49 / 51
第49話 花火大会(終)
しおりを挟む
花火大会が終わり、帰りの電車。
帰りのラッシュは人混みが凄く、寿司詰め状態で、こんなのを毎回経験している会社員の皆様に尊敬の念を送りつつ、アヤノと逸れない様にするという意識が強かったので、まだ心臓の鼓動が早いだけで済んでいた。
だが、乗り慣れた路線に乗り換えると乗客は落ち着いており、先程までのギュウギュウ詰めが嘘の様に車内はガラガラであった。
席に余裕があったので、空いていた2人席に座る。
窓際に座ったアヤノが花火大会で疲れたのか、先程の満員電車で疲れたのか、コックリと船を漕いで眠ってしまっている。
そんな彼女を見ながら「よく寝れるな……」と言葉をこぼす。
こちとらアンタの事しか考えられない状態だってのに……。
しかも、そんな可愛い寝顔見せられたら俺どうして良いか分からないだろう……。
改めてアヤノを見る。
あかん! 可愛い過ぎる。似合いすぎている。意識してしまってるから尚のこと、いつもより何倍も可愛いく見えてしまう。
ロングが好きだと思っていたけど、こんなのショート派に簡単に移ってしまうだろ。何でそんなに可愛いんだよこの野郎。
俺はスマホを取り出して検索をかける。『男 告白 タイミング』と。
ズラリと色々な記事が出てきたところで、指を止める。
待て待て待て。別に俺は告白された訳じゃない。
もしかしたら「勘違いしないで。今後も働いてもらう中で少しでもモチベーションを上げてもらう為にアナタの好みに合わせただけで、恋愛感情とかじゃないから」とかだったらどうする?
いや、アヤノなら有り得――。
有り得るか! こんなん普通の奴だったら普通に気がつくわ!
これで気が付かないのはラブコメの鈍感難聴ハーレム糞野郎だけだわっ!
俺の為に髪を切ってくれた。俺の好みに合わせてくれた。
――勘違いだけど……。でも、それがどういう意味なのか分からない程落ちぶれてはいない。
女の子があれほど綺麗な長い髪を思いっきり切ったんだ。
相当の覚悟があったはず。
だったら俺も覚悟を決めろ。
一緒に過ごして行く時の中で、アヤノと同じ気持ちになっていたんだろ? だったら腹を括れ! 南方 涼太郎!
あー……。でも告白ってどうするの? どのタイミング。
今? この電車でするの? いや、流石に電車で告白は萎えるだろ。
じゃあまだ? 先延ばしにする? 何処でするのがベスト?
ああああ……。皮肉にもイライラするラブコメの主人公みたいにナヨナヨしい考えに陥ってしまっている。
今なら分かるよ主人公達。ヒロインに言い寄られてナヨる君らの気持ちが――。
『――ご乗車ありがとうございます。次は――』
そんな事をグルグルと考えていると、アヤノの最寄り駅が近付いてきていた。
ここでアヤノは降りるし、俺も家に帰るならば、ここで乗り換えなければならない。
まぁアヤノを家まで送るから今は乗り換える必要はないけど。
つまりはお互い降りる駅に着いたという訳だ。
「アヤノ? もう着くぞ」
耳元で言ってやると、アヤノのくせにすんなりと目を覚ます。
「もう着く?」
「ほら、ホーム見えて来ただろ?」
そう言って窓から見えて来たホームを指差すと「そう……」と残念そうな声を出す。
その残念そうな声は俺と離れたくないという意味で良いのかな? それだったら嬉しいけど。
ホームに着いて、2人して電車から降りる。
アヤノは寝起きの為か、目を掻いている。
「ほんじゃ、帰るか……」
別に言葉にする必要もなかったが、何となく出てしまった。
その何となく出た言葉にアヤノが反応する。
「家まで――」
そう言いかけてアヤノは首を横に振った。
「ううん。やっぱり良い……」
「家まで送るよ」
「え?」
俺の言葉が予想外だったのか、アヤノは目を見開いた。
「でも、もう遅いし、この後すぐに来る電車で帰った方がいいでしょ? リョータローも疲れてるだろうし」
おいおい。何で今日は謙虚なんだよ。いつもなら「送るのが当然」みたいな事言うのに。
「遅いからこそ送るよ。夜道は危ないし。それは当然の事だ」
そう言うとアヤノは少しだけ悲しそうに言ってくる。
「そう……だね。仕事だから当然だよね……。それじゃあよろしく」
