魔王転生～勇者と魔族と人間と神、男の精気でレベルアップ！？

現世～ゼロの世界

現世にて

空になったカップ酒のビンを、ゴミ箱に向かって放り投げた。

……ナイスシュート。
近頃ゴミ箱が減ってきたもんで、だいぶウロウロ探し回ってしまった。

睡眠不足と運動不足のせいか、余計にアルコールがまわってる。一杯でこれだけ酔えるなんて、俺の体質は経済的かもな。
これからは、財布の紐を引き締めて生活しなくちゃいけないんだし。

なんてったって、俺は今日から無職なんだからな。


……物語のお約束であるなら、ここらへんで自己紹介を入れるべきだろう。

俺の名前は、結城是清ゆうきこれきよ。
明日30歳になる、元ラノベ作家だ。PNペンネームは高田たかだユウキ。
自分の名字と、高田馬場たかだのばばに住んでるから、という理由の、特にひねりもないネーミングだ。

作家業だけじゃ食えなくて、バイトしてたときもあるが。これでも、十数冊の出版物を世に送り出してきた専業作家だ。
……いや、元、作家になるのか。


今から二時間ほど前に、十年付き合ってきた担当から打ち切りを突きつけられてきたばかりだし。


†††


久しぶりに外で打ち合わせをしませんか、なんて誘われて。
……おかしいとは思ったんだ。
いつも担当とはメールでやり取りしてるし。単行本の初校チェックも、郵便かバイク便だし。

前に書いたシリーズ本が重版かかるくらい売れたんで。もしかしたらアニメ化の話があって、その打ち合わせかも、だなんて。
身分不相応な夢を見てしまったもんだ。


俺はここのところ、人気の題材である、異世界ものを連続で書いていた。
だいたい、運悪くトラックに撥ねられて死んだ主人公が異世界に渡り、転生する話だ。

超強い魔法使いの美少年とか美青年に転生してチート生活を送ったり。またはナイスバディの女エルフからモテモテハーレム。
それか、現代日本人が兵器オタクの知識で野蛮人相手に無双、大勝利！　とかいうやつ。

で。
読者と名乗る人から投書があったとか。

「どうして毎回トラックの運転手が主人公を轢くんですか？　運転手や運転手の家族の気持ちを考えてください！」
だってよ。

うっせえわ。
架空の世界のトラック運転手がかわいそう、とかいうクソくだらねえ理由で仕事打ち切られる現実の作家おれの方がかわいそうだろうが！

どうせ、人を撥ねるような運転するトラック運転手なんて、飲酒やスピード違反に決まってんだ。暴走運転するようなカスでも擁護するってんなら、てめえが撥ねられちまえ！　クソッタレが！

あと。
「あなたの作品はちょっと人死にが多すぎます。もっとキャラクターを大事にしてください」
とは、担当から言われた。

流行だからって、ノワール系を頼んできたの、てめえだろうが。寝言ぬかしてんじゃねえよ。
また新しい作品を考えましょう、先生ならやれると信じてます！　なんて嘘くせえリップサービス、信じられっか。どうせ心の底じゃ、打ち切り作家だって笑ってんだろ？　もう何を言われても信じらんねえ。

……残念だが。もう、何も書ける気がしない。作品を書くにあたって、心の中の大事な何かが、ぽっきりと折れてしまったようだ。


三日月ですら、俺を笑ってるように見える。っていうか乱視でかすんで、よく見えないけどな。まだ老眼ってトシじゃないはずなんだがな。

さっきから、担当からメールが来てるって知らせで携帯がチカチカ光ってるが。しばらくはパソコンも携帯も見る気にならない。どうせ、打ち切りの撤回ではないんだろうし。
更に嫌な気持ちになるだけだろ。


……顔でも洗うか。

二車線相互通行の道路。
その向かいに、公園があったが、信号機は遠い。

ゴミ箱を探し回ったせいで、歩くのも疲れた。
この時間なら滅多に車も通らねえだろうし、まあいいか、と。

道路を渡ったところで。


真っ白い光。
耳をつんざくようなクラクションの音と、ブレーキ音が。