終生飼育は原則ですから

乃浦

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被保護編 338年

338年12月1-1

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 ともやの書く文字が評判になりだした。
 学校に掲示する文書をともやがペンではなく筆で書くと、その達筆に自分も欲しいと頼んでくる者がいる。
 商人の娘の結婚に祝辞を書いて届けた物を参加者が見たせいもある。
 ペンで書いても綺麗な字だが、筆で書くと文字自体が力を持ったように見える。

 もともとあった筆では書きにくいらしく、職人に言って文字用の物を作らせた。それが売れるそうだ。
 書き方に原則はあるが、好きなように書いたらいいというのが彼女の意見だ。
 そうすることで人の好みが生まれ定まっていくし、その過程で作法や決まりも生まれるだろうと。

 彼女はいつも大局を見る。引いて見るだけではなく、過去から先まで見ている。
 彼女がいなくなった私の将来は、なぜ見えないのか。彼女には、私がどこかの女と結婚して幸せそうな未来が見えているのか。

 夏祭りで見せ付けたつもりだが、ともやへの誘いが減らない。
 兵士や近衛とも、より近くなったようだ。学校の実習の話し合いが増えたためだろう。

 彼女の住む世界はどこであっても、とても単純で朗らかでわかりやすいのだろう。
 恋愛感情を排除している彼女の世界に住む人間は、理屈通り、予想通り行動する。
 内心がどうであれ、利害が合えば付き合っていくことはできる。

 彼女はそう考えているだろうが、人間は、ともやが考えるよりもドロドロしている。
 彼女が考える内心は、冷たいか汚い、弱いものだろうが、もっと抑えきれない、湧き上がる獣のような欲望がある。押し倒したい気持ちを必死で留めるような瞬間はある。
 それを考えもしない、言っても自分が対象だと考えられない彼女は、無防備すぎる。

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