「仕事……」
アヤノの言葉に胸がチクリとした。
元々今日は仕事と言われて、誘導と言われてやって来たのだ。
だからアヤノは仕事のはんちゅうで言ったものだと思っているのだろう。
「アヤノ、そうじゃ――」
「早く行こ。今日は疲れたし」
俺の否定の言葉を待たずしてアヤノはスタスタと歩き出す。
「あ、ちょっと……」
その後をすぐに追って帰路に着いた。
♦︎
会話のないままアヤノの家に着いた。
別に不機嫌な感じではない。アヤノは少しボーッとしながら歩いていた。
その横で俺も考え事をしながら歩いていたので、会話のないまま家に着いてしまった。
このまま雇い主と雇われ主の関係のまま告白しても意味はないんじゃなかろうか。
アヤノは今の状況も俺が仕事だから送っていると思っているし。
仮に今の状態で付き合えたとしても、それはお金をもらいながら付き合っている事になる。
それはアヤノが話をしてくれた、仲良かったと思い込んでいたガキと同じ立場になるのではなかろうか……。
だったら――。
「ありがとうリョータロー。つ、次の仕事は、ま、また今度連絡するね」
「あ、アヤ――」
呼び止める間も無くアヤノは早歩きでマンションに入って行った。
もしかして……。避けられている? いきなり? どうして? いきなり? なんで? いきなり?
もどかしさを感じながらも、アヤノを追いかけようとしたところで「涼太郎くん」と後ろから声をかけられる。
振り返るとそこには仕事終わりだろう、アヤノの父親である秀さんの姿があった。
「今日は花火大会に行くと言っていたな。綾乃を送ってくれたんだね?」
「あ、は、はい」
「ありがとう。もう遅い時間だが、まだちょっと時間もらえないかな?」
「あ、大丈夫ですよ」
「そうか。なら上がってくれたまえ」
「え? えっと……」
避けられている感じのアヤノの所に上がるのは少し抵抗を感じて歯切りが悪くなる。
そんな俺をお父さんは心配して聞いてくれる。
「ん? 無理強いはしないが?」
「いえいえ。全然大丈夫です」
「そうか。では帰ろう」
帰りのラッシュは人混みが凄く、寿司詰め状態で、こんなのを毎回経験している会社員の皆様に尊敬の念を送りつつ、アヤノと逸れない様にするという意識が強かったので、まだ心臓の鼓動が早いだけで済んでいた。
だが、乗り慣れた路線に乗り換えると乗客は落ち着いており、先程までのギュウギュウ詰めが嘘の様に車内はガラガラであった。
席に余裕があったので、空いていた2人席に座る。
窓際に座ったアヤノが花火大会で疲れたのか、先程の満員電車で疲れたのか、コックリと船を漕いで眠ってしまっている。
そんな彼女を見ながら「よく寝れるな……」と言葉をこぼす。
こちとらアンタの事しか考えられない状態だってのに……。
しかも、そんな可愛い寝顔見せられたら俺どうして良いか分からないだろう……。
改めてアヤノを見る。
あかん! 可愛い過ぎる。似合いすぎている。意識してしまってるから尚のこと、いつもより何倍も可愛いく見えてしまう。
ロングが好きだと思っていたけど、こんなのショート派に簡単に移ってしまうだろ。何でそんなに可愛いんだよこの野郎。
俺はスマホを取り出して検索をかける。『男 告白 タイミング』と。
ズラリと色々な記事が出てきたところで、指を止める。
待て待て待て。別に俺は告白された訳じゃない。
もしかしたら「勘違いしないで。今後も働いてもらう中で少しでもモチベーションを上げてもらう為にアナタの好みに合わせただけで、恋愛感情とかじゃないから」とかだったらどうする?
いや、アヤノなら有り得――。
有り得るか! こんなん普通の奴だったら普通に気がつくわ!
これで気が付かないのはラブコメの鈍感難聴ハーレム糞野郎だけだわっ!
俺の為に髪を切ってくれた。俺の好みに合わせてくれた。
――勘違いだけど……。でも、それがどういう意味なのか分からない程落ちぶれてはいない。
女の子があれほど綺麗な長い髪を思いっきり切ったんだ。
相当の覚悟があったはず。
だったら俺も覚悟を決めろ。
一緒に過ごして行く時の中で、アヤノと同じ気持ちになっていたんだろ? だったら腹を括れ! 南方 涼太郎!
