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第18話 班分けはどの世界でも残酷なもの

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「ほいほーい。みんなー、おっつー」

 担任のカンセル・カーライル先生は相変わらずチャラい雰囲気を爆発させて教室に入って来やがる。

 先生がサングラスにピアスって、前世じゃあり得ないよね。そんなものは教育委員会が黙っていないのだけど、この世界じゃ許容されてるみたいだ。だーれもツッコミなんてない。自由過ぎるだろ、異世界。

「んじゃ、ま、今日は前から言ってた通りに、『班別実技試験』の班決めをするぞぉ」

 昼休みに姫様から宣戦布告された班別実技試験。

 そういえば、入学式の時に学園側から説明があったな。

「アルバート魔法学園は、筆記試験だけではなく、様々な試験があります」

 そんな説明があったのを覚えている。今回の班別実技試験もその様々な試験の内の一つに入るのだろう。

 入学式なぁ。あの日は色々とあったからすっかり忘れていた。

「みんなもうわかってると思うけど、一応、おさらいしとくわなー」

 そう言ってカンセル先生が軽く試験内容について説明をしてくれる。

「班別実技試験はその名の通り、班になって他の班と戦ってもらう実戦方式の試験だ。魔法使いは基本的にパーティを組んで戦うもんだからな。ソロの魔法使いってのはあんまり聞かないね。なんで、これはパーティで戦う訓練ってわけだ」

 班別実技試験の目的をおさらいしてくれると、次に大事なことを教えてくれる。

「最後まで生き抜いていた班は単位獲得。んで班長は学期末の筆記試験全免除だ。負けた班は補習だかんなー。死ぬ気でやれよー」

「ちょっと待ってください!」

 俺は納得できずに立ち上がって先生に異議を申し立てる。

「負けたら補習だけって温すぎるんですけど! 温すぎるんですけど!?」

 こちとら入学早々にハイリスク、ノーリターンの決闘をさせられてんだ。しかも、毎日鬼ごっこ必修だぞ。毎日が死ぬ気なんだよ。なのに班別実技試験はなんでこんなに温いんだよ、こんちくしょーが。

「リオンの言いたいことはよぉくわかる」

 うんうんと頷いてくれているけど、こいつチャラいから適当に見えるんだよな。共感してくれている感じが皆無なんですけど。

「ま、落ち着いてな。今から色々と説明すっからさ」

 先生はそう言って、「ほんじゃ、パイセン達。キャモンヌ」とチャラく教室のドアの方へ呼びかける。

 ガラガラと教室のドアを開けて入って来たのは、同じアルバート魔法学園の制服を着た生徒達。歩く度に揺れるロングコートの中身が緑色なので、一学年上みたいだな。

「こいつらは去年、班別実技試験の補習を生き残った奴等だ。見てみ、面構えがちげー」

 言い方がなんだか不穏だね。補習で生き残るってなによ。面構えが違うってなによ。確かに苦難を乗り越えた面はしているけども。

「あんまり思い出したくないだろうけど、去年のことをみんなに教えてやってくれよ」

 チャラ男が気を使って優しく言ってのけると、ひとりの先輩が震えながら言ってのける。

「み、みんな、悪いことは言わない……班長だけはやめておけ……」

 ひとりが話し出すと、連動して先輩達が震えだす。

「仲間達が次々と消えていった。主席で入学した班長も消えた」

「あれが本当の地獄。みんな……班は慎重に選んで……」

「わいは、おかんのことをクソババアとか言っておったですが、あの日からママと呼んでおる所存です、はい」

 クラス中がドン引いた。

 人ってあんなに震えるんだって思ったことだろう。

「おっけ。みんなまじサンキュな」

 先輩達が、ズーンと肩を落として教室を出て行った。

 おいおい、肝心の補習の内容が聞けてないぞって思ったが、ここはあえて内容を教えずに恐怖を与えているみたいだな。人間は知らないことに恐怖する生き物だもんね。

「──つうわけで、きみらが来年こうならないようにがんば☆」

 この重くて暗い雰囲気の中で、よくもまぁ陽気に言えたもんだな、このチャラ男様。

「んじゃ班分けなんだけどよ、とりま班長から決めるとすっかー。誰か立候補する奴っていてるかー?」

 カンセルの説明では、班長は学期末の筆記試験全免除とのことだったな。

 しかし、先輩達から班長だけはやめておけとの通達があった。

 あの震え方から班長はかなりのリスクがあると思われる。

 そのリスクの内容がわからないため、みんな警戒状態ってわけだ。

「ご主人様」

 隣の席に座っていたヴィエルジュが小さく呼びかけてくる。

「この学園の学期末の筆記試験は容赦ないとのことです。ふるい落とすための試験とも言われております」

「お、おおん。つまり?」

「ご主人様が筆記試験を通過できる確率はかなり低いと思われます」

「ですよねー」

「でしたら、ここで班長になり、筆記試験免除の方が確率は高いと思いますよ」

「だよなぁ」

 ま、姫様との約束もあるわけだし、俺には班長以外の選択肢はないってわけだ。

 だからフーラ。心配そうな顔でこちらを見ないでくれ。ちゃんと手を挙げるから。

「先生。班長をやります!」

「お、リオンな。やっぱなー」

 なんかチャラ男に見透かされたのはムカつくが、仕方ない。

『騎士の落ちこぼれの上に魔法も使えないくせに班長だと?』

『ふん。先輩達がせっかく通達したというのに、あさはかなだな』

 クラスメイト達は相変わらず俺に辛辣な態度だな。この人達、俺と同じ班になったら協力してくれるのかね。

 それよりも、フーラがニパァっと笑顔になっている。

 姫様、笑顔が無邪気で可愛いな。

「私も班長をやります」

 フーラも手を挙げた。

 おおおおおお!

 クラスメイト達がスタンディングオーバーションを披露しやがる。

 なんなのこの差。あんまり言いたくないけど俺、侯爵家だよ?

 ま、向こうは王族だけども。

「んー。リオンとフーラなぁ。他にはいねーかー?」

 みんな筆記試験全免除よりも先輩達の言葉が気になったのか、俺達の他には誰も手をあげてなかった。

「おっけー。ほんなら今からリオン班とフーラ班に分かれてもらうぞー。あ、そうそう。アルバート魔法学園は生徒の自主性を重んじる。ま、要は好きな班長のところに行っておっけーってわけだ。人数制限はないからなー」

「はい?」

 人数制限なし? おいおい、そんなのアリなの?

 ゾロゾロとクラスメイト達が移動していく。

 みーんなフーラの方に行っちゃったよ。

 俺のところへ来てくれたのは、元々隣に座っていたヴィエルジュだけ。

 結果は言わずもがな。

 俺の班はヴィエルジュのみ。

 フーラの班はその他のクラスメイト。

 なんですか、これ?

 班決めは平等にしろよ、ふざけんな。

 んで、カンセル先生。あんたはなにをケタケタと大笑いしてんだ。あんた本当に先生かよ。
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