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第13話 学園青春ラブコメ編スタート☆とか思っていた時期がありました

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 真新しい制服に身を包む。

 まだ着慣れない生地は違和感があるけれど、こらから毎日着ていけば馴染んでくれるだろう。

 ワイシャツにネクタイにパンツ。

 至ってシンプルな学生服だが、ワイシャツの上から黒のロングコートを羽織ると、アルバート魔法学園に通う生徒の完成だ。

 このロングコートは裏地が赤色なのが特徴だね。ちなみに赤色は今年度の一年生の学年カラーらしい。

 ふむ。馬子にも衣裳とは言ったもんだ。

 俺みたいな騎士の家系の奴でも身なりだけは魔法使いっぽく見える。

 懐に忍ばせた杖を握ると更に魔法使い感が強くなった。

 中身は魔法も使えないただのポンコツだけども。

 姿鏡で自分の格好を確認していると、コンコンコンと寮にある俺の部屋のドアがノックされる。

「はいはーい」

 大方、誰が来たのかわかりきっているノックの相手へ声を出しながらドアを開ける。

「……ぉぉ」

 ドアを開けたところで、予想通りの相手が立っていたのだが、それでも驚いた声が出てしまった。

「ご主人様?」

 ドアを開けて固まった俺に対し、ヴィエルジュは可愛らしく首を傾げる。

「あっと、悪い。メイド服以外のヴィエルジュを見るのは久しぶりだったから、ついな」

「似合っておりませんか?」

 心配そうな声を出すヴィエルジュへすぐに否定してやる。

「とんでもない」

 女子はパンツではなくてスカートだが、俺とほとんど同じ制服だってのに、この子だけハイブランドを身に纏っているかのように見える。

 元が良すぎるからだろうね。

 流石は我がメイド。

 ヴィエルジュはヴィジュアルもチートだわ。

「とても似合っている。可愛いよ」

 これ以上ないシンプルな感想を述べると、「えへへ」とはにかんでその場をくるりと回る。

 スカートがひらりとして、ピンクのパンツがおはようをしてくれた。

 朝からラッキースケベを頂戴しましたね。

「ご主人様? なにをしみじみと頷いておいでで?」

「いや、なに。これから始まる学園生活を謳歌するのに相応しい朝だと思ってな」

 ヘイヴン家を追放された時はまじで詰んだと思ったが、こうやって無事にアルバート魔法学園に入学できた。

 入学できたってんならこっちのもんだ。

 後はステラシオン騎士学園の時に計画していたことを実行するまでよ。

 日陰でコソコソ単位を取って卒業すりゃ進路はなんとかなんだろ。

 魔法は使えないが、俺には魔法最強のヴィエルジュがいる。

 試験だのなんだのはこのチートメイドに寄生すりゃなんとでもなるだろうよ。

 あとは学園ラブコメよろしく、メイドと楽しく学園生活を謳歌するまでだ。

 リオン・ヘイヴンの青春学園ラブコメ編、開幕!

 ♢

 とか思っていた時期が俺にもありました。

 入学式が終わり、俺に割り振られた一年一組の教室の端っこの席で頭を抱える。

『なんでヘイヴン家の落ちこぼれが……絶対に不正を働いたに違いない』

『あんな魔法も知らないゴミが由緒正しきアルバートにいるのは苦痛でならんな』

『まぁそのうち消えるさ。優秀な魔法の家系の奴等でもポンポンと退学していくんだ。あんな雑魚がこの学園で生き残れるわけがない』

 辛辣ー。

 新学期早々嫌われてるなぁ。ま、侯爵騎士家の恥さらしが由緒正しきアルバート魔法学園に入学したら、魔法の家系の者としては良い気はしないわな。

 ちなみに、あんなモブクラスメイト達の言葉で頭を抱えているわけでは断じてない。

 この学園には退学制度があり、基準値を満たさない者は容赦なく退学処分を受けることになる。

 実力主義のこの学園はあくまでも魔法学園。魔法での実力を示さなければならないらしい。

『他人の力を使って試験を受けよう者は即刻退学とする』

 入学式での学園長の言葉。あれって俺に言ってない? なんか目が合ってたし。気のせいにしては俺を睨んでいた気がするんだけど……。

 ちょ、待って。これ、呑気にメイドと学園ラブコメ繰り広げてたら退学になるんじゃない?

