終生飼育は原則ですから

乃浦

文字の大きさ
上 下
330 / 365
被保護編 339年

339年11月2

しおりを挟む
 馬鹿な。
 なぜ強引にでも連れて帰らなかった。
 無理なのはわかっている。そう決めた彼女は、実行する為にあらゆるものを利用する。それは誰にも止められない。

 馬鹿な。
 あなたはレイを好きだった。愛してはいなくても、好きだった。そうでなければとっくに切り捨て逃げている。レイでなければそうしていたはずだ。出来るだけの冷たさと思い切りはある。

 イユリスは安定的に発展する。道筋は出来たし将来像を共有する人材はある。
 世界の安定の為にはソファリスが重要だ。最大の国が同じ方向を向かなければ、いつか軋轢が生まれる。
 自分がいなければレイは結婚する。相応しい相手と。そして子供を作る。

 そう考えた。それは間違いない。私もそう考えるからだ。
 彼女は正しい。だが決定的に間違っている。感情は正しさを求めていない。
 誰もがあなたが間違っていると考える。

 レイの帰国後、軍による奪還案まで出た。
 オーサーの育てた出版社がオーサーを取り戻すべきだと書きたてた。
 レイの評判は落ちている。みすみす奪われ、何も出来ない弱腰。

 だがオーサーからの手紙が出版社に届いた。
 なぜソファリスに残ったか、イユリスへの感謝、これからの発展の期待を述べ、レイの立場への理解を求めた。イユリスへの愛を感じさせるものだった。

 新聞にはもちろん印刷された文章が載ったが、実物はレイが持っている。
 文字も美しく、見たいという者が多いから額装して飾った方がいいが、まだ無理だろう。

 新聞を読んで泣く者も多く剣呑な雰囲気は収まったが、覇気はない。気が抜けたようだ。
 レイも、エランも、ファリオンも、クリスティアナも、私でさえもやる気が起きない。
 レンツォーリは姿を消した。レイも追う気はない。

 ソファリスからはオーサーの馬のフィゾと、オーサーの荷物が届いた。
 ソウシュウがではなくオーサーがそうしたのだろう。オーサーならやる。関係を絶つと決めたのなら徹底的にやるだろう。
 レイはそのまま送り返した。レイが与えたものは少なく、オーサーが自分で得たものだ。

 オーサーは平気なのだろうか。あんなにも男に慣れていない。
 私は慣れている。それでも辛い。レイは堪らないだろう。拳に傷を作っている事がある。黙っては耐えられない。

 信じられない。オーサーは二度と戻らない。
 いなくなるとしても、どこかイユリスの田舎で、私が訪ねれば迎えてくれると思っていた。
 私も彼女も年を取り目も弱くはなるが、出版される数が増えた本を読むのが忙しく、それについて語れると思っていた。

 二度と、会えないのかもしれない。
 あの見送りが最後だったのか。
 あのキスが。

 泣けるものなら楽になれる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【R18】突然召喚されて、たくさん吸われました。

茉莉
恋愛
【R18】突然召喚されて巫女姫と呼ばれ、たっぷりと体を弄られてしまうお話。

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...