上 下
14 / 52
智紀

緊急事態?

しおりを挟む
「王、大変です! ”繭”から聖神様の姿が消え……!?」


バーン、と扉が開いて。
血相を変えたイリヤが飛び込んできたのは。

ちょうど、今まさに。
挿入される寸前、という状況下であった。


*****


「聖神様を自室へ連れ込んで手篭めにするとは。何を考えているのですか!!」
イリヤはおかんむりだった。

獣の姿だったら、毛を逆立てているに違いない。


イリヤは空を見て。
今日は珍しく天気が曇ってるな、と不審に思い、どうしたのかと僕の様子を見に行ったら、
”繭”のベッドに僕がいなかった。

まさか誰かに攫われでもしたのかと、大慌てでユリアーンやレナート、パーヴェルも呼び出して。
皆で、手分けして捜索していたらしい。


「智紀はもう私のものだと認めたし、伴侶になると言った。……曇っていたのか? 反応があるのが嬉しくて、つい焦らしすぎたか? 今後はそういった駆け引きはなしにするか」
ヴァルラムはマントで僕を包んで、抱き寄せてきた。

やはり、わざと焦らしていたのか。
全く。


「……肉体と魂がきちんと定着するまで、夜の間は”繭”から出さないように、と言ったのをお忘れで?」
イリヤは氷のような冷たい眼差しで王を睨んだ。

「何!? そんなことを言っていたか!?」
「召喚前からも後も、何度も言いましたよ……?」


どうやら、こちらに来て新しく作られた僕の肉体と魂は、まだ深く結びついていないそうなので、しばらくは”繭”のベッドで寝ていた方が安心なようだ。

その話、僕も初耳なのだが。
何故、そういう大事なことを本人に教えてくれないのだろうか。

余計な心配を掛けさせないように、という思いやりだろうか。

ここに来てから、夢を見ているような感じで。
妙に現実感がなかったのは、魂が安定していなかったせいだったのか?

異世界への違和感などではなく。


「……戻るぞ、」
ヴァルラムはマントに包まっている僕を横抱きにすると。

ダッシュで部屋を飛び出した。
裸のままで。


*****


「ヴァ、……服! 服着て!!」
リアル裸の王様だ!

「私の服など、どうでもよい! ……なに、どうでもよくない? む、智紀が嫌なのか? ならば、」
ヴァルラムは狼の姿に変わって。

僕をひょい、と自分の背中に放った。


凄いスピードで廊下を駆け抜けて、神殿に飛び込んで。
まっすぐに”繭”へ向かう。

銀色の風の如く。

あ、ユリアーンが驚いてこっちを見ている。
心配させて申し訳ない。


”繭”に着いて。
ベッドにそっと下ろされた。

「大丈夫か? 具合が悪かったのか? 何かあれば我慢せず、すぐに言うのだぞ」
心配そうに顔を覗き込まれる。

狼のままでも、表情がわかるものなのか。
不思議だ。

「だ、大丈夫……元気、」
問題ない、と思う。


王は、大きな狼の手で、何やら器用にベッドのコントローラーパネルのようなものを操作をしている。
……銀狼の肉球は、黒いのか。

問題ないか、調べているようだ。
この部屋の装置は、魔法というより、機械のような感じなのか?

言葉は理解できるようになったらしいが。残念ながら、文字は読めないようだ。
さっぱりわからない言語が並んでいる。


大きな狼はほう、と溜め息を吐いて。

「……大丈夫なようだ。これからも、決して無理はするなよ。私はもう、そなたがいないと生きていけないのだからな」
キュゥン、と鼻先をすり寄せて来た。

そんな大袈裟な、とは思ったが。
つい、ぎゅっと抱き締めてしまった。

ああ、もふもふ可愛い。


「聖神様に何かあったのですか!?」
ユリアーンが血相を変えて飛び込んできた。

……さっき、無事な姿を見たはずでは?


*****


ユリアーンは、王があれほど必死な形相で走っている姿を初めて見たので。

何かよほど僕に大変な事でもあったのかと思って、心配して駆けつけてくれたようだ。
単に、ヴァルラムが過剰に心配して、急いで戻ってきただけだったのだが。


とりあえず身体に問題はない、と。
ヴァルラムがパネルのようなものをユリアーンに見せた。

あのパネルのようなものは、機械なのだろうか? 発達しすぎた科学は魔術と区別が付かない、というが。
ここは魔法使いも呪医もいる世界である。両方発達している、と考えるべきか。


「はあ、やっと追いついた……」

しばらくして、イリヤが追いついてきた。
豹の方が足が速そうだが。

途中で、捜索に出ていたレナートとパーヴェルとも合流していたようだ。

朝早くから、お騒がせして申し訳ない。
僕のせいではないが。


イリヤが、ことの顛末を皆に説明して。

皆して人騒がせな! 王は聖神を”繭”から連れ出すの禁止! と王を叱っている。
立場弱いな、王様なのに。年下だからかな?


