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23  惚れ薬

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「ノイス…」

ええっ。まさか鉢合わせるなんて…。
金髪に黒い浴衣姿で俺の名前を呼ぶのは間違いなくルークだ。
隣の美女は彼の腕にしっかりと抱きついている。なんとなく視線を外した。

「ルーク偶然だね」

話しかけていいのかわからないけど他人のふりをするのもどうかと思って挨拶をした。彼は俺を一瞥すると、隣にいるロウに視線を移す。
ロウもまたルークをじっと見ている。

「そちらは?」

「あ、ぇっと…」
これはかなり良くない状況だ。ルークはなんとなくロウのことをよく思っていないみたいだし、ロウにも彼を知られたくない。

「3年のロウです。ノイスの友達です」

俺が紹介するより先にロウが名乗った。

「ロウ…あぁ…なるほどね」
あぁもう時既に遅し。対面してしまった。

「ロウ、こっちは友達のルークと恋人のシャーロットさん」

だから仕方なく紹介することにする。婚約者さんはメイドさんの声の低さに驚いたのだろう。ロウのことを凝視している。

「じゃ、じゃあ、俺たちはこれから客引きしないといけないから!」
俺はロウの手をつかんだ。長居は禁物だ。

「またね」

そう言ってそそくさとその場を去った。





「ルーク先輩と知り合いだったんだ」

やっぱりロウも学校の有名人を知っていたようだ。

「どこで知り合ったの?」

現在、理科室にいる。ここは文化祭で使われていない部屋のようで誰一人としておらず暗かった。

ロウはどうしてもメイド服が気に食わないらしく着替えたいと申し出た。体操服を取り出しジャージを広げている。

「えっと…妹と仲良かったみたいで…それでかな…」

「へぇルーク先輩と妹さんがね…」

「そ、そうそう」

嘘だ。あまり触れてほしくない話題だからそっと話を逸らすことにした。

「それより見てよこれ」
俺はポケットからさっき買ったカラフルな飴を取り出し見せびらかした。

「なんだそれ」

彼はウィッグを外しながらこちらをちらりと振り返った。

「なんか美味しそうな飴でさ、売ってたんだ。何味かな。食べてみよっと」

袋を破り口に放り込んでみた。一口で食べれるほどの小さな飴だ。

「んーなんか変な味する…」
しかしそれはお世辞にも美味しいと言えるものではなかった。複雑な味でなんとも表現しにくい。

「あまり変なもの食べるなよ」

ロウはジャージの下を履き、スカートを脱いだ。

すると目の前がぐにゃりと歪んできた。
あれ…。まるで眠りに落ちるようなそんな気分だ。
ふわふわとしていて…。
俺は立っていられなくて椅子に座り込んだ。




「ぉ…ぃ…ょぶか?」

「ぉ…」

「おいっ!ノイス!」

はっ。目を開けるとジャージ姿のロウがいた。彼は心配そうにこちらを覗き込んでいる。

「あ…れ…俺…」

「突然ぐったりしたからどうしたのかと思ったけど…大丈夫か」

「…っ」

あれ?何故かわからないけど心臓がすごくドキドキする。顔をあげると彼の整った顔がすぐ近くにあった。
艶のある黒髪、きめの細かい肌、綺麗なはちみつ色の瞳、形のいい鼻と唇、見た目に反して少し低い声、全てが魅力的に映る。

俺は椅子から立ち上がると彼に抱きついた。

「ロウっっ」

「はっ…えっ?え?」

「ろうっっ大好き!」

「うっうわぁっ」

いきなり飛びつかれた彼はそのまま床に倒れこんだ。それでもお構いなしに彼にひっつく。
ギュッと抱きしめ胸に頭を埋めるといい匂いがした。

優しい柔軟剤の香りだった。

「んんっすきっ」

「のの…ノイス??」

「へへっ」

「あ…もしかしてお前…ちょっと手広げてみろ」

「くすぐったいって…あははっ」

彼は強引に俺の手首を掴むと握りしめた拳の指を一本一本剥がしていった。

「あははっ」

「こら、ノイス指戻すな」

「やーだっ」

「はい、じゃんけんっ」

「ぽいっ!」

俺がパーを出すとロウは手から落ちたゴミを拾った。それはさっき食べた飴のゴミだった。

「見てみて俺の勝ちぃっ!」

じゃんけんするだけなのにすごく楽しい。
もっとかまってほしい。

「ローウぅ」
俺は彼の頬を指でつついた。

「やっぱり惚れ薬か…」

「惚れ薬ってなに?」

「知らないのに買うなよ…これは飴じゃない。よくイタヅラで使う薬だよ。飲むとしばらくの間目の前の相手が好きになる。まぁ、同性にしか効果ないけど」

「そっかぁ」
よくわからないけどなんでもいいや。

「ロウかまって!!」

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