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Sweet1.天井くんは甘い香りがする

4.)

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天井くんにあんなことを言われたから気になっちゃって。

それはもちろん事実で正しいことなんだけど、だって私は戸籍上れっきとした女子だから、天井くんは真実を述べたまで…

「小桃、今度は何頼まれたの…!?」

「えっ?」

今日こそは何もしないで帰ろうと思ったのに、私はきっと声をかけやすい顔をしているんだと思う。普通にしてるつもりなんだけどな。

「えっと~…キタちゃんから掲示物の貼り換え頼まれちゃって」

「いい加減断りなよ!それ絶対小桃のすることじゃないよね!?」

「はすみん、私のために怒ってくれてありがとう…」

わかってる、わかってるんだよ。ただ都合いいだけだって、わかってるの。

でも断ることがどうしてもできなくて…

「しょうがないなぁ」

「え!?いいよいいよはすみんは!部活じゃん!」

ハァって呆れた顔をしながらも一度背負ったリュックを下ろして机の上に置いたから、あわてて背負い直してもらうように促した。これから部活のはすみんにまで迷惑かけられない。

「私が引き受けたやつだから、私がやらないと!」

「でも1人じゃ大変じゃない?たくさんあるじゃん」

お願い!って渡された掲示物は後ろの掲示コーナーのお便りで、もうすぐ遠足だからその関連のあれこれ貼り換えるものがいっぱいあった。こんなに貼るものがたくさんあるとはさすがに思ってなかったけど。

「だけど私がやるって言ったやつだから、はすみんは部活行ってよ。エースいないと始まらないよ」

「小桃…、嫌な顔しないでなんでも引き受けるのは小桃のいいとこだよ。でも小桃も誰かに頼った方がいいよ」

「…うん、大丈夫。本当に無理だなって思ったらそうするから」

ねって笑って見せた。

実際ね、できないわけじゃないし。それはできないよってなったら私だって…

「ちゃんと言ってよ?」

はすみんが私のおでこをコツンとした。もちろん全然痛くはなくて。

「あと合唱部にエースとかないから」

「えへへっ」

うんっ、て頷いて笑った。

大丈夫、だって本当にできないわけじゃないもん。

できるから引き受けてるんだもん。

そもそもできないこと誰も頼まれないに決まってるしね。

でもまぁ、ちょっとだけね…

ほーんのちょっとだけ…
思っちゃったりして。

「これどうやって貼るの?」

思ってた5倍は紙が大きかった。何枚か貼る感じかなって思ってたら1枚がどーんって大きかった。

「これ1人で貼れるかな…?」

……。

いや、とりあえず剥がそう!貼ってあるお便りを全部剥がすとこからだ!

教室の後ろの黒板の横が掲示コーナー、学級新聞や1ヶ月の行事とかお知らせが貼ってある中でもういらなくなったものをまずは剥がすことにした。

もう終わった身体測定とか体力テストについてのお便りはいらないよね、中間テストは…まだ終わってないか。

じゃあこっちを剥がして、でもこれを移動させないと大きいやつ貼れないか…

え、案外難しいかもしれない。
なんかパズル組み立ててるみたいになって来た。

誰もいなくなった教室であっち行ったりこっち行ったり、掲示コーナーは広いし高いところにあるからロッカーの上を上ったり下りたりして地味に疲れる。

なんてたって1人だから。

「…これで貼る場所はできたか」

なんとかテトリスのようにお便りを並べて、広いスペースを確保できた。あとはここに頼まれたやつを貼るだけ…

なんだけど。

「これどーやって貼ろう…」

床に広げてみたけど両手を広げても足りないくらい大きくて、でも破れないようにしなきゃと思うとちょっとしたプレッシャーが…

「……。」

やってみようか、一応!

もう一度ロッカーの上の上がる、めっちゃ大きいお便りを持ちながらまずは右端から…右上隅っこに画びょうを押し込んで、平行になるようにぐーっと手を伸ばして曲がったり破れたりいないように気を遣って少しずロッカーの上を左に移動していく。

たまにロッカーの上に落とし物BOXとか教科書とか置いてあって、そこを通るのが1番のポイントで踏み外さないようにしないと。

でもちゃんと上も見てないと、下に気を取られてたら紙引っ張って破っちゃいそうに…

「わっ」

ちょっと曲がってるかなって思ってぐっと手を伸ばした時だった、つい顔を上げたから足元の体育館シューズの入った袋に気付かなかった。

誰こんなとこに置いたの!?危ないじゃん!

今まさにめっちゃ危ないしっ 


やばい、落ちる…っ!?


「キャッ」


ズルッて思いっきりロッカーから足が滑った。


「荻野さん…!」
 

絶対落ちることを覚悟したのにふわっと持ち上げられた、まるで抱きとめられたみたいに。

「!?」

ふわっと甘い香りに包まれる。

「荻野さん大丈夫!?」

「天井くんっ!?」

あ、これって俗にいうお姫様抱っこってやつなのでは?

しかも顔が近い!すごく近い!!