あー……。でも告白ってどうするの? どのタイミング。
今? この電車でするの? いや、流石に電車で告白は萎えるだろ。
じゃあまだ? 先延ばしにする? 何処でするのがベスト?
ああああ……。皮肉にもイライラするラブコメの主人公みたいにナヨナヨしい考えに陥ってしまっている。
今なら分かるよ主人公達。ヒロインに言い寄られてナヨる君らの気持ちが――。
『――ご乗車ありがとうございます。次は――』
そんな事をグルグルと考えていると、アヤノの最寄り駅が近付いてきていた。
ここでアヤノは降りるし、俺も家に帰るならば、ここで乗り換えなければならない。
まぁアヤノを家まで送るから今は乗り換える必要はないけど。
つまりはお互い降りる駅に着いたという訳だ。
「アヤノ? もう着くぞ」
耳元で言ってやると、アヤノのくせにすんなりと目を覚ます。
「もう着く?」
「ほら、ホーム見えて来ただろ?」
そう言って窓から見えて来たホームを指差すと「そう……」と残念そうな声を出す。
その残念そうな声は俺と離れたくないという意味で良いのかな? それだったら嬉しいけど。
ホームに着いて、2人して電車から降りる。
アヤノは寝起きの為か、目を掻いている。
「ほんじゃ、帰るか……」
別に言葉にする必要もなかったが、何となく出てしまった。
その何となく出た言葉にアヤノが反応する。
「家まで――」
そう言いかけてアヤノは首を横に振った。
「ううん。やっぱり良い……」
「家まで送るよ」
「え?」
俺の言葉が予想外だったのか、アヤノは目を見開いた。
「でも、もう遅いし、この後すぐに来る電車で帰った方がいいでしょ? リョータローも疲れてるだろうし」
おいおい。何で今日は謙虚なんだよ。いつもなら「送るのが当然」みたいな事言うのに。
「遅いからこそ送るよ。夜道は危ないし。それは当然の事だ」
そう言うとアヤノは少しだけ悲しそうに言ってくる。
「そう……だね。仕事だから当然だよね……。それじゃあよろしく」
「仕事……」
アヤノの言葉に胸がチクリとした。
元々今日は仕事と言われて、誘導と言われてやって来たのだ。
だからアヤノは仕事のはんちゅうで言ったものだと思っているのだろう。
「アヤノ、そうじゃ――」
「早く行こ。今日は疲れたし」
俺の否定の言葉を待たずしてアヤノはスタスタと歩き出す。
「あ、ちょっと……」
その後をすぐに追って帰路に着いた。
♦︎
会話のないままアヤノの家に着いた。
別に不機嫌な感じではない。アヤノは少しボーッとしながら歩いていた。
その横で俺も考え事をしながら歩いていたので、会話のないまま家に着いてしまった。
このまま雇い主と雇われ主の関係のまま告白しても意味はないんじゃなかろうか。
アヤノは今の状況も俺が仕事だから送っていると思っているし。
仮に今の状態で付き合えたとしても、それはお金をもらいながら付き合っている事になる。
それはアヤノが話をしてくれた、仲良かったと思い込んでいたガキと同じ立場になるのではなかろうか……。
だったら――。
「ありがとうリョータロー。つ、次の仕事は、ま、また今度連絡するね」
「あ、アヤ――」
呼び止める間も無くアヤノは早歩きでマンションに入って行った。
もしかして……。避けられている? いきなり? どうして? いきなり? なんで? いきなり?
もどかしさを感じながらも、アヤノを追いかけようとしたところで「涼太郎くん」と後ろから声をかけられる。
振り返るとそこには仕事終わりだろう、アヤノの父親である秀さんの姿があった。
「今日は花火大会に行くと言っていたな。綾乃を送ってくれたんだね?」
「あ、は、はい」
「ありがとう。もう遅い時間だが、まだちょっと時間もらえないかな?」
「あ、大丈夫ですよ」
「そうか。なら上がってくれたまえ」
「え? えっと……」
避けられている感じのアヤノの所に上がるのは少し抵抗を感じて歯切りが悪くなる。
そんな俺をお父さんは心配して聞いてくれる。
「ん? 無理強いはしないが?」
「いえいえ。全然大丈夫です」
「そうか。では帰ろう」
17
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!
いーじーしっくす
青春
赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。
しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。
その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。
証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。
そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。
深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。
拓真の想いは届くのか? それとも……。
「ねぇ、拓真。好きって言って?」
「嫌だよ」
「お墓っていくらかしら?」
「なんで!?」
純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる