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被保護編 339年
339年11月2
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馬鹿な。
なぜ強引にでも連れて帰らなかった。
無理なのはわかっている。そう決めた彼女は、実行する為にあらゆるものを利用する。それは誰にも止められない。
馬鹿な。
あなたはレイを好きだった。愛してはいなくても、好きだった。そうでなければとっくに切り捨て逃げている。レイでなければそうしていたはずだ。出来るだけの冷たさと思い切りはある。
イユリスは安定的に発展する。道筋は出来たし将来像を共有する人材はある。
世界の安定の為にはソファリスが重要だ。最大の国が同じ方向を向かなければ、いつか軋轢が生まれる。
自分がいなければレイは結婚する。相応しい相手と。そして子供を作る。
そう考えた。それは間違いない。私もそう考えるからだ。
彼女は正しい。だが決定的に間違っている。感情は正しさを求めていない。
誰もがあなたが間違っていると考える。
レイの帰国後、軍による奪還案まで出た。
オーサーの育てた出版社がオーサーを取り戻すべきだと書きたてた。
レイの評判は落ちている。みすみす奪われ、何も出来ない弱腰。
だがオーサーからの手紙が出版社に届いた。
なぜソファリスに残ったか、イユリスへの感謝、これからの発展の期待を述べ、レイの立場への理解を求めた。イユリスへの愛を感じさせるものだった。
新聞にはもちろん印刷された文章が載ったが、実物はレイが持っている。
文字も美しく、見たいという者が多いから額装して飾った方がいいが、まだ無理だろう。
新聞を読んで泣く者も多く剣呑な雰囲気は収まったが、覇気はない。気が抜けたようだ。
レイも、エランも、ファリオンも、クリスティアナも、私でさえもやる気が起きない。
レンツォーリは姿を消した。レイも追う気はない。
ソファリスからはオーサーの馬のフィゾと、オーサーの荷物が届いた。
ソウシュウがではなくオーサーがそうしたのだろう。オーサーならやる。関係を絶つと決めたのなら徹底的にやるだろう。
レイはそのまま送り返した。レイが与えたものは少なく、オーサーが自分で得たものだ。
オーサーは平気なのだろうか。あんなにも男に慣れていない。
私は慣れている。それでも辛い。レイは堪らないだろう。拳に傷を作っている事がある。黙っては耐えられない。
信じられない。オーサーは二度と戻らない。
いなくなるとしても、どこかイユリスの田舎で、私が訪ねれば迎えてくれると思っていた。
私も彼女も年を取り目も弱くはなるが、出版される数が増えた本を読むのが忙しく、それについて語れると思っていた。
二度と、会えないのかもしれない。
あの見送りが最後だったのか。
あのキスが。
泣けるものなら楽になれる。
なぜ強引にでも連れて帰らなかった。
無理なのはわかっている。そう決めた彼女は、実行する為にあらゆるものを利用する。それは誰にも止められない。
馬鹿な。
あなたはレイを好きだった。愛してはいなくても、好きだった。そうでなければとっくに切り捨て逃げている。レイでなければそうしていたはずだ。出来るだけの冷たさと思い切りはある。
イユリスは安定的に発展する。道筋は出来たし将来像を共有する人材はある。
世界の安定の為にはソファリスが重要だ。最大の国が同じ方向を向かなければ、いつか軋轢が生まれる。
自分がいなければレイは結婚する。相応しい相手と。そして子供を作る。
そう考えた。それは間違いない。私もそう考えるからだ。
彼女は正しい。だが決定的に間違っている。感情は正しさを求めていない。
誰もがあなたが間違っていると考える。
レイの帰国後、軍による奪還案まで出た。
オーサーの育てた出版社がオーサーを取り戻すべきだと書きたてた。
レイの評判は落ちている。みすみす奪われ、何も出来ない弱腰。
だがオーサーからの手紙が出版社に届いた。
なぜソファリスに残ったか、イユリスへの感謝、これからの発展の期待を述べ、レイの立場への理解を求めた。イユリスへの愛を感じさせるものだった。
新聞にはもちろん印刷された文章が載ったが、実物はレイが持っている。
文字も美しく、見たいという者が多いから額装して飾った方がいいが、まだ無理だろう。
新聞を読んで泣く者も多く剣呑な雰囲気は収まったが、覇気はない。気が抜けたようだ。
レイも、エランも、ファリオンも、クリスティアナも、私でさえもやる気が起きない。
レンツォーリは姿を消した。レイも追う気はない。
ソファリスからはオーサーの馬のフィゾと、オーサーの荷物が届いた。
ソウシュウがではなくオーサーがそうしたのだろう。オーサーならやる。関係を絶つと決めたのなら徹底的にやるだろう。
レイはそのまま送り返した。レイが与えたものは少なく、オーサーが自分で得たものだ。
オーサーは平気なのだろうか。あんなにも男に慣れていない。
私は慣れている。それでも辛い。レイは堪らないだろう。拳に傷を作っている事がある。黙っては耐えられない。
信じられない。オーサーは二度と戻らない。
いなくなるとしても、どこかイユリスの田舎で、私が訪ねれば迎えてくれると思っていた。
私も彼女も年を取り目も弱くはなるが、出版される数が増えた本を読むのが忙しく、それについて語れると思っていた。
二度と、会えないのかもしれない。
あの見送りが最後だったのか。
あのキスが。
泣けるものなら楽になれる。
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