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7章 ミラ・イヴァンチスカの独白
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しおりを挟む「何て事を…君は人を想うという気持ちがないのか!?」
見た事のない表情をした彼が、白い顔をしてぐったりとしているあの女を抱えて私にそう言った。今まで私の味方なんていた事はなかったけれど、ここにいる全ての人間が私を異常者と認めた瞬間だった。
違う。私は肩を叩いて声をかけただけで、あの女が過剰に驚いて階段から落ちたんだ。それをあの女の取り巻き共がまたいつもの様に騒いだものだから、私はすっかり恋敵を階段から突き落とした人殺しと見做されてしまった。大体あそこで私に叫んでいる男も自分が王族という立場を忘れて私に激昂するなんてどうかしている。こうなったのも、お前が婚約者がいる身でその女にうつつを抜かしたせいだ。
ああ、なんて汚い言葉ばかりが浮かぶのかしら。一層全てぶち撒けてしまいたいのに、今もこうして自分を庇う事なく自身の気品を保とうとしてしまう。でももう、庇おうが何しようがどうにもならないしどうでもいい。どうせ私はお払い箱だ。こんな事になるくらいなら、あいつの言う事なんて聞かずにもっと自分を大切にすれば良かった。
人間の質に上も下もない事なんて分かっていたじゃないか。でも私はこの世界しか知らなかったから、あいつの言う事を聞けば幸せになれるのだと思っていた。その為に時間も青春も母親も捨てたのに、どうしてこんな事にならなきゃいけないの。
『お前は王族になる人間だ』
物心ついた時から、私はそう言われて育った。喋り始めの頃から家庭教師がついて、言葉遣い、歩き方、立ち居振る舞いを矯正された。
子供にとって親に与えられた世界が全てになる。私はそれが普通ではない事を知らずに、当たり前に受け入れていた。これが特殊なんだと知ったのは、3歳の頃に生まれた弟が私が家庭教師が着き始めた頃になっても自由に遊んでいる姿を見てからだった。それはその後に生まれてきた弟も同じだった。
私は私生児だった。継母と出会う前に父は屋敷のメイドと懇意になって私は母のお腹に宿った。父の両親が反対して結婚は出来なかったが、父は離れを建ててそこに母を住まわせた。
継母は母と私の事を知った上で父と結婚した。父はその頃から宰相の中でも国王の信頼を一番得ていた人間だったから、継母自身も、継母の家も利益優先でそんな事は気にせず婚姻を進めた様だった。
だから継母は母と私に無関心だった。というより、視界にすら入っていなかったといった方が正しい。普通ならば自分の夫が特別扱いしている元メイドの女と子どもに対して何か思いそうなものだが、継母は私達に対して嫌がらせや何かを制限するような事はしてこなかった。成長してから気付いたが、継母が私と弟達が遊んでいた事すら何も言ってこなかったのはすごいと思う。恐らく私というより、弟達のしたい様にさせてあげていたからだと思うけど、中々出来ない事だろう。
ただ、私は子供ながらに親達の関係性をなんとなく察していた為、一緒に遊んだのは数回くらいでなるべく弟達との関わりは薄くした。弟達は伸び伸びと育ち、そのおかげか私を私生児だと蔑む事なく単純に姉として見てくれている。私が距離を置いている為全く関係性は深くないが、素直にありがたかった。
けれど父の両親は違い、私と母を単純に阻害した。私だけ食事は毎回別室だったし、顔も見たくない、一族の恥だからと母は離れから出るのを禁止されていた。母は私の為にずっと耐えてくれていたけど、ついに我慢の限界が訪れて私が8歳の頃に出て行った。
父は止めていた。二人が結ばれたのは20代前半だったが、出会ったのはまだ10代の中頃だったらしい。父は出会った時から母を好きになり、母も父を愛する様になって受け入れたけど、住む場所とお金を渡すだけで何もせず、かといって離してもくれない父に愛想が尽きてしまうのは当たり前だった。
母は私を連れて行こうと初めて父に反抗した。それを止めるためか、もうその前から動いていたのかは分からないが、父は私が既に王子の婚約者候補になっている事を引き合いにして私を母から奪った。
私は母がずっとあの小さな世界で孤独に生きていたのを知っていたから、それなら残ると言った母を「もういいよ」と言って解放してあげた。その頃の母はストレスで身を心もボロボロだった。母は泣きながら何度も私に謝っていた。
せめて手紙を書かせてくれと頼んだ所、さすがに許しを貰った。但し送るのは父親だった。それは私が母親の所に勝手に行かせないようにするためだった。母にもそのことを伝えていたのだろう、返ってくる手紙にも詳しい住所は書かれておらず、母の名前しか書かれていなかった。
父は私達の手紙を検閲まではしなかったから内緒で聞くことも出来ただろう。でももしそれをしてしまったら、私は絶対に母の所へ行ってしまう。もう私は王族になる人間なのだからと、本当は聞いてしまいたいのを我慢しながら何ともない日常の事を手紙にしたためていた。
