上 下
30 / 64
魔王への試練

勇者との再会

しおりを挟む
「勇者様は、十年くらい昔から、ここの救世主だったんだ。おかげで魔族が減って、治安がよくなって、このリンデンは豊かな町だった。……でも、殺しすぎたんだ。最近は特に、何かにとり憑かれたように魔族を殺してた。悪鬼になるのも時間の問題じゃないかな。ここにはもう魔族が出なくなったから、屋敷を売り払って、他の町に行ったよ。兄弟から、今は西の町にいるって聞いたけど……」

NPC、もといナイは四つ子で。東西南北、各方面の町の案内をしているという。
名前はそれぞれ、ミチ、サキ、アン、ナイ。

お、おう……頑張れ。


「勇者様がいなくなってから、ここも治安が悪くなってしまったんで、おれも転職を考えてるんだ。……この状態で、再び魔族が襲ってきたらひとたまりもないよ」
と、ナイは肩を震わせた。

「ありがとう、ナイ。俺は勇者様に用があるんだ。……これ、何かの役に立てて。すぐにでもこの町からは逃げたほうがいい」
50モッコリと、100モッコリで売れる宝石の入った袋を握らせた。

「ちょ、これ、いくらなんでも多すぎだよ、」


……こんなんじゃ、少なすぎるくらいだ。
あまり大金すぎても、そのせいで襲われたりしたら、悪いから。


†††


通路から、一度魔界に戻った。
見送ってくれた魔族がまだいて、ぎょっとした顔をした。

『魔王様、お早いお帰りで……、』


「悪竜公に伝えろ。勇者はもう北にはいない。俺は西に向かうと!」
伝えてすぐ、西に移動したら。

『魔王様!』
バルトが出迎えてくれた。

『火急の御報せがありまして、直ぐにも御元へ馳せ参じようと思案していた次第で、』


西の町周辺に勇者が現れて。
中級魔族の中でも高レベルだったカーミラが退治されたという。

ナイの兄弟の話は正しかった。


「新たに魔族を送るのは取りやめ、できるものは魔界へ帰還させろ。すぐに向かう。通路はどこだ?」

『はっ、こちらへ』
案内されて。


急いで人間界へ向かった。

通路から出ると。
ギャイィィィン、と空気を震わせるような、物凄い力で刀を打ち付けあう音。


真紅のマントをはためかせ、白馬に乗った白い騎士の鎧を着けた男と。黒い騎馬を繰る、首のない黒い騎士の魔族、デュラハンが戦っていた。

すごい。
人間が、上級魔族を圧倒してるなんて。

などと、見事な剣技に見惚れている場合じゃなかった。

……げっ、デュラハンのHPがヤバい! 見れば、レッドゾーンに突入している。

リオンは無傷だというのに。
圧倒どころか一方的だ。上級魔族が瀕死の重傷じゃないか!


†††


「やめろ!」
二人の間に割って入り、両方の剣を篭手で受け止めた。重い。

瀕死のデュラハンは、すぐに魔界へ次元移動させた。HPの回復まではしてやれなかった。ごめんな。


……うわ、魔界屈指の硬さを誇るドラゴンの篭手に、ヒビが入ってる。
肉体強化もしておいて良かった。してなかったら、多分骨とか折れてたな。

レベルは俺の方がずっと上だっていうのに。
本気を出した勇者の攻撃、めちゃくちゃこええ。


「……小鳥……?」

まるで悪鬼のような形相をしていた男が。俺を視界に入れた途端、驚いたように目を見開いて。
その身を覆っていたどす黒い殺気が、嘘のように消えていった。

そして、俺の装備を見て。泣き笑いのような顔で言った。
「その服、……指輪……。まだ、身につけていてくれたのだね……?」


……ああ、リオンだ。
俺の知ってる、優しい勇者のリオン。逢いたかった。


「ああ。ネックレスもある、ほら」
ローブから引っ張り出して、見せた。

「その、髪の色は? 瞳も、肌も違うが……、これは、姿変えの魔法?」
頬に触れられる。優しい手つきで。

「そう、姿変えと、気配遮断だ。……急で悪いが。リオンに、大事な話があるんだ。二人っきりになれるとこ、知らないか?」


リオンは、目を瞬かせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ショタ魔王を保護した勇者

ミクリ21 (新)
BL
ショタ魔王を保護した勇者の話。

魔王様はヤンデレ勇者に捕まりました

よしゆき
恋愛
女魔王が勇者に捕まりエロいことをされるだけのお話です。勇者が一方的に魔王に執着・溺愛しています。無理やりですが悲愴感はありません。

明日を夢みる

ふうこ
BL
魔王を倒した勇者は神からの報奨として「力」を求めた。 神は与える「力」を諸事情により人型に固め、その形状を安定させる為とある魂を召喚し楔とする。 これは神により楔として召喚されたとある魂と勇者の物語。

チート魔王はつまらない。

碧月 晶
BL
お人好し真面目勇者×やる気皆無のチート魔王 ─────────── ~あらすじ~ 優秀過ぎて毎日をつまらなく生きてきた雨(アメ)は卒業を目前に控えた高校三年の冬、突然異世界に召喚された。 その世界は勇者、魔王、魔法、魔族に魔物やモンスターが普通に存在する異世界ファンタジーRPGっぽい要素が盛り沢山な世界だった。 そんな世界にやって来たアメは、実は自分は数十年前勇者に敗れた先代魔王の息子だと聞かされる。 しかし取りあえず魔王になってみたものの、アメのつまらない日常は変わらなかった。 そんな日々を送っていたある日、やって来た勇者がアメに言った言葉とは──? ─────────── 何だかんだで様々な事件(クエスト)をチートな魔王の力で(ちょいちょい腹黒もはさみながら)勇者と攻略していくお話(*´▽`*) 最終的にいちゃいちゃゴールデンコンビ?いやカップルにしたいなと思ってます( ´艸`) ※BLove様でも掲載中の作品です。 ※感想、質問大歓迎です!!

