でって強調して言うことでもないんだけど…


だけど!


駅前のショッピングモールは初めてだから…!

デートと言えばの人気の遊びスポットだから!!!


それは気合いも入る。

服だって迷う。

でもおこづかいじゃ買えない。

かあさんに買ってもらうのは難しいから、なんとか家にあるのでどうにかしたい。

「女の子が好きそうな男の服ってどんなのだと思う?」

「俺に聞くなよ!女じゃねぇんだから知るかよ!」

それもそうか、こーゆうのは少しでもリアリティある相手に聞いた方がいいか。

すぐにくるっと顔の向きを変え、前の方を見た。

「なぁ、美羽ー!」

前の前の席に座る美羽に呼びかけて聞いてみることにした。なぁなぁと手を振るとすぐに立ち上がってこっちに来てくれた。

太陽に聞いた質問を同じように美羽にも聞いてみる。そしたら目を輝かせながら教えてくれた。

「胸のところがヒラヒラしてるシャツに、まっ赤なマントでキラキラしたボタンのいっぱいついた服!あとはかぼちゃみたいなモコッてしたズボンに白のタイツ履いて…」

思ってたよりだいぶ具体的に教えてくれた。ここまで全く息つぎしてなかった。

ずっと美羽はななめ上の方を見ながらしゃべっていておれたちの方なんか見てなかった。

「白馬に乗って来るの♡」

おれの頭の中に一応想像図が浮かんできた。それは見たことあるやつだった。

「だけど物理的に考えて馬は無理だ」

「馬以外も無理じゃないか?」

太陽の頭にも浮かんだらしい。目を合わせて無理だよなってうなずき合った。

なんてたってそんなの買うお金ないからな、家にそんな服はないし、しぶしぶ却下することになった。
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