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被保護編 337年
337年10月7-4
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そのあと装飾品店に行って、もう一軒布屋に寄って帰った。
装飾品店は庶民向けの比較的安価な物を中心に扱っている店だ。イーディがこの先彼女に買おうとしても使えるし、オーサーはこういう所を見たいんだろう。
指輪、ネックレス、ピアスを見ながら、普通の人はどれくらいの頻度で買いに来て、どれくらい装飾品を持っているのか俺に聞くが、俺も知らない。たぶん記念日にだから一年に一回くらい買いにくるんだろ。
布屋では刺繍糸と布を買っていた。初めて買い物をしている。
「刺繍、するのか?」
「あまり上手くないけどね。時間はないけど、何か作りたくてしょうがない」
そんなものか?
「消費する喜びと生産する喜びがあると思わない?」
「考えたことがない」
「そう。私は消費するばかりだと、なんか物足りなくて作りたくなる」
今も作っているよな。新しい部署とかやり方とか関係を。
「イーディは作るタイプだよね」
「まあそうだな」
イーディと別れ、オーサーと二人で兄上の所に戻る。
オーサーが少しうつむいて歩いている。
「疲れただろ」
「それほどじゃない。それほどじゃありません。今日はありがとうございます」
「いまさら畏まれてもわざとくさいだろ」
ともやが笑った。
「言葉だけじゃなくてお前、俺のことを敬ったりしていないのはわかるんだから、態度に合わせて話せ」
「態度の方に合わせていいんだ」
「上辺だけ取り繕う奴らにはうんざりしている」
「ああ、それはそうでしょう。私の態度が悪くてごめん。だけどファリオンのことは思ったよりずっといい人だと思ってるよ」
「お前・・・上手い言い方だな」
「受け取り方によっていろいろ解釈できる、ね。だけど話せばわかる人や自分を馬鹿にされても許せる人は、身分が高くなるほど少なくなるから、ファリオンは珍しい人だと思ってる」
「珍しいか。それも微妙だな」
「珍しいは褒め言葉にならないか。そうだね、私も珍しいと言われても喜べなかった」
ああそうだな。オーサーは珍しいせいもあって注目される。だけど外見が珍しいせいだけじゃない。
「オーサーの故郷では、黒髪や黒い目は珍しくないのか?」
「・・・ほとんど黒っぽい色。私は普通の人間なんだけどね」
オーサーが普通か。本当にオーサーが普通なら、とても発展した国になるんじゃないか。そんな国は聞いたことがない。国じゃなく地方なのか。人数が少ないのかもしれない。それならやっぱり珍しい。
ロゾイゾ邸の玄関に入ると、兄上が待っていた。兄上は本当にオーサーが大事なんだ。
「ただいま帰りました」
「お帰り。ファリオン、ご苦労だった」
「とてもお世話になったし、奢ってもらいました」
兄上がオーサーを見る目は、いつも優しい。オーサーを見る時だけ優しい。
反対に、オーサーは兄上に厳しい気がする。今もまっすぐに見つめている。恋人ならもっと甘さがあるだろうが、気配もない。
「そうか。ありがとうファリオン。私は連れて行けないから助かった」
「いえ。お役に立てたのなら嬉しいです。では失礼します」
兄上から礼を言ってもらえる。オーサーのお蔭だな。オーサーが言わせた。
オーサーは俺と兄上を繋ごうとしている。ありがたいが、兄上は望んでいないのではないだろうか。
装飾品店は庶民向けの比較的安価な物を中心に扱っている店だ。イーディがこの先彼女に買おうとしても使えるし、オーサーはこういう所を見たいんだろう。
指輪、ネックレス、ピアスを見ながら、普通の人はどれくらいの頻度で買いに来て、どれくらい装飾品を持っているのか俺に聞くが、俺も知らない。たぶん記念日にだから一年に一回くらい買いにくるんだろ。
布屋では刺繍糸と布を買っていた。初めて買い物をしている。
「刺繍、するのか?」
「あまり上手くないけどね。時間はないけど、何か作りたくてしょうがない」
そんなものか?
「消費する喜びと生産する喜びがあると思わない?」
「考えたことがない」
「そう。私は消費するばかりだと、なんか物足りなくて作りたくなる」
今も作っているよな。新しい部署とかやり方とか関係を。
「イーディは作るタイプだよね」
「まあそうだな」
イーディと別れ、オーサーと二人で兄上の所に戻る。
オーサーが少しうつむいて歩いている。
「疲れただろ」
「それほどじゃない。それほどじゃありません。今日はありがとうございます」
「いまさら畏まれてもわざとくさいだろ」
ともやが笑った。
「言葉だけじゃなくてお前、俺のことを敬ったりしていないのはわかるんだから、態度に合わせて話せ」
「態度の方に合わせていいんだ」
「上辺だけ取り繕う奴らにはうんざりしている」
「ああ、それはそうでしょう。私の態度が悪くてごめん。だけどファリオンのことは思ったよりずっといい人だと思ってるよ」
「お前・・・上手い言い方だな」
「受け取り方によっていろいろ解釈できる、ね。だけど話せばわかる人や自分を馬鹿にされても許せる人は、身分が高くなるほど少なくなるから、ファリオンは珍しい人だと思ってる」
「珍しいか。それも微妙だな」
「珍しいは褒め言葉にならないか。そうだね、私も珍しいと言われても喜べなかった」
ああそうだな。オーサーは珍しいせいもあって注目される。だけど外見が珍しいせいだけじゃない。
「オーサーの故郷では、黒髪や黒い目は珍しくないのか?」
「・・・ほとんど黒っぽい色。私は普通の人間なんだけどね」
オーサーが普通か。本当にオーサーが普通なら、とても発展した国になるんじゃないか。そんな国は聞いたことがない。国じゃなく地方なのか。人数が少ないのかもしれない。それならやっぱり珍しい。
ロゾイゾ邸の玄関に入ると、兄上が待っていた。兄上は本当にオーサーが大事なんだ。
「ただいま帰りました」
「お帰り。ファリオン、ご苦労だった」
「とてもお世話になったし、奢ってもらいました」
兄上がオーサーを見る目は、いつも優しい。オーサーを見る時だけ優しい。
反対に、オーサーは兄上に厳しい気がする。今もまっすぐに見つめている。恋人ならもっと甘さがあるだろうが、気配もない。
「そうか。ありがとうファリオン。私は連れて行けないから助かった」
「いえ。お役に立てたのなら嬉しいです。では失礼します」
兄上から礼を言ってもらえる。オーサーのお蔭だな。オーサーが言わせた。
オーサーは俺と兄上を繋ごうとしている。ありがたいが、兄上は望んでいないのではないだろうか。
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