終生飼育は原則ですから

被保護編 339年

339年3月2-1

　前より白くなったようだ。
　前も細かったが、もっと痩せたかもしれない。
　もっと笑っていた気がする。今は考え込んでいることが増えた。
　べったりになるとは思っていなかったが、もっと付き合っているような、こちらが見ていられないような、そういうのはないのか。幸せそうには見えない。

　兄上と出てこないと聞いて心配したし安心もした。嫉妬もあったかもしれない。
　けれど、これでようやく落ち着くと思った。
　兄上も、オーサーも、この国も落ち着く。

　オーサーが会う約束をしていた相手には不在だと断った。
　オーサーの体調不良を心配していたが、答えた職員が、そうではなさそうで、そして王太子も不在だと付け加えると得心していた。

　出てきたオーサーの横顔は前より冷たい。仕事が溜まっていたし、勘繰られたくないらしく、隙を見せない。
　けれど皆知っている。それにショックを受けていた。

　オーサーだけ見ていると、兄上とはただの上司と部下だ。前より遠くなった。
　しかし兄上は近い。事あるごとに触れ、それをオーサーが前より強く拒否している。
　兄上はもっと自制するべきだし、オーサーはもっと受け入れた方がいい。昼の欲求不満がいっそうオーサーを消耗させるだろう。

　土曜はオーサーは一人だ。それはさすがに兄上も自制している。そこでまで拘束すれば、オーサーは切れるだろう。
　だが日曜はいつも側にいて、いつも触れていようとする。
　オーサーは談話室等人のいるところにいて、二人きりになるのを避けようとしている。二人になるのは嫌だが、人前でべったりされることも論外らしい。

　見ていると、飼い主が好きすぎるしつけのできない大型犬と、それにうんざりしている飼い主のようだ。
　尻尾を振って擦り寄り、叱られて少し距離を置き、また寄りすぎて叱られる。飼い主の根気強さに感心する。