【R18】激重勇者の運命論は~気弱な魔法使いですが、このたび激重勇者に捕獲されました~

夏琳トウ(明石唯加)
BL
ジェリーは魔法使いだ。実家での扱いが原因で気が弱く、自己肯定感がとにかく低い。ある日、師匠であるアクセルにとある仕事を任せられることになる。 それは――勇者に同行し、魔物退治をするというものだった。 正直気乗りはしないが、自分を救ってくれた師匠のため……と、その仕事を受けることにしたジェリー。 勇者キリアンとの関係も、初めはぎこちないものだった。でも、『とある出来事』からキリアンの態度は百八十度変わってしまって……? 「俺の愛を受け取ってくれなきゃ、世界なんて救わないから」 「本当のことを言えば、ジェリー以外いらない」 重すぎる愛情を向ける最強勇者さん×気弱で自己肯定感底辺の魔法使い。 ――この関係は、運命ですか? ―― ※公開初日と翌日は4話ずつ更新、以降毎日2~3話更新です。 ■第12回BL小説大賞応募用の作品です。その1 ■hotランキング 51位ありがとうございます♡ ■表紙イラストはたちばなさまに有償にて描いていただきました。保存転載等は一切禁止になります。 ■掲載先→アルファポリス(先行公開)、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの
BL
日乃本帝国。日本によく似たこの国には爵位制度があり、同性婚が認められている。 ある日、片田舎の男爵華族・柊(ひいらぎ)家は、一通の手紙が原因で揉めに揉めていた。 それは、間もなく成人を迎える第二皇子・日乃本 義(ひのもと ただし)の、婚約者選定に係る招待状だった。 参加資格は十五歳から十九歳までの健康な子女、一名。 日乃本家で最も才貌両全と名高い第二皇子からのプラチナチケットを前に、十七歳の長女・木綿子(ゆうこ)は哀しみに暮れていた。木綿子には、幼い頃から恋い慕う、平民の想い人が居た。 「子女の『子』は、息子って意味だろ。ならば、俺が行っても問題ないよな?」 常識的に考えて、木綿子に宛てられたその招待状を片手に声を挙げたのは、彼女の心情を慮った十九歳の次男・柾彦(まさひこ)だった。 現代日本風ローファンタジーです。 ※9/17 少し改題&完結致しました。 当初の予定通り3万字程度で終われました。 ※ 小説初心者です。設定ふわふわですが、細かい事は気にせずお読み頂けるとうれしいです。 ※続きの構想はありますが、漫画の読み切りみたいな感じで短めに終わる予定です。 ※ハート、お気に入り登録ありがとうございます。誤字脱字、感想等ございましたらぜひコメント頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

まおうさまは勇者が怖くて仕方がない

黒弧 追兎
BL
百年前に現れた魔王によって侵攻が行われたアルキドセ王国。 国土の半分を魔物の支配下とされてしまったアルキドセ王国の国王はやむなく、国土を分断した。 ------------- 百年後、魔王の座は孫へと譲られていた。 「あー、だる……座り心地悪すぎだろ、」 しかし、譲られた孫であるセーレに魔王の素質はなく、百年間城にも攻めに来ない勇者に驕りきっていた。 ------------- その日、魔王城に戦慄が走った。 勇者が魔王城まで攻め入ったのだ。 「ひ、ひっ……!、よ、よくきたなぁ、っゆうしゃ!」 血の滴る剣を持ち、近づく勇者に恐怖で震えるセーレに与えられたのは痛みではなく、獣の皮の温かな感触だった。 「っかわいい……俺のものにする、っ」 「ぁ、ぇひ!やだやだやだっ、ひ、ぃい……」 理解できない勇者の言葉は死に怯えるセーレを混乱させ、失神させた。 ___________________ 魔王に一目惚れで掻っ攫う溺愛勇者       × 言動が理解できない勇者が怖い卑屈な名ばかり魔王 愛をまっすぐ伝える勇者に怯える魔王のすれ違い、らぶらぶストーリー。

ヒロイン不在の世界で気づいたら攻略対象に執着されていた

春野ゆき
BL
社会人3年目の遥斗は乙女ゲームをすることが密かな趣味だった。 ある日、遅くまで仕事をしていると疲労のあまり職場で倒れてしまう。目を覚ますと、生前プレイしていた乙女ゲームの世界だった! 悪役令息のリュカに憑依した遥斗はヒロインと推しをくっつけるチャンスだと思ったが、ヒロインは攻略対象以外と駆け落ち。攻略キャラとのイベントが何故かすべてリュカに降り掛かってくる。

処理中です...