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第49話 花火大会(終)

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 花火大会が終わり、帰りの電車。

 帰りのラッシュは人混みが凄く、寿司詰め状態で、こんなのを毎回経験している会社員の皆様に尊敬の念を送りつつ、アヤノと逸れない様にするという意識が強かったので、まだ心臓の鼓動が早いだけで済んでいた。
 だが、乗り慣れた路線に乗り換えると乗客は落ち着いており、先程までのギュウギュウ詰めが嘘の様に車内はガラガラであった。

 席に余裕があったので、空いていた2人席に座る。
 窓際に座ったアヤノが花火大会で疲れたのか、先程の満員電車で疲れたのか、コックリと船を漕いで眠ってしまっている。

 そんな彼女を見ながら「よく寝れるな……」と言葉をこぼす。

 こちとらアンタの事しか考えられない状態だってのに……。
 しかも、そんな可愛い寝顔見せられたら俺どうして良いか分からないだろう……。

 改めてアヤノを見る。

 あかん! 可愛い過ぎる。似合いすぎている。意識してしまってるから尚のこと、いつもより何倍も可愛いく見えてしまう。
 ロングが好きだと思っていたけど、こんなのショート派に簡単に移ってしまうだろ。何でそんなに可愛いんだよこの野郎。
 
 俺はスマホを取り出して検索をかける。『男 告白 タイミング』と。

 ズラリと色々な記事が出てきたところで、指を止める。

 待て待て待て。別に俺は告白された訳じゃない。
 もしかしたら「勘違いしないで。今後も働いてもらう中で少しでもモチベーションを上げてもらう為にアナタの好みに合わせただけで、恋愛感情とかじゃないから」とかだったらどうする?
 いや、アヤノなら有り得――。

 有り得るか! こんなん普通の奴だったら普通に気がつくわ!
 これで気が付かないのはラブコメの鈍感難聴ハーレム糞野郎だけだわっ!

 俺の為に髪を切ってくれた。俺の好みに合わせてくれた。
 ――勘違いだけど……。でも、それがどういう意味なのか分からない程落ちぶれてはいない。

 女の子があれほど綺麗な長い髪を思いっきり切ったんだ。
 相当の覚悟があったはず。
 だったら俺も覚悟を決めろ。
 一緒に過ごして行く時の中で、アヤノと同じ気持ちになっていたんだろ? だったら腹を括れ! 南方 涼太郎!

 あー……。でも告白ってどうするの? どのタイミング。
 今? この電車でするの? いや、流石に電車で告白は萎えるだろ。
 じゃあまだ? 先延ばしにする? 何処でするのがベスト?

 ああああ……。皮肉にもイライラするラブコメの主人公みたいにナヨナヨしい考えに陥ってしまっている。
 今なら分かるよ主人公達。ヒロインに言い寄られてナヨる君らの気持ちが――。

『――ご乗車ありがとうございます。次は――』

 そんな事をグルグルと考えていると、アヤノの最寄り駅が近付いてきていた。
 ここでアヤノは降りるし、俺も家に帰るならば、ここで乗り換えなければならない。
 まぁアヤノを家まで送るから今は乗り換える必要はないけど。
 つまりはお互い降りる駅に着いたという訳だ。

「アヤノ? もう着くぞ」

 耳元で言ってやると、アヤノのくせにすんなりと目を覚ます。

「もう着く?」
「ほら、ホーム見えて来ただろ?」

 そう言って窓から見えて来たホームを指差すと「そう……」と残念そうな声を出す。
 その残念そうな声は俺と離れたくないという意味で良いのかな? それだったら嬉しいけど。

 ホームに着いて、2人して電車から降りる。

 アヤノは寝起きの為か、目を掻いている。

「ほんじゃ、帰るか……」

 別に言葉にする必要もなかったが、何となく出てしまった。
 その何となく出た言葉にアヤノが反応する。

「家まで――」

 そう言いかけてアヤノは首を横に振った。

「ううん。やっぱり良い……」
「家まで送るよ」
「え?」

 俺の言葉が予想外だったのか、アヤノは目を見開いた。

「でも、もう遅いし、この後すぐに来る電車で帰った方がいいでしょ? リョータローも疲れてるだろうし」

 おいおい。何で今日は謙虚なんだよ。いつもなら「送るのが当然」みたいな事言うのに。

「遅いからこそ送るよ。夜道は危ないし。それは当然の事だ」

 そう言うとアヤノは少しだけ悲しそうに言ってくる。

「そう……だね。仕事だから当然だよね……。それじゃあよろしく」
「仕事……」

 アヤノの言葉に胸がチクリとした。
 元々今日は仕事と言われて、誘導と言われてやって来たのだ。
 だからアヤノは仕事のはんちゅうで言ったものだと思っているのだろう。

「アヤノ、そうじゃ――」
「早く行こ。今日は疲れたし」

 俺の否定の言葉を待たずしてアヤノはスタスタと歩き出す。

「あ、ちょっと……」

 その後をすぐに追って帰路に着いた。



♦︎



 会話のないままアヤノの家に着いた。
 別に不機嫌な感じではない。アヤノは少しボーッとしながら歩いていた。
 その横で俺も考え事をしながら歩いていたので、会話のないまま家に着いてしまった。

 このまま雇い主と雇われ主の関係のまま告白しても意味はないんじゃなかろうか。
 アヤノは今の状況も俺が仕事だから送っていると思っているし。
 仮に今の状態で付き合えたとしても、それはお金をもらいながら付き合っている事になる。
 それはアヤノが話をしてくれた、仲良かったと思い込んでいたガキと同じ立場になるのではなかろうか……。

 だったら――。

「ありがとうリョータロー。つ、次の仕事は、ま、また今度連絡するね」
「あ、アヤ――」

 呼び止める間も無くアヤノは早歩きでマンションに入って行った。

 もしかして……。避けられている? いきなり? どうして? いきなり? なんで? いきなり?

 もどかしさを感じながらも、アヤノを追いかけようとしたところで「涼太郎くん」と後ろから声をかけられる。

 振り返るとそこには仕事終わりだろう、アヤノの父親である秀さんの姿があった。

「今日は花火大会に行くと言っていたな。綾乃を送ってくれたんだね?」
「あ、は、はい」
「ありがとう。もう遅い時間だが、まだちょっと時間もらえないかな?」
「あ、大丈夫ですよ」
「そうか。なら上がってくれたまえ」
「え? えっと……」

 避けられている感じのアヤノの所に上がるのは少し抵抗を感じて歯切りが悪くなる。
 そんな俺をお父さんは心配して聞いてくれる。

「ん? 無理強いはしないが?」
「いえいえ。全然大丈夫です」
「そうか。では帰ろう」
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