わ、わぁぁっ

「ごめん天井くん!重いのにごめん!!」

「いや、全然重くはないけど…大丈夫だった?」

恥ずかしくなって自分から離れるように下ろしてもらった。

「うん、全然大丈夫!全然!」

わ、何コレ…!


すごい、なんか…

顔が熱い。


思わず下を向きたくなった。

「荻野さん何してたの?」

「あ、えっと…掲示コーナーの張り替え!」

「…荻野さん、保健委員じゃなかったっけ?」

「そうなんだけど…これは頼まれて」

これ“も”だけど、なぜか後ろめたくなってそう言っちゃった。

「ふーん…、でもこれ破れてるけどいいの?」

「え、嘘!?」

天井くんが視線を向けた先を顔を上げて振り返る。

「あっ!!!」

つい目を開いて大声が出ちゃった。

あんなに気を付けて丁寧に貼ってたのに、たぶん足を滑らせた時にぐって引っ張っちゃったから…


紙破けてた。


うわーーー…
最悪、パックリ半分になってるじゃん。

画用紙じゃなくて、こんな薄い紙使ってるからだよ!

うわーっ、どうしよ…!

「とりあえず後ろからガムテープで貼る?」

「え…?」

ロッカーの隅っこに置いてあったガムテープを天井くんが手に取った。私に見せるようにして、ねっと首を傾げる。

まだ私何も言ってないのに…
直してくれるんだ、一緒に。

私が頷く前にロッカーの上に上がった天井くんは画びょうでくっついていた破れた半分側を取ってすぐに下りて来た。

2つになってしまったお便りを床に並べる。

てゆーかこれ今度の遠足のやつだ。

遊園地行くんだよね、その地図まんま載せてある…わかりやすいけど別に貼らなくてもよくない!?

「荻野さん、このままひっくり返すからズレないようにそっちやって」

「あ、うん…!」

左右逆にならないように裏を向けて破れたとろころつなぎ合わせる。

立ち膝の状態で下から天井くんがガムテープを貼って、途中から引き継ぐようにガムテープを受け取っ…

「あっ」

一瞬、手が触れた気がしてドキッと胸が鳴った。

「ごめん…っ、ごめんね!?」

ゴトンッと鈍い音が床に響く。

あんまり使わないガムテープだからいっぱい残ってて、手から落ちた時にすごい音がしちゃった。

それが逆に変な感じになるっていうか…

なんていうか…

ぺたんと床にお尻を付けて、わざと離れちゃった。

「荻野さん」

「あ、もらうね!こっちまで貼っちゃうから大丈夫!」

ハッとしてすぐお尻を浮かして膝を立てた。


何が大丈夫なの?
って聞かれたら自分でもよくわかんない。

条件反射で答えただけだから、だからっ


「もしかして緊張してる?」


天井くんの声が静かな教室にすーって伸びていく。

嫌にでも私の耳に残ってしまって。


「……え?」


ぱちくりと瞬きをした私と目を合わせた。


きっと天井くんもそうだって、思ったの。

顔を赤らめた天井くんとお互いに下を向いちゃうみたいな、きっとそんな空間ができあがるって思ってたのに…


「ふっ」

それなのに微笑んだから、くすって声を漏らすように。

「荻野さん緊張してるじゃん」

「違っ、そーゆうわけじゃ!」

ないわけじゃなくて、あのっ、だって…っ

“それに…荻野さん女の子だし”

なぜだか思い出しちゃったから、あんなふうに言われたことを。

ニッと嬉しそうに笑った。

その顔に私の顔はさらにボンッと熱を上げる。

「荻野さんガムテープ、続きから貼って」

落としたガムテープを拾って私に渡す、だから今度は手が触れないように全神経を右手に集中させながら手を差した。

「ありが…っ」

「荻野さん、緊張してるんだ?」

ガムテープを受け取るために身を乗り出したから、必然的に距離が近付いた。今度は手と手じゃなくて、私の耳元に天井くんの息が降りかかる。

「!?」

ビクゥッて体が震えて、それこそ本当に条件反射でサッと後ろに下がった。

でも天井くんは笑っていた。しかもニィッていたずらっこが見せる笑顔みたいな。

「荻野さんもそんな反応するんだ」

「!」

いやいやいや、違うでしょ!
それは違うでしょ!

「いいもの見ちゃった」

なんでそんな嬉しそうなの?

てゆーか天井くんこそ!

天井くんだって…


そんな顔するんだ、てゆーかそんな人だっけ!?

全然キャラメルポップコーンの匂いしないじゃん!!


「ほら、早く荻野さん。これから貼らなきゃいけないんだから」

ニッと不敵に笑って見せる天井くんは初めて見る天井くんで、こんな天井くんは知らなかった。

緊張するとキャラメルポップコーンの匂いをさせるのが天井くんだと思っていたのに、こんな天井くん…


全然聞いてないし予想してなかった。


「荻野さん、ね?」




このたびクールで静かな天井くんの誰も知らない秘密を知ってしまいました。
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