上 下
25 / 41

第25話 姫様負けたらなんでもするって言ったよね。言ったよね!(ゲス顔)

しおりを挟む
「なんでリオンくんも補習組みたいに机に突っ伏しているの?」

 学園長から剣を探して来いという指令を受けて絶望しているところに、フーラがふらふらっと俺の席へとやってくる。

「放っておいてくれ。最悪、えげつない恋の手伝いをしなくちゃいけないと思って妄想で精神を鍛えているんだ」

 もし、剣を見つけられなかった時のことも考えておかないとな。

 前世の昼ドラを思い返してもだめだ。それ以上にドロドロの恋模様を生で見なくちゃいけない。

 いや、ドロドロというか、俺へのダメージがただただでかいだけ。

 つうか、なにが悲しくて実父とその元カノのよりを戻さないといけないんだ。

 というか、母上はまだ生きてるんだぞ。そんなの母上が知ったら、それこそえげつない展開になる。

 ま! そもそも俺ってばヘイヴン家を追放されている身なので、父上に接触するのも難しんですけどね。

 あっはっは! 

 剣を見つけられないと詰みますね、これ。

 あかん。だめだ。楽しいことを考えるしかない。もう現実逃避しよう。

「あは、あはは、ああはははー」

「なにがあったの?」

 フーラが俺を指差し、ヴィエルジュへ首を傾げる。

 机に突っ伏して現実逃避する前に、ヴィエルジュには説明をしていたため、彼女が俺の代わりにフーラへと事情を話す。

「先日のフーラ様との戦いに置いて、最後に放たれた大剣が学園長先生の大事な物だったらしく、それを探して来いとの命を受けたらしいのです」

「あー、あの最後の一撃の」

 はいはいはいと納得した彼女は、でもやっぱりと首を傾げる。

「剣を探せって言うのはわかるけど、えげつない恋の手伝いってのはどういうことなんだろ?」

「さぁ、それは私にもわかりません」

 ヴィエルジュが首を横に振るのを見て、俺は遠い目をしてやる。

「お子ちゃま達にはまだ早いから聞くのはやめておきなさい」

 こんな訳のわからないドロドロを超えた暗黒物質みたいな恋愛模様を、純粋無垢な美少女双子が知ることはないさ。

「そ、そう」

 フーラが苦笑いを浮かべて話を変える。

「そういえばリオンくん。約束の件なんだけど」

「おいおい。まさか王族だからって権力を振りかざして勝負をなかったことにするんじゃないだろうなぁ」

「確かに形だけ見れば、いくら試験とはいえ、侯爵家の人間が王族の方に接する態度ではございませんでしたね」

 ヴィエルジュの言葉に俺は頭を抱える。

「ちょっと待ってくれや。確かに忖度はなかったけどさ、これ以上厄介事を増やすんじゃあないぜ。こっちは学園長の件で一杯、一杯なんだ」

「違う、違う」

 フーラはぶんぶんと手を振って否定する。

「試験の時は全力で戦えて嬉しかったよ。それにもうヴィエルジュのことも聞かない。約束だし」

 そうじゃなくてね。と言ってフーラが続ける。

「私が負けたからなんでも言う事聞くって件」

「あ、あー」

 ポンっと手を叩いて思い出す。

 そういえばそんな約束をしていたな。こっちが勝った時の約束のことはすっかり忘れていた。

「ご主人様。えっちなことならヴィエルジュに申してくださいませ」

「え!? リオンくん。私にえっちなお願いしようとしたの!?」

 ササッと身を隠す素振りを見せるフーラに大きく否定する。

「そんなこと頼もうとしてないぞ」

「ご主人様のことです。フーラ様へそれは、んもう凄いことを要求するに違いありません」

「んもう、凄いこと……!?」

 ゴクリと生唾を飲み込むフーラ。

「させません。王族の方にそんなことはさせません。そういうことは専属メイドであるヴィエルジュが身代わりとなります」

「だ、だめよヴィエルジュ。あなたはリオンくんのメイド。反抗できないのを良い事にあんなことやこんなことを要求されるに決まっているわ。勝負は私が負けたもの。私が受けるのが筋ってもの」

 このふたり息ぴったりだな。正体を明かしてないけど流石は双子ってことか。

「だめです。私が受けます。王族は黙っていてください」

「だめよ。私が受ける。メイドは片隅で私の罰を見守ってなさい」

 あっれ。なんか唐突に険悪になっているんだけど。

「というかふたり共。勝手に盛り上がっているが、そんなことを要求するはずないだろ」

「え? しないの?」

 フーラが予想外と言わんばかりの声を出す。

「え? して欲しいの?」

「フーラ様って実は淫乱?」

 うわー。とジト目で見つめるヴィエルジュへフーラがすかさず否定する。

「違うわよ! 元はと言えばあんたが言い始めたんでしょうが!」

「私はご主人様にならなにをされても良いという意味で仰ったのですが」

「むきぃ。むかつくわねー!」

 地団駄を踏んでいる人って初めて見たかも。

「まぁ落ち着けよ、淫乱王女」

「誰が淫乱よっ! というか、そっちはただのスケベじゃない!」

「この年の男子はみんなエロいことしか考えてないぞ」

「それを受け入れるのもメイドの務めです」

「こいつらムカつくー!!」

 段々と姫様のメッキがはがれてきているな。

「というか約束よ、約束。早く言いなさいよ」

 腕を組んで怒ったような顔をされる。

「約束なぁ。なんでも良いと言われても特に思いつかないし、なしで良いよ」

「だめよ。約束を守らないなんてアルバート王家の恥。なんでも良いから言いなさい」

「フーラ様がえっちなことを要求して欲しいだけでは?」

「ヴィエルジュ。なにか言った?」

「おっと、失敬」

 わざとらしく手を口元に持っていくヴィエルジュ。煽ってんなぁ。

 うーん。でも、なんでも良いと言われると困るんだよな。

 大体のことはヴィエルジュがしてくれるので、やって欲しいことというのは別段ないんだよ。

 ──あ、待てよ。

「わかった。それじゃあ、一緒に剣を探すのを手伝ってくれよ」

 我ながらナイスアイディアじゃないか。

 ヴィエルジュに頼もうとしたけど、今日は買い出しに行きたいみたいだったからな。

「剣探し? ええ、良いわ」

 フーラは頷いた後に自分の胸に手を置いた。

「アルバート家の名において必ずあなたの探し物を探し出してみせるわ」

 ドヤぁと決め顔で無い胸を張るフーラ。

 双子なのに胸は似なかったんだなぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...