終生飼育は原則ですから

被保護編 339年

339年11月3-2

　ヌゼラス邸を訪問した。クリスティアナがいる。
　クリスティアナは学校を休みはしないが、帰宅した後はずっとベッドで寝ている。

　訪問は断られた。
　それを無視してクリスティアナの部屋まで行き、ドアをノックする。
　微かに返事が聞こえた。
「クリスティアナにはすまないが、結婚してほしい」
　ドアを開き、ガウンを着てベッドに腰掛けていたクリスティアナに言った。
　痩せたな。皆オーサーのせいで痩せた。

「・・・わかっています。オーサーがいつも言っていた。身分に相応しい行いをせよと」
　また泣いている。
「あの人は自ら範を示した。身分なんてないのに」
　そうだ。それは誰も望んでいない事だった。

「私はファリオン殿下と結婚します。それが求められる役割だから。お気の毒に、ファリオン殿下」
　気の毒なクリスティアナ。兄上が好きだったのに。
「あなたも。そして兄上も」
　跪いて手を取り口付けた。
　クリスティアナは美しく賢く生まれがよく優しい女性だ。
　オーサーが来なければ兄上と結婚していただろう。

　だがそれは幸せだっただろうか。
　兄上はとても冷たかった。オーサーに出会う前は。オーサーが変えたと思ったが、いなくなった今、戻ったようだ。前以上かもしれない。誰も話し掛けられない。

　帰りを待っていた。帰ったら結婚式だと思っていた。皆が祝福する。
　オーサーはドレスを着て不満そうだっただろう。無駄に高価で動きにくく、兄上が離さない。
　それを見たかった。兄上がオーサーに向ける笑顔を、俺も見たかった。