やがて私はケビン様との婚約が決まった。他に候補で四人もいたそうだが、父の英才教育のおかげで私の物腰や言葉遣いを少し見ただけで満場一致で決定したという。私は自他共に認める立派な淑女になっていた。
「あなたの様な方を妻にさせて頂けるとは光栄です。一緒にこの国の為に尽くしましょう」
「ありがたきお言葉ありがとうございます。不束者ですが、どうかよろしくお願い致します」
そう言ってカテーシーをすると、ケビン様も見事な礼を見せてくれた。その姿を見て、私はこの人と対等に生きていけるように頑張ってきたんだと感動した。これが私の進むべき道で、ようやく歩き始める事が出来たと思った。
婚約を結んだ事により私もケビン様と同じ王立学園に入学した。ケビン様はなるべく私と一緒にいてくれる様にしていて、何度か出かけた事もあった。その時に私の好きな事や苦手な物、色々な事を質問してきた。でもずっと王族になるための教養しか身につけてこなかった私はケビン様からの質問に全て分からない、考えた事もないと答えた。それが事実だからしょうがないが、考えようともしなかったのはそもそも私の事を知ろうとするケビン様に疑問を持っていたからだ。
話す内容が無くなってきて、逆にケビン様が自分の事を話す様になり適当に相槌を打っていたら、「君は何にも興味がないのか」と言われた。正直うんざりしていた私は、いつもの歯に衣を着せぬ物言いをケビン様にしてしまった。
「私達はこの国の為に婚姻を結ぶのです。お互いを知ろうが知るまいが国民にとっては関係のない事。正直ケビン様がなぜそういったお話をされたがるのかわかりません」
ケビン様は「そうだな…しつこく聞いてすまなかった」と言うと、去っていった。そこからケビン様が私を誘う事はなくなった。私は理解してくれたのだと思って、すっかり静かになった日常を送った。
あともう少しすれば私は晴れて王太子妃だ。そう思っていたら、彼女が現れた。二人は私の知らない内に逢引きしていて、二人が懇意なのではないかという噂が回り始めた。
私はその頃にはすっかり周りから嫌われていた。それは今まで父の教えに従い平気で人を見下すような事をしたり、絶対に周りに流されない信念が故に人の気持ちも考えずにストレートに発言したり、何より国王の一番の信頼を得ている宰相の娘という立ち位置が、更に人の妬み嫉みを買ったりしていた。
それでも私はそう思われて当然だろうと思うくらいには慢心していた。実際周りが私に勝てる事なんて何一つなく、父からもそんな輩は放っておけと言われていたので無視していた。
装いを気にする様になったのもその頃だ。特に父に教わった訳ではなかったけれど、私なりに考えて国の王妃とは唯一無二でなくてはならないという気持ちで始めた。それは瞬く間に周りに影響を与え、私の陰口は叩くくせに私の装いを見てはこそこそと真似をしている姿を見て、浅ましい人達だとは思いつつも少しだけ嬉しい気持ちもあった。
やがて彼と彼女は本格的に騒がれ始める。私はそこで二人がこそこそと逢引していた事を知り、ようやく焦り始めた。私は王族として相応しい立ち居振る舞いを評価されて婚約者になった。だがケビン様が彼女を愛しているのならどうなるのだろう。彼女が選ばれるなんて事になる可能性もあるのだろうか。
幼い頃から父は私に一流の物をと言ってドレスも宝石も惜しみなく私に与えていた。実際はそれも私を王族にするための布石でしかなかったが、周りは私生児である私にも愛情を与える父親という風に評価していた。だから私もケビン様の名前を使って宝石やドレスを買い込んだ。「あの方がいつまでも私に綺麗でいて欲しいからと言うのです」なんていう今思えば馬鹿みたいな事を言いながら私に与えられているイヴァンチスカ家のお金を使って買った。それはすぐにケビン様の耳に届き、久しぶりに話しかけてきたと思ったら、「ああいうのはやめてくれ」の一言で終わった。出会った頃のケビン様がいかに優しい目を向けてくれていたのかよく分かった瞬間でもあった。
そんな状況で更に心を揺さぶられる事件が起きた。病気をしてすっかり弱った祖母がわざわざ私を呼びつけてこう言った。「お前の母親はもう他の男と暮らしてるよ。あんたは捨てられたんだ」と。
何をそんなに執着しているのか知らないが祖母はわざわざ母の様子を逐一探っていたらしい。常に心を揺さぶられない様にしてきた私でも憤って、顔に水をかけてやった。祖母はそれはもう憤慨したがもう動けない体の上に、この頃には祖父は亡くなっていてこの家の最高権位は父だった。父は私を叱らないだろうと謎に自信を持っていたが予想通りで、祖母の訴えは何も通らなかった。そして誰にも看取られる事なく孤独に死んでいった。
でも私の心の騒つきは収まらず、そんな大事な事を私に隠していた母にも腹が立って、それを全て手紙にぶつけたのを最後にもう送り合うのをやめた。私は母を捨てた。捨てられたんじゃない。私が捨ててやった。
とにかく私はボロボロだった。私の恨みはまず彼女へ向かった。私の中で王族という人間は絶対で、彼女がたぶらかしたせいだと決めつけた。彼女を呼び出して壁に追い込み、まるで念仏のように責める。
どうしてこんな下位貴族のマナーも何も知らないような女に奪われなくちゃいけないんだ。私は全てを捧げてここまできたのに!!