しょぼんと耳を後ろに伏せた様子が何だか可哀想なので。
額の辺りを撫でたら、嬉しそうにもふもふのしっぽを振り出した。

抱き締めたいほど可愛い。


*****


「あの、王は何故、獣の姿のままなのです?」
ユリアーンが首を傾げている。

「裸で飛び出したからじゃないの?」
パーヴェルは察しがいいな。

「でも、王は普段、裸だろうが平気で歩いてますよね」
「むしろ服を着るのが面倒で、よく獣姿で歩いてましたね」
とか言われている。


レナートは獣の姿から裸になったとき、恥ずかしそうだったが。
ヴァルラムは普段から裸族なのだろうか。

あれだけ立派な身体なら、他人に見られても恥ずかしくはないのかもしれない。
偉い人なら、使用人に着替えをさせたりするだろうし。

しかし、一国の王様がお宝をぶらぶらさせて歩くのは如何なものかと思う。


「智紀が、ツガイである私の裸を他人に見せたくないというので、そうすることにしたのだ」
ヴァルラムは得意げに鼻を上げた。

なにやら曲解されているようだが。

得意げな狼が可愛いので許そう。
もふもふ。


「くっ……、毛皮の触り心地なら負けませんよ!?」
イリヤは何を言っているのだろうか。

豹の毛皮はどうなのか、撫で心地に興味はあるものの。

誰とはあえて言わないが、嫉妬する狼族の人がいるので。
豹皮を撫でさせてもらうのはやめた方がいいだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役の弟に転生した僕はフラグをへし折る為に頑張ったけど監禁エンドにたどり着いた

霧乃ふー  短編
BL
「シーア兄さまぁ♡だいすきぃ♡ぎゅってして♡♡」 絶賛誘拐され、目隠しされながら無理矢理に誘拐犯にヤられている真っ最中の僕。 僕を唯一家族として扱ってくれる大好きなシーア兄様も助けに来てはくれないらしい。 だから、僕は思ったのだ。 僕を犯している誘拐犯をシーア兄様だと思いこめばいいと。

性的に奔放なのが常識な異世界で

霧乃ふー  短編
BL
幼い頃、ふとした瞬間に日本人の男子学生であることを思い出した。ファンタジーな異世界に転生したらしい俺は充実感のある毎日を送っていた。 ある日、家族に成人を祝ってもらい幸せなまま眠りについた。 次の日、この異世界の常識を体で知ることになるとは知らずに幸せな眠りに微睡んでいた……

異世界で妊活始めてみました

霧乃ふー  短編
BL
僕は別に神様とかに呼ばれた訳でもないのに、異世界にトリップすることになった。 異世界生活にもだんだん慣れた頃、恋人でも作ろうかなと思ったけどなかなか出来ない。 それで僕は考えた。 ーー誰かに種付けして貰おう、と! 庭師?×転移者

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

イケメンエルフ達とのセックスライフの為に僕行きます!

霧乃ふー  短編
BL
ファンタジーな異世界に転生した僕。 そしてファンタジーの世界で定番のエルフがエロエロなエロフだなんて話を聞いた僕はエルフ達に会いに行くことにした。 森に行き出会ったエルフ達は僕を見つけると……♡

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】寝る前に自家発電して下半身丸出しのまま眠ってしまった俺が、朝起こしに来た幼なじみに美味しく頂かれてしまう話

ルコ
BL
 「ん、んんっ?んあぁぁぁっ??!」 俺、須藤 芽生(すどう めい)16歳。 朝、目が覚めたらなにやら下半身(局部)が湿った温かい何かに包まれていて、しかも時折絡み付くように吸引されている? ん~尋常じゃないほど気持ちいい・・・も、もしや、俺、フェラチオされちゃってる?!えっ、えっ??夢にまで見たフェラ初体験中??! う~む、あり得ない。ならこれはやっぱり夢か?夢だよな??夢にまで見ちゃってるんだよ。て事は俺の欲望が反映されているはずで・・・なら、今俺のモノを咥えているのは、昨日寝る前に自家発電のおかずにしたエロ動画「せーえきごっくん♡まりあちゃん♡♡」のまりあちゃんだろ?!あぁ・・・まりあちゃんが俺のを・・・  そう思って目を開けると、俺のチンコを咥えていたのは幼なじみの瀬名 樹(せな いつき)だった。 ーーーーーーーーー  タイトルそのまんまです! R18には*を付けます。て、ほぼ付いてますねw 三万字くらいの短編です(番外編を入れると四万字くらい?)。勢いだけで書きました。

召喚先は腕の中〜異世界の花嫁〜【完結】

クリム
BL
 僕は毒を飲まされ死の淵にいた。思い出すのは優雅なのに野性味のある獣人の血を引くジーンとの出会い。 「私は君を召喚したことを後悔していない。君はどうだい、アキラ?」  実年齢二十歳、製薬会社勤務している僕は、特殊な体質を持つが故発育不全で、十歳程度の姿形のままだ。  ある日僕は、製薬会社に侵入した男ジーンに異世界へ連れて行かれてしまう。僕はジーンに魅了され、ジーンの為にそばにいることに決めた。  天然主人公視点一人称と、それ以外の神視点三人称が、部分的にあります。スパダリ要素です。全体に甘々ですが、主人公への気の毒な程の残酷シーンあります。 このお話は、拙著 『巨人族の花嫁』 『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』 の続作になります。  主人公の一人ジーンは『巨人族の花嫁』主人公タークの高齢出産の果ての子供になります。  重要な世界観として男女共に平等に子を成すため、宿り木に赤ん坊の実がなります。しかし、一部の王国のみ腹実として、男女平等に出産することも可能です。そんなこんなをご理解いただいた上、お楽しみください。 ★なろう完結後、指摘を受けた部分を変更しました。変更に伴い、若干の内容変化が伴います。こちらではpc作品を削除し、新たにこちらで再構成したものをアップしていきます。

処理中です...