 退学ってことは寮を追放。寮を追放ってことは路頭に迷う。

 ガッデム。うそやん。

 くそが! 騎士学園なら剣の腕さえ良ければ誤魔化せたが、魔法を使えない俺はメイドに寄生するしかないってのに、それすら規制されたらもう帰省するしかねぇ。

 いや、だから、帰省する家もねぇんだよ、ちくしょうがっ!

「ぅああああああ」

「朝の爽やかなご主人様がうそのように項垂れていますね」

 この学園の席に指定はない。自由に座って良いみたい。

 俺の隣に座ってくれたヴィエルジュが、朝の様子を思い出しながら言って来る。

「今のままじゃ魔法を使えない俺は退学になっちまう」

「大丈夫です」

 ニコッとヴィエルジュがエンジェルスマイルを作り出す。

「ご主人様を退学処分にした場合、私がこの学園を破壊します」

「天使の面した悪魔がここにいるんですけど」

「寮の部屋割りは甘んじて受け入れましたが、ご主人様を退学など許せませんからね」

「きみの場合、本当にやりかえないからな」

 流石にヴィエルジュに学園破壊をさせるわけにはいかん。

 試験までに魔法を使えるようにしないとな。

 退学になったら侯爵家を追放されている俺達は路頭に迷うことになる。

 俺だけならまだしも、俺に付いて来てくれているヴィエルジュにそんな不憫な生活を送らすわけにはいかない。

 ああ……これなら素直にステラシオン騎士学園に入学した方が良かったなぁ……。

「ぬぅ、ああ……」

「まぁまぁ、大丈夫ですってご主人様なら」

「うちのメイド様はいつまでも楽観的なこって……」

『おはよう』

 頭を抱えているところに、どっかで聞いたことのあるような女の子の声が聞こえてくる。

 ヴィエルジュと共に声の主を見た。

 俺達に挨拶してくれたのは、ピンクの長い髪の美少女、フーラ・アルバートだ

『あの雑魚、姫様に挨拶されているぞ』

『姫様! おやめください! そんな下等な生物に話しかけるとけがれてしまいます』

 周りの声を無視してフーラは普通に話しかけてくれる。

「この前、レストランで会って以来だね」

 ヴィエルジュは二度目の双子の姉さんとの対面だが、やはり視線を逸らしてしまっていたな。

 やはり真実を姫様に打ち明ける気はないってこったな。

 仕方ない。姫さんやい、ここは魔法も使えない雑魚との会話で我慢してくれ。

「あの日以来ですね姫様。申し遅れました、私はリオン・ヘイヴンと申します。以後お見知りおきを」

「フーラ・アルバートだよ。早速なんだけど固い口調はなしにしよ。王族とか貴族とか以前に私たちはアルバート魔法学園の生徒で、クラスメイトなんだしさ」

 なんともまぁフランクなお姫様なこって。

 しかし、それはこちらも好都合。ガチガチの敬語ってのは苦手なんだよね。

「おっけー。わかった。改めてよろしく、フーラ」

「うん。よろしくね、リオンくん」

 互いに自己紹介を済ますと、彼女はチラッとヴィエルジュを見た。

「ヴィエルジュもよろしくね」

「よろしくお願い致します」

 以前に名乗っていたのを覚えていたフーラが、改めてヴィエルジュに挨拶をしてみせた。

 だが、この間と同様に気まずい雰囲気が残ったまま鐘の音が鳴り響く。

 あー。まさかお姫様と同じクラスとはな……。メイドも元姫だし、俺ってばお姫様に縁でもあるのかねー。

 厄介事が起こらないと良いけど、なんて思っていたところにだ。

『リオン・ヘイヴン。きみに決闘を申し込む』

 なんで俺は入学初日に決闘を申し込まれてんだよ。
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