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今度はノーティオで

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パラスケヴィの家に着いた。


タキやノエ達はやっぱり、帰りが遅いのを心配してたようだ。
でも、遅くなった理由を説明したら、良かったですね、って言ってくれた。


「しかし、次にご友人を馬車で迎えに行く時は、絶対に、着いて行きますからね」
と念を押すのは忘れなかった。

置いてけぼりにしてごめんってば。


*****


「でも、いいのかなあ」

「何がだ?」
「アナトリコの国的には、俺や徳田さん……仙人みたいに、ここにはない知識を持ってる人って、喉から手が出るほど欲しい人材じゃないの? 俺が依井を連れて帰ったら、捜索しただけ損じゃない?」


先日俺が何気なく言った温室栽培も、すでに実験段階に入ってて。
それが上手くいきそうだという話で。

これが本格的になれば、輸入に頼らなくても暖かい地方の植物を栽培可になる。
少なからず、輸入と輸出のバランスが崩れるんじゃないかな?


「……レオニダスは、国益より何よりも、スオウの信頼を得ることを選んだのだろう」

「俺の?」
レオニダス王は立派な国王だなって信頼なら、とっくにしてるけど。

「俺に信頼されて、何の得があるの?」


俺はヴォーレィオ王国の王子であるゼノンの伴侶だし。
仲良くなっても、アナトリコの国益になることは言わないと思うけど。

そう言うと。
ゼノンははあ、と大きな溜息を吐いた。

「全く、厄介なのに目をつけられてしまったな……、これもスオウが自然体で魅力的な故か……」
何言ってんの?


それにしても。
中学生の時からの友人に、猫耳猫しっぽの女装姿、しかも王子様にお姫様抱っこされてる姿を見られてしまったという現実。

しょうがなかったとはいえ。
ゼノンとえっちして猫になってこっちの言葉がわかるようになった、なんて話を人前で話してしまった。

冷静になってみれば、恥ずかしすぎる……!


ゼノンは仕事場に行ったから、俺も図書室で勉強したいところだけど。
今日はふとんにダイブして、ふて寝することにする。


でも、大きなベッドをいくらゴロゴロしても、恥ずかしさは消えないのだった。


*****


「ええっ!? 今度はノーティオで”耳の無いヒト”が見つかった!?」


ヴォーレィオには徳田さんと俺。
アナトリコには依井。

アドニスも、探してくれたんだろうけど。
短期間で、異世界人集まり過ぎじゃないか?

それとも、案外異世界の扉ってそんなに簡単に開いちゃうもんなの?
いや、まだノーティオで見つかったのが異世界人だとは決定してないのか。


「ああ。アドニスが確認したので確実だ。ただ、やはり言葉が通じないので……」

そうか。
アドニスは俺がまだ猫じゃない時の耳も見てるからな。

「俺に確認して欲しい、ってわけね。OK」


どうでもいいけど、英語の『OK』ってどういう風に翻訳されてるんだろう。
普通に翻訳されてそう。

カタカナ語を混ぜるギャグが通じないなんて、お笑い芸人には辛い世界だな。


「さすがに、今度も俺の知り合いだなんていうミラクルは無いと思うけど。とりあえず、確認だけしてみたい」
「ああ、では飛竜で行こう」

近衛騎士のタキとノエ、またしてもお留守番である。


「スオウ! またアナトリコに行くの?」
塔へ行くと、アルギュロスが羽根をばたばたさせて喜んで迎えた。

待機時間が多いせいか、お出かけが大好きなのだ。


「今度はノーティオまで乗せてって欲しいんだ」
「もちろん、よろこんで! またおやつもらえるかなあ?」

どうやらアナトリコでもらったおやつが気に入ったようだ。

ゼノンに通訳したら。
おやつをもらえるようお願いしてくれるそうだ。


*****


アルギュロスに乗って、ノーティオへ。


ノーティオへは、カルデアポリを経由して行かないといけない。
カルデアポリまで、馬車だと片道6時間掛かるのが、飛竜だとあっという間だ。

これでは汽車や飛行機は必要なさそうだ。
唯一の問題は乗れる人数が少ないだけで、便利だもん。


……あ、あれがカルデアポリとの国境かな? 
初めて見れた!

アナトリコとの国境ほど厳重じゃないのは、神域だからかな?
神様を信じてないようで、不敬になるから。


カルデアポリに近づいたら、アルギュロスが飛ぶ高度を下げた。

あまり上を飛んだら神様に怒られちゃうからね、って。
あの塔にいる神様に直、お叱りを受けるのか……。

すごい世界だなあ。


この世界は、神様が直接見守ってくれてるから。
天災とか天候が大きく崩れることも無く、ここの人達が生活していけるんだろうな。

これからも見守っていてくれるよう、お祈りしておこう。


「ん? 神の塔に、何か祈ったのか?」
「うん。これからもここの人達を見守ってくださいって」

「そうか」
ぎゅっと抱き締められる。

「スオウは欲が無い」


そうかなあ?
何事もなく平和を望むって、かなり貪欲なことだと思うけど。

天災のある異世界から来たからかな?
台風も地震も無いって、凄く幸せな世界だと思うよ。


*****


カルデアポリとノーティオの国境に着いて。

国境で、アドニスが待っていた。
遠目にも鮮やかな、青いマントが翻る。


「おーい、こっちこっち、」
アドニスも飛竜に乗って、”耳の無いヒト”がいる場所まで案内してくれるようだ。

「こんにちわー」
「元気?」
飛竜同士、嬉しそうに挨拶してる。

可愛いな。
言葉がどこか子供っぽいせいもあるけど。

そっちは最近どう? なんて世間話してる。


話の内容をゼノンに伝えると。
友好国のノーティオだからまだいいが、国防的には困るらしい。

飛竜って、空から色々見てるもんな。
でも、言葉がわかる人はそうそういないし、大丈夫じゃないかな?


着いたのは、ノーティオの港町の外れだった。
南の国っぽい、白い砂浜、碧い海が綺麗だ。泳ぎたい……。


その人は、海沿いの、木で作られた小屋に住んでいるらしい。

アドニスが耳を確認するために、じろじろと覗き込んでしまったせいか、警戒されて。
小屋に閉じこもって、出てきてくれないんだそうだ。
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