初めてそんな一面を人にぶつけた瞬間だった。彼女は真っ青な顔をして私を押して逃げた。それから二人が疎遠になったと聞いて良かったと安心していた。
だが今度は彼女の悪評が回り始め、それを私が言い始めたという全くのデマが囁かれた。それはたまたま聞こえてしまった話し声によって知るのだが、それは王子と懇意になっているのではと騒がれ始めた頃から、彼女の周りにくっつき始めた令嬢達の声だった。
彼女の悪評を言いふらし始めたのも、それを私に押し付けたのもこいつらだった。けれど私は祖母に向ける事が出来た怒りをぶつけはしなかった。いつもの私のプライドというのもあったが、友達と思っている奴らに裏切られているあの女にざまあみろと思ったからだ。
けれどまたあの二人がこそこそと会い始めた。馬鹿みたいな噂を信じて女が心配になったあの男がまた近付いたのだろう。何を考えているのか知らないが私が出席するようなパーティにもあの女が来るようになった。
どうしてここまで貶まされなきゃいけないの。私が何をしたって言うの。私はただ父親の言うことを聞いて生きてきた。他人の嫉妬に振り回されて、愛なんてものに私の全て捧げてきたものがあっさりと負けて、母親まで私を裏切って、どうすればいいの。
軽い錯乱状態に陥った私は使用人にも当たった。それもすぐに周りに囁かれる。私はすっかり悪女となった。
口汚い言葉ばかりが浮かぶ自分が嫌だった。どんどん余裕が無くなっていく自分が嫌だった。誰も私の味方なんていなくて、初めて怖くなった。
私は彼女に、あなたの悪評を広めたりなんかしていない、あなたの事を許すから、お願いだから婚約者という立場だけは奪わないで、私は愛はいらないから、それは全てあなたに譲るからと伝えると決めた。
あの二人が懇意になる前に彼女と会話した事がある。地頭が良いという事もあって、周りの金とプライドが高いだけの令息令嬢達とは違って単純に楽しかった。何よりこの人は素直な人間なんだと思った。だから優しくされただけでその人の事を愛してしまうし、人の悪気が分からないからすぐに信じてしまう。ならば私の話も素直に聞いてくれるかもしれない。この間の様に脅すのではなくちゃんと話をすれば分かってくれるかもしれない。そう思い、本当は行きたくなかったパーティに行き、彼女に声をかけ肩を叩いた。
しかし彼女は私と気付いた瞬間声をあげて叫んだ。明らかに怯えた声だった。その瞬間頭が真っ白になった。肩を叩いた手の感触と、もうどうにもならない虚しさがだけが残り、気付いたら彼女は階段下に落ちていて、私は婚約を破棄された。
始めは周りの奴らをずっと恨み続けた。何度も何度も心の中で罵って全員消えればいいのにと願った。その次に襲ってきたのは後悔と恐怖だった。
自分がしていない事を違うと言う事の何が悪かったのだろう。味方がいない限り私を守るのは私しかいなかったのに、醜くてもいいから抵抗すれば良かった。
何より私は本当に彼女を突き落としていないと言えるだろうか。あの叫び声を聞いた時、この女めという恨み声が浮かんでこなかっただろうか。そんな状態で本当に正気を保てただろうか。彼女の肩を叩いた手に、少しでも力を込めたんじゃないだろうか。
屋敷に幽閉されている間、あの時の光景が何度もフラッシュバックしては後悔し、自分が殺人まがいな事をしたのではという恐怖で震えた。日付の感覚もままならなくなった頃、私はとある田舎貴族に嫁がされる事になった。
母の時と同じ様にただ傍観していただけの父は、私に金を持たせてあっさりと私を切った。そこで私は常々勘づいていた事が確信に変わった。
父は私を王妃にする事を、自分の名前を王族の名に並べたいからと言っていたが、本当は母の為だったのだ。素晴らしい王妃を産んだ母親として立場を明確にし、疎外してきた祖父母や周りを黙らせたかったのだと思う。そしてそれは果たされず、祖父母は死に母は再婚した。それはあっさりと捨てられるに決まっていた。
結局私は無力だった。散々搾取されてこんな仕打ちを受けるなんて正しい訳がない。けれど反抗する気力もないし、その権利もない。私は自分で生きていく術なんてないのだから、ただただ「分かりました」と受け入れるだけ。
城所有の馬車に揺られウィリアムズ領とかいう聞いたことのない場所へ向かう。どうせ私は国中を騒がせた悪女なのだ。どこに行っても同じだ。受け入れてもらえるわけもなくかこの先も孤独なのだろう。
これって生きる意味があるのかしら。それに王族になるために生まれてきた私がそれを果たせないとなると、何のために生まれてきたのかしら。
私は王族としての資質をもった素晴らしい淑女だと自負はしていたけど、そんな自分を別に愛していた訳ではない。そんな女を誰が愛してくれよう。
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