終生飼育は原則ですから

乃浦

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被保護編 337年

337年4月1-1

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 辺りが見えるようになった。室内だ。見覚えのある装飾。
 少し下を見ると人間の顔、目が合う。
 ああ。彼らだ。私は帰ってきた。

「レイサ」
<ともや、ともや>
 目を閉じ手で両目を押さえたともやは立っていられないようだった。
 抱き締めていた腕の力を少し抜くと、床に座り込んだ。

<ともや、大丈夫か?>
 両肩をつかんで支えているが、寝かせた方がいいか。
 ともやが少し目を開いた。
<ここは?>
<イユリスのヌゼラス邸だ>
<レイサスの味方のだね?>
<そうだ>
「よかったねレイサス。戻れた。しかも味方のところに」
 力弱く、しかし本当に嬉しそうに笑った。
「だけどごめん、今は寝かせて。頭痛とめまいがひどい」

 抱き寄せて振り向いた。
「ベッドと着替え、水を用意してくれ」
 マクシミリアンに言い、ともやを抱き上げる。スカートが捲り上がりそうになるのが腹立たしい。私が望まなければ、ともやは動きやすい格好だったはずだ。恥ずかしい思いをさせる事もなかった。
 こんな状態でなければ、ともやが私に身を任せていることを心から楽しんだはずだ。今はそこまで辛いのかと焦るばかりだ。

 ヌゼラス邸は知っている。自分でドアを開け、用意されているベッドにそっとともやを横たえた。

 ともやは目を閉じたまま手探りでバッグを漁っている。襷掛けしていたおかげでバッグもイユリスに来た。幸いだった。鎮痛剤がある。
 水が来たのでともやの上半身を支え上げる。薬を飲んだともやは横向きになり毛布を被った。

 毛布の下をめくってともやの足から靴を脱がす。脚を曲げることで抵抗しようとしたようだがそれだけだった。状態が良くない。
<水は横に置いてある。トイレは部屋を出て右の突き当たりだ。何か欲しい物があれば鈴を鳴らして>
 ついていたい。ベッドは広いからその端でもいい、側にいたい。だがともやは一人が好きだ。具合が悪い時は特に。

 部屋から出てドアを閉め、そのドアに背を預けた。船に乗っているような感覚。とても穏やかな水面だが、足元が微かに揺れているような感覚が、私もする。初回よりはずいぶんいいが。
「レイサス様、お変わりないか」
 マクシミリアンが私を見つめている。マクシミリアンとシルヴィオは値踏みしているのを隠さない。
「変わりはある。そなたらも私もいろいろと聞きたい事がある。だがまずはイスを持って来てくれ」
「隣の部屋へ」
「ここにいる。イスを持て」

 マクシミリアンがイスを取りに行った。その間にシルヴィオが聞いてきた。
「なぜこの部屋に入らないのですか?」
「彼女は一人でいたいからだ」
「具合が悪い女性を一人で?」
「それが彼女の望みだ」
 シルヴィオは何を言っているのかと肩を上げた。相変わらずだ。
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