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10 王子様の独占欲

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「はぁ…」

 一体俺はどんな顔すればいいんだよ。

 翌日もリアラと同じ部屋で過ごしていた。今日は執事がクッキーを持ってきてくれたので俺はそれを頬張っている。

 やはりお城のクッキーは美味しい。庭で取れたハーブが練り込んであるらしく香りが良かった。

 ちらりとアルビノ猫を伺うが、彼は今日もまた読書にふけっていた。昨日の従順作戦と二人をくっつける作戦は失敗に終わった。これからどうしようか。

 正直、何度体を重ねても王子に対する愛情は一ミリも芽生えなかった。いわゆるセフレというものに近い気がする。ただ体の相性は抜群にいいから俺も悪い気はしていない。

 でも、リアラが王子のことを好きなのを知っているから王子にはできるだけ早く飽きてもらわないといけない。

 次またヤりそうな雰囲気になったら拒絶したほうがいいのだろうか。でも魔法をかけられてしまっては抵抗のしようがないし…。

 もしくは逃げ出してみる?いや、扉には結界がかけられていてそれは叶わない。

 もしも俺が囚われのお姫様なら王子様か勇者が助けに来てさらってくれるのだろうか。そんな空想をぼんやりと思い描きながらクッキーをつまんでいると…。


 ピクリとリアラのふわふわの耳が揺れるのが視界の端に写った。

 なんだ?誰かが近づいてくる。獣人にしかわからないかすかな気配だが足音がする。それを彼も感じ取ったのだろう。
 執事ではない、何者かがこの部屋に向かってきている。

 ふんわりといい香りもした。なんだろう。懐かしいような。温かくなるようなそんな香りだった。

 俺はドアの方をじっと見つめた。するとリアラは慌てて本を閉じ、立ち上がる。

「鼻つまめ!」

「え?」

 なんのことがわからなかった。その瞬間、勢いよく扉が開かれた。入ってきたのはこれまた美しい男だった。

 この城の顔面偏差値は高すぎる。男は金色の髪の毛に高い鼻、そして赤い瞳をしていた。高身長でスラッとしていて甘い顔。文句のつけようのないイケメンだ。


 あれこの顔どこがでみたことがあるような…。

 金髪の男は部屋に入ってくるなり、ニカッと満面の笑みを浮かべた。

「白猫ちゃん~元気でしたか?」

 そしてリアラのもとへジリジリと近づいていく。リアラは後ろへと一歩一歩下がった。

「この前来るなって言っただろ!この変態が!!」

変態…?

 男が部屋に入ると、甘い香りがあたりに充満した。なんというかおひさまのような優しい香りだった。頭がぼーっとして部屋の隅に座ったまま彼らを見つめた。

「変態じゃないですよ。ほら今日ももふらせてください」

「やめっ」

 頭がくらっとして、次の瞬間、俺はそのおひさまの香りに抱きついていた。

「わっ君は…クロネコですね…」

 すごくいい香りだ。スンスンと音をたてて彼の服の香りを吸い込んだ。

「ん…」

「なんかよくわからないけど気持ちいい…」








 骨ばった手が優しく頭をなでる。俺とリアラは金髪男を真ん中にしてソファーに座ると、男の膝に頭を預けた。

「んーにゃぁ」

「にゃぁ♡」

「可愛い…ここはやはり天国ですね」

 優しいひだまりに包まれて幸福感で胸がいっぱいだった。

「白猫くんに黒猫くんまで…!感動です。あー癒やされる。やはり服に猫好みの匂いをつけてきて正解でした」

「僕、ライさんのことずっと待ってたんだよ。全然遊びに来てくれないじゃん」

 リアラが少し不貞腐れたように金髪男にそういった。

「ごめんねー仕事が最近本当に忙しいんです。レオも不眠不休らしいし」

「僕より仕事が大事なの~?」

「そんなことないです!」

「ライ、さん?手、止まってる」

 髪をサラサラ撫でる手が止まったことに不満を告げると、ライと呼ばれた金髪の男は目尻を下げた。

「ごめんなさい。もっと撫で撫でしますね。君の名前は?」

「クロ」

「なるほど、君もレオのペットなんですか?」

「んーそう」

「へぇ…レオのやつ本当に羨ましいなぁ」

「僕はライ、レオの兄です。極度の猫好きでこうしてたまに遊びに来てはモフらせて頂いてるんです」

「ふーん」

 あのイカレ王子にも兄貴がいたんだな。なんとなくだけど一人っ子だと思ってたが。
 ライはレオと違い真面目で人当たりが良さそうだった。そして何より獣人の扱い方がとても上手い。

 気持ちがいいところを絶妙な力加減で撫でてくれるからずーっとこうしていたくなる。いい匂いするし。

 俺はスリスリとライにすり寄った。

「気持ちいいな…」

 俺はお兄さんの優しい手つきと声にウトウトしかけていた。

「か、かわっ…!!甘いフェイスのリアラくんと、キリッとしたツリ目のツンデレクロくん…あー幸せです。もう死んでもいい…はぁ…」

「なら死んでみるか?」

 その時、一瞬誰のかわからない低い声が部屋に響いた。

 俺はハッとして顔を上げた。するとソファーの後ろになんと王子が立っていた。

「ひっ…っ」

 彼は真っ赤な瞳で兄を睨みつけていた。その手にはナイフが握られている。そしてナイフの先はライの首にピッタリとついていた。

「あ、え?レオ…?なんでここにいるんですか」

「今すぐ離れろ」

 ビリビリとした電気が彼のまわりを走っていた。さっきまで晴れていた空はいつの間にか曇り大雨が降り始めた。

 ここにいる誰もが同じことを思っていると思う。この状況はかなりやばい…。俺はあまりの魔力のプレッシャーにピクリとも動けないでいた。

 それはリアラも同じらしく、顔を真っ青にさせてその場に固まっている。

「レオ、僕は君のペットを盗もうとしていたわけではありませんよ。ただ癒やされに来ただけです」

 一方ライはイカレ王子の兄である故にこの状況下でもひょうひょうとしていた。愛想笑いを浮かべ両手を上げるとパッと席を立ち後ろに下がった。

 その様子を王子は瞬き一つせずに睨みつけていた。

「…」

 王子がこの部屋にいきなり現れたのはおそらくテレポートしたからだろう。でもなぜこんなに怒っているのかわからなかった。
 自分の飼い猫を触られたことが癇に障ったのだろうか。

 王子はそのまま視線を落とすと俺の方を見つめた。

「…?」

 ゴクリ固唾を飲み込む。

「クロ」

 そして彼はこちらに手を差し伸べた。俺は無意識にその手を取る。すると一回瞬きをした間に周囲の景色が変わっていた。

 ここは…どこだ。俺はあたりをきょろきょろと見回した。どうやら使われていない物置みたいだ。 背後から凄まじい魔力の圧を感じる。案の定後ろにはレオが立っていた。

「クロ、お前は誰のペットなのかわかってないみたいだね」

「…っ」

 王子は地べたに座る俺の髪の毛を軽くつかむと強制的に窓の方に向けさせた。

「ほら見て向かいの部屋には兄さんとリアラがいる」

「本当だ…」

 二人は突然消えた俺たちを探しているのかきょろきょろと落ち着かない様子でいた。なるほど、あの部屋から一瞬でテレポートしたのか。

「随分と仲良さそうだったね」

「え…?」

「膝にすり寄って…誰にでもあんなことするの?」

「いや、そんなわけ…」

「へぇ、じゃああいつは特別なんだ」

「レオ…?」

「クロはあいつが好きなんだね」

「好きとかそういうんじゃねぇよっ」

 王子はその場に屈むと俺に視線をあわせた。その瞳に光はなかった。ただ燃えるような赤い瞳が怖かった。

 兄と仲良くしてたのが良くなかったのか。レオは兄と仲が悪い…?

「クロ」

 レオは俺の首輪を引っ張り自身の方へ手繰り寄せた。

「お仕置き」

「…っ」
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